情熱と思想の根幹回帰
初期動作テストを終えた健二は八木に一報を入れる。
「八木さん。とりあえず成功だよ!」
「本当ですか!」
「健二さん、あのゴムの性質がよく分かりましたね?」
「まっ、ヒントが無かったらちょっと時間が掛かっていたかなー」
「バンテージの巻き方をすぐ理解するなんて宮澤さんらしい。」
「いやっ・・ほとんど勘ですねぇ〜」
「あの発想は八木さんが考えたの?」
「てな事ないでしょ〜宮澤さん!」
「光一さんのご協力を頂いて健二さんには内緒で進めていたものです。」
「言ってしまった・・ごめんなさい。」
「あっそうですか?」
健二は内心
光一に対する尊敬の念を抱きながら
「やりやがったな」
とつぶやいていた。
光一は空かさず
「忙しいあなたの味方になりたくてぇ〜 ♪」
演歌歌手のようにこぶしをまわして健二のご機嫌を取ろうとしていた光一だった。
「ところで八木さん、あのゴムの耐久性なんですが・・」
「はい、圧力可動連続耐久テストの時間はご推察の通り無かったです。」
「通電による劣化リスクなんですが、机上の計算では歩行可動圧を15MPとして約1000万回」
「換算すると約1年で交換時期になるでしょう。」
「巻き方と圧力変化によって耐久性はプラスマイナス10%変動します。」
「巻き方によって変わる仕組みがイマイチ呑み込めてないんだが・・八木さん・」
「モールド関節の可動角度と負荷数値をAIに覚えさせた後、バンテージに圧力が掛かる場所を各圧力ポイント毎に見付け出し3Dから座標軸で確定させた後にAIに再び戻してラーニングさせます。」
「ラーニングされたAIは生体反射電気信号からの負荷点信号の位置と圧力ポイントが90%以上の精度であればトラッキング駆動を開始してゆきます。」
「センサーを多くぶち込んだのは精度を求めるために正解だったんだね」
「はい」
「色んな巻き方でまだパワーアップする余地がある反面、能力半減も充分ありえます。」
「高効率は巻き方とセンサー位置次第と言う結論になります。」
「そっか、ならば私の巻き方は100点中何点ですか?」
「送って頂いたスマホの写真から見ての推測ですが・・私の巻き方とほぼ同じです。」
「宮澤さん?あなたはもしかして天才ですか?」
「いや天才ではないです。興味を示しさないものに対してはほとんど脳が働きません・・」
「・・・」
「ゴムがパワードスーツをはるかに上回る能力を出しているのは人間の動きと同じ要素を研究した結果なんですね、八木さん。」
「そうです、光一さんから骨格筋と靭帯の仕組みの勉強を健二さんがしていると聞いていましたので私も負けじと独学で猛勉強しましたよ〜ハハッ。」
「それと、AIの知識が乏しいところを光一さんの講義を受けて基礎勉強はできているつもりです。」
「気になる素材分子の合成ですが・・」
「ナノファイバーカーボンにもう1つのアクチュエータとなり得るマテリアルを配合しました。」
「それは?」
「現時点では企業秘密と言う事で・・」
「だよねー」
「健二さん!これは異次元のヒューマノイドに一歩近付ける応用研究となり得るでしょう!」
「ありがとう八木さん! また三人で飲みにいきましょう〜」
コンドームメーカーが世界を驚かす日は間近だ。
健二はゴムの威力とモーターの出力次第でロボットのハードウェアを差別化できる点を導き出していた。
これはロボタス社の製品のラインナップを一新させる事ができる開発でもある。
ブレないヒューマノイド思想がロボタス社を助けるか否かは定かではないが、未来を見据える基準値を少なくとも健二は根幹に持っている。
「ロボットは明らかに必要だ。」
「ロボットまで必要ないけど居た方が便利だ。」
「ロボットは全く必要ない。」
人間の考える事はある程度的が絞れる。
自分の置かれている環境を基準にしてマーケティングすれば、現在の価値の創出は簡単に出来るだろう。
経済も思想から成り立っている事を忘れ、我々人間は文明が一人歩きして来た感覚で寄り添って生きているのかも知れない。
平和と自由を脅かす目に見えない侵略者は人類の知能が生み出している。
ではその是正は誰がするのか?
思想をちゃんと受け継いで来た人がすれば良い。
学者でも一般人でも大人でも子供でも情熱と動機さえあれば思想の伝授は誰にでもできる。
その思想を教える人が教えない、もしくは教える事が出来なくなった場合?
その知性のマジョリティでさえ無くなる危険性は近未来に無いのか?
その時がヒューマノイドの存在価値が試される時である。
賢者の意識が勝るだろうと考え、無意味な犠牲者を出し続ける社会であってはならない。
社会は、パワハラを自ら創り出したり印象操作する事が本業になってはならない。
それにより新たな犠牲者がどこかで生まれている。
そこに到達してゆく時間はむしろ必要では無い。
犠牲者は果たしてやむ終えないか?
答えは「NO 」である。
簡単な事だ。
まずは、
「正しいを正しいと言えなくなった根源」を
ヒューマノイドに取り戻してもらえば良いだけだ。
「人間の脳を遥かに超えるAI」
その魂に相応しい「真の賢者」を見つけ、その知性をAIにラーニングさせる事を「聖域」とするならばそれで良かろう。
それを印可させるのは「どこの誰」なのか?
それが永遠のテーマでは無い。
近未来のテーマになる事を健二は祈っていた・・
人間の手で善を生み出せば、必ず悪は付いて来る。
人口の3割がヒューマノイドで、そのヒューマノイドが人間のように道を歩いているところを想像ではなく可視していた健二であった・・