幕間
幕間一
エタルーシア創世神話
神々から愛された大陸。―――エタルーシア。
緑と水に溢れた神々の楽園。
大地、水、風、緑、雲―――そして光と闇。
神々はすべてに宿り、支配するもの。
その中にあって、神の頂点に立つ双子の神。
一つは光。一つは闇。
光の神ユーグは、光り輝く黄金の髪に金茶色の瞳は、太陽の眼差し。
闇の神アラルドは、神秘に満ちた漆黒の髪に冴え渡る銀色の、月の瞳。
相反する双子の神は、全く異なる性質を持つ半身。
陽と陰。表と裏。
光であれば闇であり、太陽であれば月。
正義であれば、不義であり、昼であれば夜。
―――そして、女であれば、男。潔白であれば、慈悲。
背を合わせた半身を、互いに尊重しあう。
「彼の慈悲は美徳であり、わたしにはない」
「彼女の潔白さは尊いものであり、わたしにはない」
双子の神は、神々が住まう楽園を創りだす。
互いの長所である、光と闇。両方併せ持つ楽園。
自らと同じく、相反する性質を持つ眷属たちを、昼と夜に分かつ楽園。
―――エタルーシア。
永遠という名の、神々が創りし約束された楽園。
彼らの眷属たる神々は、楽園に、それぞれの支配する力を与える。
緑豊かな、動植物、精霊と妖精の住まう、水が溢れる大地。
エタルーシアは、まさに楽園。光の潔白さ闇の慈悲にあふれた大地。
神々はさらに七つの小さな島、七つの気候を創りだす。
豊富な水と緑を有するエタルーシアを、双子の神はそれぞれの方法で愛した。
昼は生気に満ちた力強い光。夜は癒しに満ちた柔らかな闇。
―――エタルーシア創世の神話。この輝かしい大陸は、このようにして創られた。
************
神が瞬きする程度の時、ただし、数えきれない時が流れ、エタルーシアに、一つの生命が誕生した。
ユーグのように無垢で、アラルドのように残忍な、その生き物を―――「人」と言う。
神々は、人の行いを静かに見守った。
しかし、人は、光の神ユーグには考えられない罪を犯し始める。
時には領地を奪うため、時には退屈しのぎに命を奪い、仲間をだまし、陥れる行為。
―――ユーグは苦悩する。
自らは光であり、正義である。人の行いは、すべて半神の行いであるように思えた。
お互いを認めあった半身が、人の行いにより、憎悪の対象となった。
だから、罰を与えた。
人を、殺したぶんだけの重い罰を、自然の、道を犯した深さだけの罰を―――。
穢れなき潔白の神に、ひとつの汚点も許されはしない。
今世、罪を犯した者は、来世、醜悪な姿で生まれ変わるように。永遠に苦しむ魂を、神は自ら進んで人に与えた。
「人」とは似ても似つかぬ異形の者へ。
―――そうしてエタルーシアには、罪に嘆く、人の変わり果てた姿で溢れかえった。
楽園は、闇の神アラルドには耐えられないありさまとなった。
自らが愛した大陸は、嘆き悲しむ闇の眷属で溢れかえっていた。
―――アラルドは苦悩する。
自らは闇であり、不義である。しかし、人に課せられた罰はあまりにも重く、半身の行いは傲慢に思えた。
お互いが愛した人が、半身の行いにより、守るべき対象となった。
だから、救いを与えた。
罪を犯した記憶を残し、嘆き苦しんだ分だけの救いを―――。
慈悲深い不義の神は、人に罰を与えた光を憎悪し、魔神へと姿を変えた。
来世、罪を嘆き、自らの行いを後悔した者は、更なる来世、再び人へ生まれ変われるように。
だがしかし、すべての者が悔い改めはしなかった。魔の姿に甘んじても、記憶を失うことを恐れた異形。
―――そうしてエタルーシアには、妖魔と呼ばれる異形が誕生した。
光の神とその眷属は、妖魔と人の罪を嫌悪し、楽園を捨てて、天上へと逃れる。
しかし光の神ユーグは、人の行いすべてを嫌悪した訳ではない。
人の助けとなる精霊を、人の救いとしてエタルーシアに残した。
闇の魔神とその眷属は、罪を犯した異形が罪を償う場所を与えるため、地下へ堕ちる。
だが、魔神アラルドは、人の行いをすべて許したわけではない。
人を誘惑する妖精を、人が犯す罪の戒めとしてエタルーシアに残した。
神々の楽園、エタルーシア。
神々の消えた大陸には、人と、精霊と、妖精と、そして人の成れの果ての妖魔のものとなった。
作者不明
エタルーシア大陸には、妖魔と呼ばれる人以外の生き物がいる。
彼らは闇の種族と囁かれる、人とは違う神を崇める生き物。
―――けれどそれは、かつて、人であったと伝えられる、エタルーシア全域に生息する魔。