特別行事
今日は2月14日、俗に言うバレンタインデーというヤツだ。
この日は町中が浮き足立つ。チョコを買い求めにスーパーに向かう女共、チョコを貰おうと張り切る男共。
正直、俺は見ていて嫌になる
チョコなんて自分で買えば良いだけだ。女の子に渡されるのが良いらしいが、3月14日のホワイトデーにお返しを渡さないといけない。必ずって訳じゃないらしいけど。
第一、義理チョコを貰って嬉しいとは思わない。好きな奴から貰ったチョコが義理チョコだなんて酷なだけだ。
ドスン!
「なぁ、郡山。お前、誰からチョコ貰いたい?」
「ぐえっ! っお前な、いきなり乗っかってくんなよ」
「良いじゃねぇかよ〜。で?誰が良いんだ?」
俺に乗っかってきたのは同級生の山岸 辰巳。俺の家のすぐ近くで八百屋をやっている親父さんの息子だ。勉強より遊びっつぅ今時の男子高校生
おっと、自己紹介してなかったな。わりぃわりぃ。
俺は郡山 万里。普通の冷めた男子高校生だ。ケンカには少し自信があるが、今は平穏そのもので役に立たない。
「相変わらず仲が良いんだね、辰っちゃんと万里くん」
「おう、春海っち。俺らの仲に嫉妬か?ww」
「ヤメロ、気色悪い」
「万里くんに同意」
「お前らヒドイィ」
「「ひどくないよ!(ねーよ!)」」
俺とハモったコイツは五条 春海。俺らと同じB組の同級生だ。髪を上の方で束ねるポニーテールっていう髪型をして、眼鏡を掛けている委員長みたいな格好のヤツだ。(実際は健康委員)
春海は俺とハモった事が分かると赤くなってそっぽを向いた。
………これがめんどくさい。
前から薄々気が付いていたが、どうやら春海は俺の事を好きらしい。近所に住んでてケンカ仲間でもある萩乃 才花によると、コイバナで春海は俺の話を赤くなりながらよく話すのだという。
実際、山岸には普通に接しているが、俺には赤くなって吃りながら接している。実に分かりやすい。
「3人でなに話してんの〜?」
「よお、才花」
「才花ちゃ〜(メシッ!」
「近付くんじゃねーよ、辰巳」
「顔面ストライクか、流石だな」
「才花ちゃん……」
「それよりもうすぐ時間だよ♪」
「あれ?もうそんな時間?」
「時間……アレか」
この西高校には特別行事がある。2月14日と3月14日にあるバレンタイン行事とホワイトデー行事。2月14日のこの日は校内の至る所でチョコが手渡される。 生徒を思って5年前から始められたこの行事は生徒から絶大な人気を博している。
俺には憂鬱な行事だ。狙ってくる女共から逃げ回らなければいけないからな……。
因みに同性同士でもチョコが手渡される。才花もよく山盛りのチョコを貰っている。
キーンコーンカーンコーン…
「ゲッ…鳴りやがった…」
「「「バレンタイン行事の始まりだーー!!!」」」
遂に始まった。バレンタイン行事が……。チョコを渡そうと狙ってくる女共から逃げ回る時間が……。
俺が青くなって目の前ではしゃいでいる3人を眺めていると、校内に開始を告げる放送が流れ始めた。
『今からバレンタイン行事を始めます。それでは、レッツスタート♪』
その合図を皮切りに一斉に動きだす女子。男子はというと、誰から渡されるのか話し合っていた。 さりげなく近付くと「俺はC組のあの娘に貰いたいなぁ。お前は?」とか「俺はあの娘から貰うんだ♪」とか話している。
「はあ……」
ため息を付きながら机に戻り、腰掛けると、ぴょんぴょん跳ねながら才花が近付いてきた。満面の笑みで才花は人の真正面に立つと、「えっと〜」と言いながら鞄を漁り……
「はい、万里。恒例のチョコですよ〜♪」
と、チョコを渡してきた。「ん・・・」と言い、チョコを受け取りながら体を反る。するとブン!と空気が震える音が聞こえ、座った状態の腹に位置する場所に拳が見えた。
「ありゃ、避けられた」
「よっと……。チョコ渡してその後に殴ってくるのは恒例だったろ?」
「万里生意気。かっわいくなーい」
「よし、お前には菊の花を与えよう」
「I'm sorry」
「分かれば良し」
そうそう、言い忘れていたが、バレンタイン行事で女子からチョコを貰ったら、男子はお返しに花を渡す。これは欧米スタイルを真似ており、欧米ではバレンタインの日は男性から女性に花を渡すんだとか。……少し恥ずかしい
才花にお返しの花を渡すと、コイツはにっこー!っと笑顔になった。この顔を見ると何て言うか、保護欲?みたいなのが沸き上がってくる。
……ロリコンの友達にやったら吐血したと言ってたな。気持ちは分かるぞ、友達君。