誇示する胴体
ロボット骨格が見る見るうちに完成してゆく。
それを久々に観に来た小田原社長。
「おーやっとるなぁ〜 胴体はほぼできとるやんか」
「ハイッ」
「最終的に顔はアンドロイドにするのかな?」
「ズバリ聞きますねぇ〜小田原社長。」
「アンドロイド技術は特別な先端テクノロジーです。」
「以前講演会でご一緒させて頂いた西大阪先端科学大学の森山博士とロボティクスセッションをやらせてもらった際の帰り道に、いつかロボットのモーションデザインをお手伝したいとおっしゃって頂きました。」
「それは光栄じゃないか健二くん!」
「ハイッ ありがとうございます。小田原社長」
「君達の活躍がODATECの未来を支えていると言っても過言ではない。」
「光一くんには産業用ロボットの開発をしてもらい、生産に至っての売上高は前年比の20%も上がったよ!」
「感謝の気持ちで一杯やで光一くん!」
「あっハイッ・・ありがとうございます小田原社長・・」
「とっ、ところで相談なんですが・・社長。」
「光一くん、まあ聞きたまえ。」
「あっ、はぁ〜」
「ご存知の通り材料費が高騰してきて仕入先各社より値上げの要請が来ておるんや。」
「光一くんにも技術面でコストダウンの見直しをしてもらい販売価格に影響を出さずに頑張って来た。」
「仕入先の変更も考えたが、我が社の生産数量ごときでは動いてもらえんだと!」
「下請さんには法に基づき、円滑な支払いをせな中小企業庁から下請法違反で罰せられる」
「かと言ってコストダウンはせなアカン」
「あーあ!頭が狂いそうや。」
光一が言おうとした
「早く私の給料を上げて下さい〜」
は、社長の材料費高騰の話で打ち消されてしまった・・が
「光一くん、今年こそは特別ボーナスを期待してもらってもいいぞ・・」
「やったぁ〜!」
「言おうとしたのは、その条件じゃ・フフッ」
なんじゃ、まだここで条件だすのかぁ〜?
光一、唖然。
「このロボットが期間内にすんなり完成すればと言う事で・・」
「じゃ、頑張りたまえお二人さん!」
「俺は今から東大阪産業振興会主催の懇親会に行ってくる。」
「バタン」
「また懇親会かよ。この頃多くねぇ〜健二?」
「顔が広いのは昔からだ・・」
「ああ見えても、いつもどこからか仕事を取ってくるだろう。」
「最近は、うちの営業に任せておけんと張り切っているみたいだねぇ〜」
「ここの営業から聞いたんだぜ光一・・お前何で知らないんだよー??」
「俺は会社の内情に、うとい人間だ・・」
「いやっ、うといんじゃなく優花さんの事で頭が一杯やねん。」
デレ〜ン
「何でわかるのかしら健二さん!」
そして作業場に戻った二人
「さあ〜特別ボーナス!特別ボーナス!」
自分に言い聞かせて気合をいれる光一。
「任しとき〜光一。特別ボーナス確定やで!」
健二は二足歩行におけるロボットのXYZ軸のティーチングパスを決めるためパソコンでシュミレーションしてプログラムにフィードバックさせていた。
「リミットチェック OK」
「到達点確認」
「最適化して補正するがズレがあるみたいだ」
「OK!あとはパラメーターで補正する。」
ジャイロセンサーはロボットがバランスをとるために仕掛けられるセンサーである。
設置角度の精度が歩行の精度に関わる重要ポイントなのだ。
「光一・・ジャイロの位置決めをしてくれ。」
「OK!・・これでどうだ。」
「了解。あとはパルス信号で確認する。」
「光一!今度はサーボモーターの選定は怠ってないな?」
「もちろんさ健二。ゲイン調整はお手の物だ」
「PIDオートチューニングで微調整はモニターを見てくれればトリマーで調整できるよ。」
「データロガーでのロギング準備OK」
極め付けはモールド関節の形状記憶ゴムとのシンクロだ。
初期テストの形状記憶ゴムのシュミレーションに時間が掛かったのは健二にとっては想定内である。
胴体と手足が完成した今、モールド関節と形状記憶ゴムアクチュエータのトラッキングコントロールが歩行テストから走行テストまでできるようになった。
「モールド関節の形状記憶ゴムバンテージ施工と生体反射センサー取付OK」
「PLC接続確認 サーボ検出」
「MPUとインターフェース接続確認 AI検出」
「LAN接続確認 リモート信号受信」
「バッテリーパック チャージ残量確認」
テスト準備は着実に進んでいた。
頭を除いた重量が30Kgの値を示していた。
「これで頭を載せると総重量40Kgか・・」
「ダイエットした女性に近付けた事を誇りに思う!」
健二の軽量化の基本構想は簡単に言うと、成人が米俵を両手で持てる重量から構造設計されている。
胴体変形時での関節負荷モーメントを考慮しての自重の40%、つまり16KgからMAX20Kgが持続して持てるリミットである。
ロボットもリミッターを外して怪力の100Kg以上をブンブン回せるのは油圧や空圧方式の重量級ロボットや産業用ロボットなら、いとも簡単にこなせる技である。
健二の構想概念はあくまでも人間同等能力の所持が基本で人間以上のパワーを三倍までカスタマイズできる領域で研究している。
パワー三倍の基準は・・
緊急時 災害時 人一人を速やかにかつ完全に助けられる能力の事である。
それはコンドームメーカーが生んだ、優しく軽い形状記憶ゴムをアクチュエータに使用して、モーターや機構部を小型化高効率化を実現した地球に優しい省エネロボットでもあった。
「よーし後は胴体を天井のブロックチェーンのフックに引っ掛け上体を起こそう」
「光一手伝ってくれ」
「あいよっ!」
ガラガラガラガラ
胴体は立ち上がり、頭は無いが異様な存在感だけは誰もが感じ取れる。
「頭の無いロボットっていつ見ても不気味だねぇ〜 ハハァ」
「昔から光一は怖がりだったよな・・実験で夜遅く残っていたのは俺でいつも一人で帰っていたような記憶がする・・」
「だけど俺はその分、朝早く出てテスト準備をこなしていたぜ〜 ハハーン・・」
「・・・」
「早朝シフト出勤の華子先生に会いたかっただけだろが〜」
「ニャロメ!光一」
床には走行テスト用ランニングマシンが設置されている。
二人はゆっくりとロボットをベルトの上に載せた。