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プロローグ――召還されました

 「はじめましてッ! えーっと、救世主様ですよね?」


 女は召喚で呼び出した目の前の、半袖にハーフパンツの男に問いかける。

 男は体格が少しいいだけで、それ以外は特徴のない平凡な少年。

 対照的に女は容姿端麗で、街を歩いていたらそれだけで絵になるような少女だ。


 「……えッ? 俺は学生ですけど。てか、君は誰? 」


 召喚された男――猫山イオリは

 サイズが合ってないダブダブの黒いワンピ―スを着た女の問いに答えて、逆に問う。


 「ん? ステラはステラだよ。あなたは?」

 「俺はイオリ。ネコマ・イオリだよ」

 「イオリ? よろしくね」


 漆黒という言葉がぴったりの黒髪を揺らして、ステラはニコっと笑う。ぱっちりとした二重に、吸い込まれてしまいそうな黒い瞳。肌は陶器のように白く、黒いワンピースとのコントラストが芸術品のように思わせる。こんなに可愛い女の子の知り合いなんていたかな、と顎に手をやってイオリは考え込む。


 (そもそも、俺はなんでここにいるんだ? 確か、夜飯を食べようと自分の部屋(マイルーム)を出たはずなのに、気が付いたらここにいた……)

 


 イオリは辺りを、ぐるっと見回す。

 壁は土で出来ていて、天井にワラが見える。家電製品はなくて、それどころか電球すら見当たらない。まるで、江戸時代の家屋のようだ。パッと見で目に付くものは、小さなテーブルとそ先端がゆらゆらと燃えるロウソク、白い鳥の死骸と鈍く黒光りする大きな壺。床には漫画やゲームで見るような白い魔法陣が書かれていて、ちょうどその中心にイオリは立っている。

 


 (もしかして、これってよく漫画で見る召還の儀式?)


 「あ、あのー、どうしたの? お部屋の中をぐるっと見たりして……変な物なんかないからね?」


 ステラは白い肌を赤く染めて、恥ずかしそうにモジモジする。変な物とはなんですか? とセクハラな質問をしそうになるが、それをグッとこらえてイオリは肝心な事を聞いた。

 

 「ここがどこなのかなって思ってさ。ここはどこなの?」

 「ここは、ラームという村だよ。あー、でも村じゃなくて……集落の方があってるかな……」


 ステラも顎に手をやって、険しい表情をして何かを一生懸命に考えている。子供が難しい書籍を、読んでいるような姿でとても可愛らしい。そんなことより、イオリはラームと言う村に聞き覚えがなくて少々悩んだが、やはり答えは出なかった。


 「眉間にそんなにシワを寄せていたら、年を取った時に大変な事になるよ?」

 「えーーー! 本当に?!」


 ステラはこの世の終わりのような表情で、眉間を手で押さえる。それを見て、だいぶ先の事なんだからそこまで気にしなくてもいいだろと、思いながらもイオリは謝ることにした。


 「悪い悪い。冗談だよ。それより君は何者で、俺はなんでここに来たのか分かる? まさか召還とか言わないよね?」

 「ピンポーン!! 正解でーす! ハイタッチね!」


 ステラはイオリとハイタッチするために、元気よく一生懸命にジャンプするが、背が低いのでどうしても届かない。それを見かねてイオリは、しゃがんであげてようやくパシっとハイタッチが出来たが、思わずため息を吐いてしまう。


「で、ステラさんは何者なんですか?」

「ステラは見習い魔法師(レギュラー)で、イオリを召還したのもステラだよ。 でも、なんで召還って分かったの?」


 アニメやゲームで知ってますと言っても通じないだろと、イオリは思い適当に嘘をついてうやむやにして誤魔化した。そんな事より、本当に召還なのかは分からないが、仮に召還だとして理由は何だろう? 召還されたからには何か理由があるのが常だ。ゲームを例にすると、こういう場合は無茶なお願いをされることが多い。想像したイオリは背中を一筋の冷汗が流れるのが分かってぶるっと震えた。

 

 「……なんで俺は召還されたのかな?」

 「えっとですねぇ、ステラたちを助けてほしいんです」


 助ける――勉強を手伝ってほしい、ご飯を食べさせてほしい、お金を貸してほしい、ストーカーを撃退してほしい、人手が足りないから手伝ってほしいと、前の世界だったら【お助け】という言葉で想像するのはこの辺だろう。しかし、ここは仮だが異世界だ。ドラゴンとか魔王を倒してくれという【お助け】をお願いをされてもおかしくはない。

 

 「具体的には何を助けてほしいの? 農作業とか? 草むしりなら延々とやっちゃうよ? やっちゃうよ?」

 「襲ってくる魔物からだよ。村を襲ってきて怖いの!」 

 「……魔物か……ちなみにどんな魔物? 犬は苦手だからケルベロスとか狼男だったら嫌だな……スライムとかだったら、なんとかなりそうだけど」

 「えーっと、ゴブリンって呼ばれているよ? ゴブリン怖いの」


 ゴブリン――そう聞いてイメージするのは、緑色の肌に鼻と耳が尖がった小さな魔物で、ゲームでなどでは雑魚敵としてスライムと並んで一番倒されたキャラだろう。


 (ゴブリンならいけそうだな……よく分からない自信だけど)


 「一応確認だけど、戦ったりするんだよね? ドンパチしちゃうんだよね?」

 「ドンパチは分からないけど、戦うしかないよ! それ以外に残された道はないからね」


 それ以外の道はない……イオリの考えていた和平と言う道は閉ざされた。よっぽどの恨みがステラにはあるようだ。


 「そうなのか。まあ、ドラゴンとか魔王を想像してたから安心したよ。でもゴブリン位なら村の人で倒せない? 男の人が剣でズバッと斬れば倒せそうだけど」

 「それが、この村には男の人は存在しないのですよ……ここには2人で暮らしているんです」


 男がいないという言葉にイオリの心臓は鼓動のスピードを上げる。2人で暮らしているという事はもう1人女性がこの村にいるようだ。


 「えっ?! なんで?」

 「他の人はゴブリンに挑んで、殺されたり食べられたりしちゃいました……」

 

 あっさりとその事実を伝えるステラだったが、聞いちゃいけない事だったなと、イオリは罰が悪そうな表情でステラに謝る。


 「ああー、そうなんだ……。悪いことを聞いちゃったね」

 「ん? 大丈夫だよ。仕方のないことだったからね」


 やけにあっさりとしているステラの事を不思議に思うが、それよりもゴブリンは人を食べるという事実を知って、イオリは少し憂鬱になる。噛みつ疲れたり髪の毛を引っ張られたりする程度だと思っていたからだ。


 「ていうか召還するの初めてなの? 初めてじゃなければその人はどうなったか教えてほしんだけど……」

 「んー、確か初めてだと思うよ」


 もし、先に召還された者が死んでたらどうしようと、イオリは思っていたのでそれを聞いて少し安心した。でも、初めての挑戦者という事で攻略法がないという事だ。


 「そっか。それならいいんだけどさ。じゃあ俺にも魔法を教えてくれるの?」

 「ステラは教えられないよ! それにイオリに魔力があるか分からないし……」

 「そう……じゃあ剣術とか? 剣とかあるんだろ? できれば2刀流とかしてキリってカッコよく決めたいんだけどさ」


 イオリは最近影響されているアニメのキャラクターの真似をしてみたかった。ここも下手したら死ぬわけなのだから、デスワールドみたいなものだろうという軽い気持ちで。


 「ん? 剣とか武器はこの村にはないよー。みんな持って行っちゃったもん」

 「えっ?!……あ、そう」

 

 じゃあどうすればいいんだと、イオリは深いため息を吐いてから上を見上げる。そこには藁が広がっていて、空見上げた時のようなスッキリした気分にはなれない。それにやっていたスポーツは野球位で、選球眼がいいね! と褒められた位でとても戦いにはいかせるものではない。イオリは、詰んだなっと心の中でつぶやいた。


 「えーっとそれじゃあ、俺は何で戦えばいいのかな? 素手とか言わないよね?」

 「大丈夫だって、安心してよ。 これを使ったからだいじょーぶだよ!」

 

 あるなら先に言えよ、と心の中でつぶやいてイオリはステラの方に顔を向ける。ジャジャーンという効果音をステラは自分で口にして黒い壺から【それ】を取り出してイオリに見せる。ジャジャーンという効果音が似つかわしくない【それ】は――腕だった。

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