一号機開発秘話 (生存の為の2WAY)
「ゴムがはち切れそうだ・・」
「! !」
「カチッ」
「キュルルーン」
健二のその言葉に光一が気付き非常停止ボタンを押した。
光一は技術者が見落としがちな初歩トラブルをチェックする。
「モールド関節内の要因から探る事にしよう。」
「まずパソコンとコントローラを接続してっと・・」
「コントローラとドライバ間のパルス信号は
設定値どおり出力しているな・・ヨシっ」
「次にモーターとドライバ間の電流値に変化は無いな・・ヨシっ」
「モーターからドライバへのエンコーダー信号も・・OK!」
「砦となる逆転防止リレーにも異常は無いっと・・」
「基板回路上の抵抗値は・・回路図面どおりでOK!」
消去法で不具合要因をデリートしてゆく光一。
「モーター駆動系には問題無さそうだ。」
「だとすると、形状記憶ゴムの伸縮性能か負荷電流に問題があるのか?」
それを受け、八木は形状記憶ゴムの電気特性から導かれる試験データーを参考にして説明に入った。
「計測後の一本当たりの負荷電流値は0.3Aです。」
「計測後の伸縮率10%と膨張率10%は当社テストデータに合致しています。」
「宮澤さん。伸縮率に問題は無いです。」
「伸び率はかなり限界に見えますが組織破壊までまだ4%の余力があります。」
「伸縮限界は15%前後になるはずです。」
「そうですか・・」
健二は骨(金属ロッド)と筋肉(形状記憶ゴム)のシンクロシステムについて光一の見解を求めた。
光一はシンクロシステムの原理を解き明かす。
「形状記憶ゴムが自力で金属ロッドを動かすのと同時に形状記憶ゴムに埋め込まれた電流センサーがドライバを通じてAIに信号を送ります」
「同時にAIは関節モールド内のエンコーダーから信号をもらいゴムの負荷電流と対比させながらトラッキング制御してゆきます。」
「これが筋肉と骨のコンビネーションつまりアシスト機能です。」
「電動自転車もアシストスーツも負荷を軽減すると言うよりも負荷を共有している表現の方が技術者的には解り易い表現だと思います。」
光一は開発者らしい口調で二人に説明する。
完全にインプットされたシンクロシステムを右脳で解説しながらも左脳で回路上に落ち度は無いか拾っていた。
「! !」
「分かったぞーー 健二!」
「何だ唐突に・・ビックリするやんか!」
「あなたのそのひらめく回路をプログラム化してみたい・・」
「光一脳の速習システムをロボットに搭載したいといつも思ってたんやで・・」
「やっ、やめてくれ健二、俺は打たれ弱い生身の人間だ・・」
「単に思いつきでの成功確率が高いだけだよ」
「俺はギャンブラー向きかも知れない」
「な〜んちゃって!」
「光一、それも感度良好の人体五感センサーのなす技じゃないっすか?」
「一本やられた。」
「ハハハッ〜」
ピンチをチャンスに変える方法の最初で最大のモチベーション
それは「エブリデイポジティブ」ある。
二人はそれを実践している。
「何だ、そう言う事か〜 俺ってアホねっ」
「現象を一目瞭然で判断できる神がかった技術者にはなれないなぁ〜」
「それも個性だな光一。天は二物を与えずです。」
「才能は知らない所で輝きを保っている。」
「そう・・発掘されていない宝石のように」
「だからお父さんは光一と名付けた・・」
「・・・」
「違うっちゅうに〜」
「健二さん 本日2本目のヒットにはならず・・」
「皆さん それではタネ明かししまぁ〜す。」
「システムの同期化に問題は有りません。」
「ただ・・」
「ただ何だ、光一 早く言えっ」
「・・・」
「モーターの選定ミスどすえ〜」
「やっちゃったんだ。」
「ええ、やっちゃいました健二先生。」
「では今日はお開きでいかがですか?健二先生」
「いいよ〜いいよ〜」
「でもね・・実験時間8時間として時給単価2000円で八木さんと二人合わせて32000円のところ可哀想やから半額の16000円今夜の飲み代として請求しまぁ〜す!」
「弁護人を立てますか?光一さん」
「異議なし 裁判長」
「閉廷でおます。」
「それでは行きつけの居酒屋ROCKSにGO!」