七
ワールド全体にいたプレイヤー達は、一瞬その動きを止めた。
壮麗な鐘の音がどこからともなく響き渡り、アナウンスが聞こえ始めたからだ。
「マグナスキル1種、天翔乱舞が発見されました。…繰り返します…」
パーティー募集で占められていたチャットログは、プレイヤー達の歓喜に満ちた発言でたちまち埋め尽くされ、弾幕のように流れ始めた。
「あったんだ本当に…」「うらやましい~」「獲得おめでとうございます!」
「おめ」「おめめ」「おめおめ」「めめ~」
「希望の光ががが」
「明日から本気出す!」
「掲示板に詳細よろしく!」「発生条件が気になる」
「先に頂いちゃいました。すいませんね」
「↑嘘はイカンよ」
「5Gマールで売ってください!!」
「オメデト」「おめでとう」
「引退撤回します!」
……
その時間帯にログインしていたプレイヤー達が一斉に発言を続け、いつ終わるとも知れなかった。
広人達四人は、中央都市の宿屋に場所を移していた。
アナウンスが始まったタイミングでNMDを倒したPTが他にいるならともかく、他所のプレイヤーに討伐の様子を目撃されていたとしたら、その情報はたちまち外部に漏れ、掲示板でプレイヤー名が特定されかねない。ある種の身の危険を感じた四人は、急ぎドロップ品を回収すると誰が先に言い出すこともなくほぼ同時に帰還スキルを使っていた。
チャットログが落ち着いた頃合を見計らって、四人は比較的人の少ない場所である宿屋に集合することにしたのだ。
「横殴りが発生条件だったとは…」
ベットの上で枕に顔をうずめたままリナが呟く。
横殴りと言われる行為は重大なマナー違反のため、協力要請でもない限り標的に先手をかけたプレイヤーに優先権がある。その為誰もが思いつかない方法であった。例え思いついたとしても、大問題に発展するリスクがある。
「イレギュラーだと思う。横殴りなんてフィールドNMD狩りなら起こりうることだし」
ユナがそう言うと、広人も意見を述べた。
「マグナのプレイヤーは運営の予想に反してマナーが良かったって事なんじゃないのかな?」
「それって下手をしたらカオスになるよね。みんなマグナスキルが欲しい訳だし、むしろそんな条件設定にした運営って、相当意地が悪いってことになるよね」
「他の可能性を考えるとしたら…、LAかな」
ユナが難しい顔をして言った。
高レベルプレイヤーが低レベルプレイヤーをPTに招き入れ、PTオプション設定にあるLAを選択したあとで狩りをすると、経験値やドロップの獲得権利が全て低レベルプレイヤーのものとなる。接続時間が異なるプレイヤー同士の格差を解消させるための設定だった。
「個人やPTによる独占防止って考え方もあるよね、フィールドとなると特に」
広人は以前、ゲーム雑誌のインタビューの中で、マグナスキルオンラインの開発チームが言っていた言葉を思い出していた。「すべてのプレイヤーが公平に楽しめる機会を用意している」という言葉を。
「ん~それにしてもリスク高いよね、この発生条件」
リナは依然として納得がいかないようで、やや不満気な表情で呟いた。
「でも獲得条件はNMDによって違う訳だし、むしろ私たちがドロップして良かったんじゃない?」
「そう考えたほうが気が楽になるよね…もちろん今回の獲得条件は公表出来ないけど」
ユナの言葉をフォローするように広人が続けた。
「何にしろ一筋縄では行かないのか、恐るべしマグナスキル。ってかめんどくさっ!」
枕を宙に放りながらリナは呟いた。
「そういえばあの亀、スキル狙いで狩ってたの?」
ユナが聞くと、ムクリと起き上がりリナが首を横に振った。
「雑魚狩ってたら、デカイのが勝手に乱入しただけだし」
それを聞いてユナと広人は吹き出した。
「レベル的に無理でしょ、私らまだ30半ばだし!」
「でもいい感じだったよね、あのまま行けそうな気がしたけど」
広人の言葉ににリナはウンウンと首を縦に振る。
「状態異常スキルがいい感じで入ったからね、もしかしたらって思ったけど」
「キミが来るまで30分続けてた…」
カナは広人を見つめながらため息まじりに言った。
「30分…」
標的の敵対値を調整しながらペアで狩るという方法は、それぞれが標的に与えるダメージを計算しながらパートナーの行動を予測することが必要となる。どちらかがスキルを使い損ねれば、当然事故となる。細心の注意をしながら的確なスキルコントロールを行うには、緊張感と集中力が肝要となるのだが30分間も続けるとなると、並大抵のプレイヤーには困難な作業と言える。
「それはそうと…」
リナとカナは揃って広人の方を向き、口を揃えてこう言った。
「キミは誰?」