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広人がVRMMOを始めるきっかけになったのは、医療機器メーカーに勤務する父親の影響だった。
脳神経伝達因子に作用するヘッドギア、通称・DORSはもともと視覚・聴覚障害者の日常活動を補助する目的で開発された医療器具である。莫大な開発費がかかるため、実用化は困難とされていたものだが、ゲーム開発企業各社が新世代汎用端末になりうる可能性を見出し、共同開発を申し入れたことから、現在のVRMMO登場までさほど時間はかからなかった。
その為、DORSは健康補助器具としての指定がなされ、医療機関での検査ならびに診断を受けなければ購入出来ないという条件がついた。さらには強制的に脳から肉体の各部位に送られる神経信号を中断させてしまうことから悪影響が懸念され、一日の装着時間が6時間までとされていた。はじめは自己責任での時間管理となっていたのだが、重度の使用者が増加したために、自動的に使用不能時間が設定されるように作り変えられたのである。
ゲームは息抜きだけのものという考えの広人にとって、父親がいきなり「DORSで遊べ」と言って来た時には驚きを隠せなかった。VRMMOに魅了されてしまったらどうするんだと、逆に問い返したほどであった。結局、様々な人との交流を図る場としてVRMMOを楽しんでみるということになった。広人は進学校の特別進学コースに籍を置き、部活動を行う時間に課外講習を受けていた。普通の高校生が部活動で人とのつながりを深め輪を広げていく中で、自分だけが大学に入ってからそれを始めるということに広人自身、多少の不安は感じていた。それにVRMMOは時間制限付きのゲームである。家族に心配をかけることなく、時間管理はDORSがしてくれるのだから大きな問題が起きるわけがないのだ。
マグナスキルオンラインはDORSと一緒に父親からパッケージをもらったことから始めるようになった。開発部門にいる父親は、ゲームメーカーとの接点が深いようで、話題作りのために広人を利用しているところもあった。時折交わす父親との会話のほとんどはDORSのことになっていた。
初めてVRMMOの世界に足を踏み入れた時、広人は少なからず感動を覚えた。本や漫画やゲーム・映画などの世界が、現実世界と見間違うほどのクオリティで広がっていたからだ。夢中でチュートリアルを消化し、時間の許す限りフィールドを駆け回った。
ある程度慣れ、自信がつきPT募集に飛び込み始めた頃である。
ユナと出会ったのは。