表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

本日のお仕事は見学です



通常なら誰もいないはずの深夜のオフィス。

しかし今夜は違ったようで、照明の落とされたフロアにガタッという物音が響き渡る。

非常灯に照らし出されたシルエットは二人。

ひとりは机の上に押し倒された男。

もうひとりは、その男を押し倒した男である。


「ま、待ってください部長!なんで…なんでこんなこと…」

「お前が好きだからだ。好きなら欲しくなって当たり前だよな?」

「好きって…、俺たち男同士なのに…」

「男だろうが、俺はお前にしか反応しないんだからしょうがないだろう」

「やっ…!離してください!」


「―――はーい、カット!休憩挟んでから次のシーン行きます」


その一声で、深夜のオフィスは姿を消した。

一気に周囲がざわめきで満たされ、雑多な撮影所の雰囲気が戻って来る。



どうもみなさんこんにちは、山門千鶴です。

今日は執筆をお休みして、撮影現場の見学に来ています。

え?冒頭のアレは何かって?

本日の撮影タイトル「男たちの禁断・オフィスラブ」のシーンの一部です。

もう察している方もいるかもしれませんが、私の先輩である和歌子さんが手がけた作品です。

そう、先日男優のキャスティングについて興奮していたアレです。


「…おー、なんでお前がここにいるんだ?」

「見学です、監督」


現場の隅っこに立っていた私に気づいて寄ってきたのは、この作品の監督である宝条ほうじょうあきらさん。

地味な上に隅っこで縮こまっている私に気付くとは、さすが監督。

宝条さんは、我が社のほぼ全ての作品に携わっているという凄い人だったりする。

私が書いた作品もいくつか担当してもらっていたので、顔なじみだ。


「宝条さん、ゲイものまで見るんですね。驚きました」

「あー…、なんつうか、アイツの書いたものだしな。俺も新地開拓っていうか」


その言葉に、私は「あぁ」と納得して頷いた。

宝条さんは和歌子さんの脚本ほんが大好きだからだ。


「宝条さんは和歌子さんが大好きですもんね」

「はっ!?」

「あぁ、間違えました。”和歌子さんの脚本ほんが”、です」

「そんな大事なところ間違えんな!…まーな、あそこまで変態を前面に出した燃えるプレイは男でも中々書けねぇよ」


AV監督にここまで変態と言われる和歌子さん、恐るべし。


「つか、お前も大概だろ。いくら西村が好きだからって現場まで見学に来るとか…」

「そうですね。それが事実だとすれば自分に引きますね」

「…じゃあなんでお前ここにいんの?」


「―――俺が連れ出したからですよ、監督」


きた。

今日の執筆作業を中断せざるを得なかった元凶。


「鷹藤…お前、まーた山門を連れまわしてんのか」

「嫌だな、監督。俺は後輩の育成に力を入れているだけですよ」

「いや、そもそも部門が違うだろ。お前が教育すべき営業の若いやつはどうしたよ」

「それがすでに俺の手を離れて一人前になってしまいまして」

「いいんですよ監督。最終的には自分の意思でここに来ましたから」


半分無理矢理に連れてこられたのは事実だが、和歌子さんの作るものは何かと刺激が多いし(色んな意味で)、勉強になるかもと思ってついてきたのも事実だった。


「私、飲み物買ってきますね」


とにかく一度ここを離れて今日の出来事を整理することにしよう。

まず、私はいつも通りに出社して、社員が予定を書き込むホワイトボードにいつも通り「デスク」と書いたのだった。

ここまではいつも通り。

けれどその「デスク」の文字は、書き終わった瞬間に、後ろからぬっと伸びてきた手によって消されてしまった。

そしてその手は、マーカーを持った私の手ごとがしっと掴んで予定のところに「外回り」と書き直したのである。

そんなことをする人物は、私の脳内にひとりしかいなかった。

ぎぎぎと音が出そうなほど恐る恐る振り向いたそこには、やはり予想通り意地悪な笑みを浮かべた鷹藤さんがいて。


「おはよう山門。お前、今日は俺と同伴な」


そうして時は流れ今に至る。

来てしまったものはしょうがない。

なぜ鷹藤さんが私を連れてきたのかも考えることもやめるとしよう。

もしかしたら真面目な理由があるのかもしれないし。

そんなことより撮影が中断されている間に、和歌子さんに挨拶しておかなければ。






宝条「…鷹藤、お前好きな子はいじめるタイプだろう」

鷹藤「さぁ?何の事だかわかりませんね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ