甘酸っぱい
すっきりとした朝。目覚めた瞬間から良い天気だと分かる。部屋の窓を数箇所開けると、そよそよと部屋を巡っていく。のっそりと洗面台へ向かう。目を擦り鏡を見ると、まだ半分寝ているような自分の顔が映し出されていた。人肌の温度の水で顔を洗うと、少し目が覚めた気がした。そして、刺激の強い歯磨き粉で更に目を覚ませる。
友人と出掛けるため、洋服を選ぶ。私は、あまり飾らない事を好む。いつものように簡素な服装。いつものように簡素な化粧。いつものように簡素な髪型である。もしも、化粧を勉強し、カラーコンタクトを入れ、色気のある可愛い服を着たとしても、今の生活の質がより良くなる気のする訳でもなく、何だか偽っている気がし、気持ちが落ち着かなくなるだろう。信じたくはないか、もしかすると、私には若い子の言う女子力が欠けているのかもしれない。
準備を済ませ、一息着くと、待ち合わせの5分前になっていた。家を出ると早足で通路を抜け、坂を上り下った所にある待ち合わせ場所に向かった。見覚えのある車に近づくと、やはりそれは、友人の青生の車であった。窓をコツンと鳴らすと、青生はハッとこちらを向き、ドアの鍵を開けた。腰を下ろすとともに、座席に置かれていた、大きな箱と小さなブーケの入った袋を膝に置いた。
「ケーキだケーキ!早く食べたい!可愛い、お花ー。」
「何処で食べよう?」
「どこでもいいよ!」
「何処でもいいが一番困るよ。」
特に出会って挨拶を交わす事もなく。車を走らせた。
「そうだ、桜道山はどう?」
「うん。そこでもいいよ!」
そして行き先は、桜道山に決まった。
友人とは言ったものの、青生は私の親友であり、中学生以来の仲なのだ。出会った頃はこんなにもお互い、交友関係が続くとは思ってもみなかっただろう。趣味や、好むものが似ている事もあり、波長が合うのだろう。
桜道山へ着くと、青々とした木々が私たちを出迎えた。車から降り本の少し山を登った。すると、木製のベンチが目に入り、そこでケーキを食べることにした。
桜道山はその名の通り、少し傾斜のある道に沿って桜の木が並ぶ。花を咲かせる頃にはたくさんの人が集まり、地元ではお花見のスポットとなっている。しかし今は5月。人の声ひとつ聞こえない場所となっている。
「よしっ、食べよう!」
起きてから何も口にしていなかった私は、今にもお腹の虫が悲鳴を上げそうだったので、早速と箱をあける。
「今回は、オレンジにしてもらったの。」
箱を開けるとそこにはフレッシュタルトがあった。そもそも、なぜケーキを食べるかというと、私の誕生日だからなのだ。年々、歳をとる事に嫌味を覚えたが、祝ってもらうのはやはり嬉しい。切り分ける事もなく、持ち寄ったフォークでザクザクと2人で食べ進めた。アーモンドの香りのするタルト生地に濃厚なカスタードクリームが敷き込まれている。生地もクリームも甘さ控えめ
「はぁ、美味しかった。」
「美味しかったね。」
満たされたお腹と、美味しさから得た、幸福感で気持ちがいっぱいになったところで、桜道山を後にした。
私たちは会うとかならずドライブになる。特にする事も無いが、会う約束をしてドライブのみで過ごすとこもある。特に気を使う事もなく、何か話さないと気まずくなる訳でもない。
特に当て所なく車を走らせ、散歩の為に、少し車を降り、また車を走らせた。