はじまり
「2分の遅刻だよ~」
「おっはよ~」
「なにかあったの?」
ゲーム世界にログインしてすぐにメッセージログが勢いよく流れていく、毎回のことながら多少の戸惑いはあるものの、ほっとする一瞬だった。
現実世界では午後10時を少し回ったところだった。
マグナスキルオンラインの「我が家」では、今日も変わらぬメンバーが待っていた。
「じゃいこっか」
「ID入口までジャンプするね、これ跳躍アイテム」
「あとでポーション系渡しますね、よろしく執事君」
こちらの挨拶を聞いてくれる間もなく、彼女達は次々と目的の場所へと跳躍を始めた。
PT勧誘申請を承諾してから、マップを開いてIDの入口を確認する。これから4人で向かう先は、6人用PT向けのIDであり実装されてまだ一ヶ月ほどのものだった。このゲームを始めて約一年、彼女達とは低レベル時にレベリングで知り合ったわけだが、以来ずっと行動を共にするようになっていた。
「先に入ってるね」
PTリーダーであるリナは時間に特にうるさく、高校生である自分と同じように一日に限られた時間だけこの世界にインしているようだった。
ID入口ではカナとユナが自分の到着を待っていた。
「今日の予定は1時間でID二ヶ所!それが終わったらお茶会一時間!」
「ルートはAで、今日はスキル狙いで行きますね」
この二人は移動しながら予定や情報を細かく教えてくれたり、時間のない自分に回復や補助アイテムを分けてくれたりする。かわりにドロップのほとんどは彼女達に引き取ってもらうことにしていた。
「武器ドロップあるといいなぁ」
「ちょっとアンタたちまだ外なの?早くしなさいよ!」
「へーい」
三人で顔を見合わせ、気合を入れてからIDの入場口へと入っていった。