かき氷は後日
梅雨明けを知らせるかの様に蝉が鳴き始める。少し湿りのあった風は夕方には湿りが抜けていた。5時過ぎ、外はまだ明るい。自転車に乗り、颯爽と家路を走る。帰ると家は熱い空気が充満していた。エアコンのタイマーを設定し忘れていたのだ。窓を数カ所開け、直ちに出て行くよう、熱気を手で煽った。
今日は近くの神社でお祭りがあるようで、友人と出向く約束をしている。友人とは青生である。いつになってもお祭りと聞くと胸が騒ぐ。考えるだけで自然とあの匂いが蘇る。汗を洗い流し、着替えた。お祭りだが、浴衣は着ない。彼女も私もお祭りの雰囲気や匂い、屋台で食べ物を買う事、御賽銭箱へ五円玉を入れ、願う事が好きなのだ。それらしい物で自分たちを包み飾る事もなく。
神社から少し離れた所まで自転車で行き、人気のない場所へ自転車を置いた。そこからは徒歩で待ち合わせ場所へ向かった。到着してから電話をかけてみた所、青生も直ぐに到着した。
流れに沿って門を潜り、砂利の参道をまっすぐ歩く。道の両端には等間隔で灯篭が並べられており、風情を醸していた。手水舎でお清めをし、鳥居の端を潜り、また足を進めた。拝殿前には人が大勢並んでいたので、私たちも並んだ。屋台で何を買おうかと話している間に順番が来た。参拝をすませ、先ほどとは違う参道を通る。こちらの道は屋台に挟まれており、なかなか前には進めない。
「早くいちご飴食べたいー。」
「埜々子のお決まりのいちご飴はー、全然見えないよっ。」
背伸びをした青生は「ハハハッ!」と笑い飛ばした。青生より背の低い私には、前方にある屋台など見えない。見えるのは人の背中だけである。
「後、揚げ餅もっ、揚げ餅!」
「そうだった、揚げ餅はーっと、まだ奥かなぁ。」
駄弁りながら歩いていると、先に飴屋が見えたので、私はいちご飴を買った。参道の最後の端に揚げ餅屋はあり、青生はおろしポン酢味、私は砂糖醤油味を買い、2人で分け合って食べる事にした。門を抜け、もう少し歩き、人通りの少ない、小さな川の塀に腰を下ろした。風が緩やかに吹き抜け、一息着く。
「お腹すいたぁ。」
「早く食べようっ。」
「んー、いい匂ーい。」
先程の揚げ餅を袋から取り出し、「「いただきまーす!」」と食べ始めた。揚げたてのお餅は外はざっくり、中はもっちり。伸びるお餅を見せ合い、頬張った。
餅を食べ終わる頃に遠くで大きな音が聞こえた。花火である。この川の下流地点で花火が打ち上げられているらしく、皆がそちらへ流れるように歩いていく。私たちは餅を噛みながら人の流れを見ていた。
「後で行ってみる?」
「でも、ここからでも見えてるよ?」
少しほとんど木々に隠れているものの、1、2発は綺麗に見えていた。私たちはここで観賞する事にした。
カシャッ!カシャッ!カシャッ!
自宅へ戻った私は、青生に写真を送り、かき氷を食べ忘れた事を伝えた。