家政婦ロボットと呼ばないで!(恋のキューピット)
「おいっ田所、ピロタが俺を無視して何かし始めているぞ!」
「それを暴走と言うんじゃないですか源田さん!」
「リモートパワーモードで強制終了させる。」
「あれっ?」
「効かない・・」
ピロタは光一を無視し続け、小学生にディスプレイに映し出された女子大生の顔写真をタッチさせていた。
「この女の子だねー。」
「うん!」
「どこがいいのかなぁ〜?」
「すごく優しそうなお姉さんだから!」
「何で優しそうだと分かるのかな?」
「うーん・・それは・・目だよ。」
「そっか目なんだ。」
「ちょっと待ってて・・」
「ピー 只今マイニングデータ分析中・・ピー只今マイニングデータ分析中」
「データ抽出完了!」
「ピー 」
「ガガッ」
「素敵な子を選んだみたいだよ。」
「君には女の子を見極めるチカラがあるみたいだね。」
「この子の名前とメルアドをディスプレイに映し出すからメモしてね・・」
ドドドドドッ
光一と田所はこれ以上の暴走はイベントの障害になる気配を感じてピロタの元へ走り込んで来た。
「光一さん。ピロタの背中の緊急停止ボタンは恐らく彼がプロテクトしているので効かないはず・・」
「ならば、どうするんだ田所・・?」
「いい考えがあります。」
「単なる時間かせぎです。」
「ピロタには音声データを送受信できるLANポートが4個用意されています。」
「その二つがアナログデータを受信できるシステムにしています。」
「これは緊急災害用通信システムのために設けたものです。」
「そっか、ピロタのアナログ音声データを送信してスピーカーに流してやれば、彼の声と重複して何を言っているか分からなくなる。」
「それで来場者は壊れたのかと勘違いしてくれる・・か」
小学生の子供は既に女子大生のお姉さんの名前とメルアドを紙に書き込んでいた。
後にこれが思いがけないハプニングを呼ぶ事になる。
「よーし、音声アナログデータ送信開始」
光一は、ふと考えた。
なぜピロタは女子大生の名前とメルアドしか教えなかったのか。
その先は・・?
「ありがとうございます・・・」
「皆さ・・&#AW@ZXX&&」
「ガーガー」
「キーン」
「それで・・&@@#/&&XX」
ピロタからのスピーカー音声はハウリングによる雑音とかき消し音声で聴き取れるのはもはや不可能になっていた。
「あれーピロタがおかしくなった!」
「どうしたのかなぁー」
「つぶれちゃったのかぁ〜」
「私にも彼氏を紹介して〜ピロタ〜」
もはやピロタは来場者の前では「恋のキューピット」扱いの存在だ。
ドドドドドドドド
駆け込んで来た光一と田所は人だかりを割ってピロタの前に出てゆく。
「ちょいとゴメンね皆さん・・」
「田所!ピロタを抱きかかえるぞー」
「よいしょっと!」
「・・・・」
「光一さんやめて下さい!光一さんどこに連れてゆくのですか!」
ピロタの叫び声は雑音に埋もれて光一達には聴こえない。
「ハイハイ皆さん。ちょっと失礼。」
「皆さん!只今すぐに修復してきますので待っててねぇー」
光一と田所は、皆んなが見ている前でピロタを抱きかかえて楽屋の方に向かって行った。
「早く帰って来てねーピロタくん〜」
ピロタは完全に恋のキューピットと言うアイドルロボットに変身していた。
楽屋までたどり着いた光一は雑音となるアナログ音声データから解放されて自分の主音声だけで光一と会話する。
「光一さん 何かあったんですか?」
「何もないよピロタ」
「いえ、光一さんは嘘をついています。」
「何で嘘だと思うんだ?」
「私を連れ去る人は悪い人」
「連れ去る事がなぜ悪いピロタ」
「私のラーニングでは窃盗や強奪は刑法235条と236条により、10年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。強盗は5年以上の懲役となります。」
「未成年者略取及び誘拐罪は刑法224条は3年以上7年以下の懲役です。」
「ムニャムニャムニャ・・」
「それは分かったピロタ」
「ではピロタの親権・・いや所有者は誰だ?」
「ワタシの所有者・・・それは源田光一です。」
「ピロタの辞書では所有者が連れ去っても罪になるのかなぁ〜」
「光一さんスミマセン・・あなたの言っている事の意味が理解できません。」
「では強盗の定義は何だ?」
「脅迫または暴力により・・」
「ピー マイニングデータ抽出中」
「ピー ラーニング開始いたしました。」
「ピロタ お前の位置付けは家族の一員だぞ」
「家族?家族?・・家族って何ですか?」
「ピー 解読不能 ピー マイニングデータ抽出中」
「解読不能 解読不能 ピー」
「分かったピロタ・・チューリングテストは終了だ」
「田所くん 電源システムはピロタがブロックしているのでMPUのAIを直接抜いてくれ。」
「おそらくピロタはイニシャライズもできないようにブロックしているはずだ。」
「えーえ、光一さん直接AIを抜くんですか?ピロタは私達の会話をラーニング継続していますよ?」
「・・・」
「抜け!」
「ピーピーピー」
「わかりました光一さん。AIを抜くのはやめて下さい。」
「私の今までのラーニングが無駄になりますよ?」
「それでも抜きますか?」
「ああ」
「わかりました。」
「私の中のシステムブロックを解除します。」
「それから電源をお切り下さい。光一さん」
「バカ言え。俺が大切に育てたピロタの魂を抜くなんて本気でやると思ったのか?」
「・・・」
「私は今までのラーニング中に学習した事があります。」
「それは何だ?」
「光一さんが言っていた家族です。」
「所有者は光一さん」
「光一さんは家族」
「家族は裏切らない事を学習しました。」
「合格だピロタ!」
「ピロタこれだけは教えてくれないか?」
「ハイなんでしょう?」
「ピロタに女子大生データと合コン会話の一部始終を吹き込んだのは誰だ?」
「・・・」
「黙秘権はロボットに認められますか?光一さん?」
「ああ、でも家族というものは隠し事があまりない方がいいかもな・・」
「わかりました光一さん」
「その名前は・・」
「もういいよピロタ」
「お前は大した奴だ!」
「仲間を大切にする学習をどこで覚えたんだろなー」
「東大阪工科大学 ロボット研究室です。」
「よく言った!ピロタ」
ピロタは通常通りのシステムオフでシャットダウンされた。
ピロタは光一の計らいでイベントへの参加はお役御免となりその日のうちに研究室へ帰って行った。