その3
あの時から1年立ちました。あの後予想してない事態に陥りました。元旦那様が押し掛けて来て口説かれてます。
「ダリア頼むもう一度私とやり直してくれ!自分が愚かだった事は認める。今は君しか目に入らない」
休みができると来て、宿に滞在しては口説きに来るのには呆れました。本当に心から言ってくれるのは分かるので厄介です。元々記憶を思い出す前の私が好きだった人ですので消えたもう1人の自分が心の奥底で喜んでいるのでしょう。
「ごめんなさい。私は今の生活に満足しています。領地にお帰りください」
こんな遠くまで来てくれるのは嬉しいですが、今更元旦那様の元に行こうとは思えません。子供達も居ますので尚更です。
「では!私がこの国に通う!妻になってくれないか?例え離れてても君の側に居ることを許して欲しい!」
積極的に攻めて来られて、逃げてしまいたいのに心が否定するのです。その夜夢を見ました。
「お願い!彼を拒否しないで!私は眠ったままでもいいわ!側に居たいの!」
もう1人の私が懇願してきます。泣きながらすがってきます。
「どうして、騙されていたのはいいの?辛かったでしょう」
私がそう言うと、首を激しく横に振りました。
「いいの!側に居られるだけで!声を聞いていたいの!お願い……お願いします。もう2度と出て来ないと誓うわ」
痛いほど分かる、胸が締め付けられる様に痛い。心が悲鳴をあげてるわ。泣いている……もう1人の私が……。
「……分かったわ、貴女は私だから。もう一度だけ……もう一度だけ頑張ってみるわ」
「ありがとう!ありがとうございます。私、もう眠ります」
満足そうに微笑んだ後、彼女が頭をさげたまま消えて行きます。これで良かったのかどうか、分かりませんが約束しましたし、頑張ってみようかと思いました。目が覚めた時に泣いていた事が分かりました。
仕事を片ずけた元旦那様がやって来ました。手にはロージームーンの花束です。ちょっとだけ緊張しました。言えるかな?約束を果たす事ができるのか迷っています。
「ダリア、お願いだ。この間言った気持ちは本当だ!私と、もう一度結婚してください」
彼女の記憶が浮かび上がる。昔……少女の頃憧れた物語の様に、手にいっぱいのロージームーンの花を持った人に申し込まれる夢を。心の奥から暖かいふわっと湧いてくる。優しい気持ちが溢れ出すわ。馬鹿なのかもしれないけど、これでいいわ。
「……はい。もう一度だけ貴方を信じてみたい」
そう言うと、涙を流しながら喜んでいます。1度は決別して振り切った私が、もう1度彼とやり直す事が正解なのか分からない。生まれ変わりの、記憶を思い出していない時に愛した人。私自身は彼を愛せるか分からない、2度裏切られた。でも、今度は後ろを振り向かず、自分の中の本当の気持ちを出していくわ。




