家政婦ロボットと呼ばないで!(イベント万歳)
日曜日の朝
「お父さん!早く起きてー」
「フハァ〜 ・・なんだよ翔太??」
「今日は前に言っていたロボットのイベントの日だよ」
「あっ、そうだったな翔太。でも、充分時間あるやんか?」
「もうちょっと寝かしてくれ〜」
「社員は早く会場に行っておもてなし準備をしなければならないんだってー」
「・・・」
「誰がそんな事言ったんだ〜?」
「お母さん!」
「ムニャムニャムニャ・・」
「翔太?もしかして・・」
翔太が朝早く行きたがる意図が読めた。
いつもなら子供の方が健二より遅く起きる。
確かに前日からテンションが高かった翔太。
宮澤家族は翔太の好きな電車に乗って会場へ向かう事にした。
開催会場では工科大学生とロボタス社の社員がイベントのシュミレーションを含めた最終打ち合わせをしている。
外の小ステージでは優花が早弾きロボットとの音楽ライブセッションの準備をしている。
その横では工科大学生による子供達へのサプライズイベント「金塊への道」の準備が進められていた。
これはタブレット端末操作でパーソナルロボット「ROBOTUSくん」があらゆる障害を乗り越えながら金塊の在処へたどり着く人工知能を活用した頭脳ゲームである。
一等賞は家族での2泊3日の北海道旅行。
二等賞はパーソナルロボット「ロボタスくん」
三等賞は婦人用ブランドバッグ
である。
来場者を盛り上げる為のイベントに工科大学生を多く参加させているのには根拠がある。
それは「未来を担う若者の視点とエネルギー」を多いに取り入れる事により、新鮮かつクリエィティブな発想を来場者に体感してもらうのが狙いである。
メンバーの一人である源田光一は当初からこのヒューマノイド家政婦(MEOFA)の開発に関わって来た。
「お掃除ロボット「SUMIT」とヒューマノイド家政婦「MEOFA」のセッティングが終わりました。源田さん!」
工科大の研究生にとって源田は憧れの的である。
主旨が若者主体のイベントと聞いた時に、後方支援アドバイザーの客観的な立場だけにしておこうとした光一であったが・・
学生達からのゴールドオファーが殺到したカタチでの強制参加になってしまったのだ。
「ありがとう。よーし!このリビングルームに目では確認できない粒子の粉を部屋の隅と家具の脚周りに撒いてくれ。」
「なるほど、ロボット性能を明確にするための第一手段としては来場者には分かりやすいですね。」
「ああ、その一部始終をあの会場大スクリーンに映し出すのさ」
会場内のブースは4箇所あり「MEOFA」の才能が発揮できるシュチュエーションづくりが整っていた。」
もう一つのブースに出向いてシュチュエーションの設定とロボットの調整を確かめる光一。
「源田さん!幼児教育用の材料は揃いました。」
「ああ、あとは来場者の家族からの自主参加で盛り上げよう。」
「えっ、サクラの子供を用意しないんっすか源田さん?」
「俺もそう思ったが、最初から興味を示すのか示さないのかを考えていたら来場者の家族にお願いしてみる方がリアルだ。」
「実験ではロボットの反応もそれなりの合格点を出していたが、実地での思いがけない双方のアクションが今後のバージョンアップに繋がるかも知れない。」
「わかりました。」
次のブースではキッチンが用意されている。
お料理もできるロボットは今日一番の目玉イベントになる。
光一はブースでのシュチュエーションから考えられるプロセス設定を研究生と共に念入りに確かめていた。
「キッチンの高さに対応できる事は認証済みだ」
「15センチ以内の高低差ならロボット側の自動軸調整で行える。」
「リモート操作はロボットの失敗を見届けてからにする。それが鉄則だ。」
「しかし先輩!標準可動域外の動作ではワークタイミングが確実にズレます。」
「そうだな修一くん。画像認識と生体反射信号によるAIのラーニングタイムは現在の技術ではここまでだ。」
「今開発中のSPI画像認識処理システムが完成するとラーニングタイムの時間短縮が可能だ。」
「やっと人間の速度に追いつける。」
「もうすぐできるから楽しみに待っていろ修一くん。」
「ここは実体験のデモンストレーションの場だ。」
「よーく考え成功も失敗も、その目で見て感じて今後の研究活動に生かすんだな。」
「はいっ先輩。」
「それとSPIの件は、まだシークレットでお願いするよ修一くん。」
「了解。」
光一は弟子達を連れて次から次へブースを歩いてゆく。
その姿は病室から病室へインターンを連れて飛びまわる名医のようにも見える。
「ワン ワン ワン!」
次のブースでは何匹もの子犬達がサークルの中の遊び道具で遊んでいる。
その姿を見て光一は
「う〜ん。簡単なマジックだな・・」
「コンセプトは「愛」だな」
とつぶやいていた。
午前10時ジャスト
「家政婦とは呼ばないで!ヒューマノイドMEOFA誕生メモリアルデイ」
タイトルが会場外のディスプレイと会場内のスクリーンに映し出される。
「タイトル、カッコよく変わっとる・・な」
ツボを突いたキャッチーなタイトルを見て、にこやかな表情で中に入る夫婦。
少々困惑気味だが颯爽と中に入る青年。
ウンウンとうなずきながら中に入る若いカップル。
皆んな何か感じているような表情だ。
大会委員長であるロボタス社の金沢常務と社員達は来場者を出迎える。
入口で一人一人に記念品となるロボタスキーホルダーとAIペンそしてロボタス製品の家庭版パンフレットを渡す。
一人一人の目を見ながら、にこやかに「ありがとうございます!ようこそ未来の入口へ」を語り掛けていた。
そこに眠たそうな目で宮澤健二が登場する。
「金沢常務おはよう御座います!」
「おお、今日はご家族での来場だな。」
「それで、ご家族は?」
あそこのサプライズイベントに釘付けです。
「あーあそうか、やっぱり興味を注ぐイベントの雰囲気を出しているのは合格点だな」
「後輩の川内の企画なんですが・・あいついつも最初からガンガン飛ばす方で最後まで子供たちが興味を示してくれる内容になっているか・・ですね・」
「まっ、そう言うな宮澤くん。彼も彼なりに頑張っているよ」
「そうですね。」
「後で家族を連れて来ますね。」
「あーあ、楽しみだよ。」
「今日は来場者を含め東大阪のメモリアルデイになる予感がする。」
「こんだけの人が来て、本当に感謝だ!」
「思い存分ご家族で楽しんで行って下さい。」
「ありがとうございます。金沢常務」