日記と昼食
今日から夏休みだ。朝起きる必要もないし、ぐっすり寝てやった。それでも昼前に起きたんだから健全だろ?
俺が起きてからすぐに親父は祭り会場に行った。町内会長や地区の代表たちとの会合と昼食会のためだ。親父が出ていってからすぐにマイが約束通り、昼食を作りに来てくれた。
「ケーちゃん、それパジャマ?」
「いや、ジャージだよ、部屋着」
「ふ~ん。寝ぐせ付いてるよ」
「お、おう、そのうち治るって」
昨日の約束通りに家の中を案内してやった。和風でありながらもヤクザ相手に討ち入り警戒をしているこの家を。俺の予想ではマイは嫌うと思っていたんだけど、女の子というか女性目線は違うんだな。ただの木造建築としてしか見てないみたいだった。やっぱり羨ましいと言う。俺はマンション暮らしのほうが羨ましいんだけどな。
2階まで上がったけど、俺の部屋は見せない。兄貴の部屋を見せてやろうかと思ったけど、何が置いてあるかわからないから止めておいた。思えば、1階からずっと案内してきたこの静かな家の中には、俺とマイの2人だけしかいない……。
まだ高校生になったばかりの2人だけど、女性は16歳で結婚が認められている。今の俺からするとマイはすでに結婚できる権利を持つ女性……。
……なんか、同年代の男としてはみじめな感じがする。俺だけが感じているのかもしれないけど。なんで男は18歳なのか、女は16歳なのか、理由はよく知らないけどなんか意味があるんだろう。
万が一だけど、万が一でも、もしかしたらマイは誰かの妻として俺んちに来るかもしれないってことだろう?
なんだろう、胸が締め付けられるようだ。想像しただけでも苦しい。マイを放したくない、離しくたくない。
「ケーちゃん、どうしたの?」
「え? いや、その~、あ~あれだ……なんでもないって! 下に降りようか。お昼は何?」
「なんでもないならいいけどさ、隠し事はよくないよ」
「そんな、隠すだなんて。マイに言ってもしょうがないことだからさっ」
「えぇ~気になる~。気になるから教えてっ!」
「……あ、あれだよ、ガスの元栓閉めたかなぁって思っただけ。な、マイに言ってもしょうがないだろ?」
「しょうがなくないよ! これからご飯作るんだもん。でも、外に出てるわけじゃないからあんまり関係ないかもね」
危ない、よくもまぁ、ガスの元栓なんて言葉が出てきたもんだ! すごいぞ、俺。
たぶんごまかしきれただろう、マイは鋭いところがあるからな。今はまだ結婚だなんて考えをマイにはしないでおきたい。ちなみにガスの元栓は親父がしっかりと閉めていったみたいだ。
マイは手際よく料理をして、あっという間に出てきた昼食は焼きそばだった。しっかりと肉も入っている。野菜も多いし、これって豪華な焼きそばじゃないか?
「はい、どうぞ~」
「いただきま~す」
……美味い。市販の焼きそばだから俺だって頑張れば作ることはできる。しかし、これには野菜や肉が入っているため、それを考慮して味付けをしなければならない。しょっぱくもなく薄くもなく、これは食が進む絶妙な味付けだ!
「マイ、今まで食ったなかで一番美味い焼きそばだよ。本当に」
「え? そんなに美味しい? じゃあ、成功かな」
「成功って?」
マイも一口食べてその美味しさにうなずいている。
「うん、成功だね。一番うまくできてる。焼きそばって初めて作ったんだ~」
マジかよぉ、人は初めて作る物を美味くする能力を持っているのか? いや、マイの料理センスだ。他の人には到底マネのできない高等技術だと、料理のできない俺は思っている。さすがは優等生だ!
焼きそばを軽く平らげた後に一緒にテレビを見ながら、のんびりしていた。14時になって祭りの手伝いに行くために着替えて、その時も1階にマイがいると思うと妙にドキドキしてしまった。このことは日記に書かなくてもいいだろう。
しかし、何かを忘れている気がしてならない。祭りの手伝いもあったけど、何か他の予定もあったような気がしている。




