ランナーへの条件
健二達はロボットの走行テストをリスタートさせた。
ドッドッドッドッ
スムーズな歩行から加速させてゆく一号機。
「走行マシンシンクロオーバームービング異常なし」
「時速 9Km/h超えます。」
「OK!」
「圧力センサーZMP検出」
「ピッチ軸角変位確認」
「ロールとヨー軸角変位確認」
一号機にはスピードにより傾斜角度をトラッキングできる機能が備わっている。
ランナーが加速時に姿勢をやや沈み込ませながら前傾姿勢をとってゆく力学ポイントをAI化したものだ。
足首のモールド関節だけではスピード化は不可能と結論を出した健二達は新たに開発した形状記憶ゴムバンテージとのシンクロ駆動でそれを実現させている。
足首関節の形状記憶ゴムバンテージは骨格筋とアキレス腱の役目を担っている。
「形状記憶ゴム駆動同期化開始しました。」
「関節サーボ電流値確認」
「生体反射信号トラッキング」
「サーボ回転と形状記憶ゴムバンテージ、パルス同期化成功」
「時速 15Km/h到達しました。」
「了解!」
ダダダダダダダダ
「時速20Km/h 到達。」
「回転角 傾斜角 変位確認」
「バンテージ伸縮スピード確認」
「バンテージ関節負荷異常無し」
「サーボ温度異常無し」
健二はこのまま走行マシンの傾斜角度30度に設定する事を光一に提案したが・・
「健二 いい提案だが、モールド関節とロッドが瞬間衝撃荷重に耐えられるか疑問だ。」
「保証はないぞ健二!」
「俺が保証してやるさ光一。」
「いつも強引なんだからぁ〜」
ドーパミン噴射中の精鋭達は未知への挑戦を果たす事になる。
走行マシンは傾斜角度45度まで実験できる。
ウィーン〜
「傾斜角10度確認。」
「一号機 サーボ負荷トルク値上昇」
「電流値上昇」
一号機は傾斜角から来る自然負荷により時速を17Km/hに減速させていたが、直ぐに20Km/hに戻して行った。
「傾斜角30度にオートタイマー設定しました。」
「三分後に30度に到達します。」
「いかがですか?健二さーん!」
「望むところだ!」
一号機はグングン坂道を登る勢いだ。
「幻想だ・・山岳救助隊がリュックを背負って登山道を駆け上るような姿に見える。」
健二は自分が描いていた遭難救助するヒューマノイドを山岳救助隊にダブらせて見ていたのだ。
光一は健二の情熱と想いがヒューマノイドに届き加速化させているような不思議な気分になっていた。
「傾斜角度30度到達。」
「一号機スピード時速15Km/hにスローダウン」
「一号機スピード時速10Km/hに到達。」
「そのまま下がるのか一号機よ!」
ドッドッドッドッ
健二と光一は心の声を発しながら一号機の脚を
注視していた。
「バンテージゴム伸縮最大値到達」
「膝モールド関節トルク負荷が限界を超えています。」
「このままだとギア部破損かモーター過負荷焼損の恐れあり」
「大腿骨軸の回転角のバランスが連続負荷に耐えられず崩れて来ています。」
「走行マシンに追従出来ない逆荷重により圧力センサーがランダム値を叩き出している。」
「耐久と振動テストを兼ねてやっている、心配するな光一。」
「俺は真の限界値が知りたいんだ」
「もっと行けー 健二!」
「何で俺の名前を呼ぶんだよ光一!」
「このロボットは、もはやあなたの化身です。」
ブチッ!
左足首のバンテージから異様な音がした。
「左足首関節モールド生体反射信号受信不能」
グォーン
「モーター負荷電流値が危険ラインを超えました。」
「モーター異常音検知!」
「光一 スローダウンでは無く、そのままロボットを吊り上げてくれ。」
「早く! 一気に上げてくれ。」
「せーの」
ガッガッガー
ドン! ブヨヨ〜ン
キュキュキュキュ
一号機は脚を回転しながら宙ぶらりんの状態でもがいている。
「よーし、光一緊急停止ボタンだ。」
ガン!
ギュルルーン
シュー
モーターブレーキの微かな音が運動能力の停止を知らせていた。
「そっか、運転したままだとスローダウンする前に足首に逆転荷重がかかりボキッと折れて、ロボットがつまづいたように七転八倒していたな」
「常識だろ光一。」
「緊急停止の前にも処置があるんだよ。」
「ハイ、学びましたぁ〜 健二先生」
最小限の破損で済んでホッとしていた二人だった。
「先にバンテージがやられたのは想定内だ。」
「八木さんに報告する前に、こちらで要因を整理しておくか健二。」
「ああ、その方が良い」
二人は形状記憶ゴムバンテージの伸縮スピードの数値データとサーボモーターの回転スピードデータをモニターにグラフ化させる。
「このクロスポイントが限界値より前過ぎるのはモーターの負荷に対応しきれていないと言う事だな・・」
「つまりモニター数値でのシンクロは成功しているが、ポイントでのそれぞれの力が引き出せていない。」
「それが不効率加速度を生み出してゴムバンテージの破壊を速めている。」
「ではどうすればいいんだ?健二。」
「その為のゴムバンテージだ。光一」
「・・・」
「こうやって巻き直せばいいんだ」
「はやっ・・」
「もう終わったの?」
光一は健二がパワーアップの新兵器となる形状記憶ゴムバンテージを導入した意図が見えた。
「そっか、ヒューマノイドが自分で考えてゴムバンテージを指示通り巻き直せばパワーの維持ができる。」
「ゴムは余分に巻いているから少々ちぎれても配線端子を手で圧着し直せばリサイクルでもう一回は使える。」
「伸縮スピードと伸縮駆動圧力はAIにお任せだから人間がメンテナンスする必要がない」
「ロボットにも優しく、地球にも優しいエコヒューマノイドと言ったところか・・」
ゴムバンテージが設計上、人間の筋肉の役割を果たしている事を再認識させられた瞬間でもあった。
「人間は元々エコ仕様なのだ〜」
「何を訳を分からない事を言っている光一。」
「僅かだが、腕の振りが噛み合っていなかったな」
「股関節との連携を微調整するため、腕の回転角とスピードを自動振り子3Dモーション画像で調整してくれ光一。」
「調整OK 健二」
「よーし、本日のテストはここまで!」
「光一 お疲れ様!」
「健二こそ疲れただろう。八木さんへのレポートは俺が作成しておく。今日は帰ったら?」
最終テストに向けて健二達の挑戦は続く。