第20話
あの後宿の方に皆で行きました。首を絞められたショックで動きが鈍い私は、弟に抱きかかえられてしまいました。若いならいざ知らずいい歳をした私は恥ずかしさで先ほどと別の意味で死にそうです。
「シオン!下して恥ずかしいわ」
「姉さん、無理をしないでくれないか?心配なんだ」
シオンの身体が震えています。私が殺されそうになったので吃驚しているのでしょう。
「ごめんなさい、心配かけたみたいね」
心配してくれたようです。でも何時も助けてくれるのは変わらないわ。記憶を思い出す前も後も優しいと感じました。
「彼らの分の部屋代はこちら持ちだから安心して姉さん」
庶民にこの宿は高い、立派すぎるので気後れしそうなおばさん達と子供達に大丈夫だと教えないと。部屋まで運ばれた私はベットの上に下ろしてもらいました。
「ありがとうシオン。おばさん達に説明しに行くわ」
ほっとしながら胸を撫で下ろししていると、元旦那様であるリンドール伯爵様が声をかけてきました。
「久しぶりだなダリア無事で良かった」
昔と変わらない笑顔で話しかけられました。心の底に沈めた哀しさが蘇って来そうで、目を反らしたままお礼を言います。
「リンドール伯爵様助けて頂いてありがとうございます」
口を塞がれ縛られた元旦那様を横に転がして、話しかけてきたもう一人の元旦那様リンドール伯爵にお礼を言うと悲しそうな顔をされました。
「君がされた事に比べたらこれ位の事は何でもないよ」
もう昔の事ですから気にしないで下さい。私は子供達と生きて行くと決めています。
「でも、どうしてシオンと会えたのかしら?」
偶々にしても都合が良すぎます。まして転移した場所に偶然だとして何億分の一の確率だと。
「姉さんが僕が渡した魔法便を使って送ってくれただろう、そこから魔法の残滓を追ったんだ」
「そんな無茶したの!ダメじゃない!」
普通の人の何倍も魔法使うのに危険だわ!それも遠くにいた私を探すのは魔力切れを起こすかも知れなかったのに!
「姉さんに言われたくないよ。何時もその台詞を言っていたのは僕の方だからね」
「それとこれとは話が別よ!貴方は一族の長になるのだから」
私の大切な弟で、一族の希望を一身に受ける貴方を失う事は出来ない人だわ。
「姉さん、もう家に戻って来てくれ心配なんだ」
気にしないでいいのに優しい子ね。
「気にしないでいいのよ私は平気なのよ」
シオンと話をしているとリンドール伯爵が突然話しかけてきた。
「ダリア、あの子供は私の子だね」
子供達を見られた時に、聞かれるかも知れないと恐れた事を聞かれてしまった。正直に話しても大丈夫だと思うのだけど私の心は決まっているわ。
「あの子達は私だけの子供よ。リンドール伯爵には何の関係もないですわ」
そう、あの時に道は別れてしまったわ、彼は私を信じてくれなかった。それが全てで私にとっての真実だわ。
「しかし間違いなく私の子だろう!」
「伯爵には新しい奥様やお子様もいるでしょう」
もう十年ですもの、時が過ぎるのは早いわね。
「リンドール伯爵、姉さんに何を言っても通じないよ。今更だろう」
お父様から聞いた話が本当なら、誤解だけは解けているはずです。今更何も話す事など私にはありません。唯、平和な日常の中に戻りたいと強く思いました。




