親父と日記
一学期も終わったし、兄貴のことは親父に話したし、あとは夕飯をどうするかだな。いつも飯を作ってくれる信さんは兄貴が連れて行っちゃったし、いつ帰ってくるかも分からねぇもんなぁ。
「お~い、ケイジ~!」
下から親父が呼んでいる。いつもそうだ、階段の所で呼ぶだけで2階まで上がってこない。俺の返事があるまで待っているか、繰り返して呼んで来る。ドアをノックしたほうが早い気がするけどな。
いちいち部屋を出て、下に向かって返事をしてやらなきゃならない。かくいう俺も下には降りない。大した用事でもないのに呼ばれて、また2階に上がるのがめんどくさい。親父も同じ理由なんだろうか。
「な~に~?」
「おぅ、信がいないから夕飯買ってこいよ」
「カップラーメンでいいけど?」
「それもない。俺が昼に食っちまったから」
「ストックないの?」
「ないよ。コンビニでいいから買ってきてくれよ」
もう、めんどくさい。
親父から金を貰ってコンビニに行く。ジャージにサンダル。日が落ちても暑い。まだまだこれから夏が始まるというのにこの暑さだ、まいるよな。
コンビニは学校近くまで行かなきゃならない。自転車があれば楽なんだけど、親父がパンクさせてそのまま。直してもらうのに自転車持っていくのを渋って未だにパンクしたまま。昼間とか家にいるんだから持ってけっての。
溝田組の大御所やってる割には自転車屋さんとか助けに来てくれないんだよな~。……当たり前か。ただの区民だもんな。
コンビニの美味しい弁当を買ってきて、親父と居間で夕飯。特にこれと言って話すこともないし、親父もテレビに夢中。黙々と食べて部屋に戻る。どこの家もだいたいこんなもんでしょ?
兄貴がいると会話があるんだけど、難しい話をすることもあるし、溝田組のことは俺には関係ない。まぁ、住んでいるんだから関係あるっちゃあるけど、俺にはどうしようもないことだから。だって高校生だぜ?
トモノリから電話だ。
「あいよ~、どうした?」
「すっごい情報を手に入れた! なんとJETが日本上陸だぁ!」
「まじで!?」
「今、家か? サイト見てみろって!」
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
すぐにパソコンのお気に入りからJETプロレスのサイトを確認すると、トップページに日本公演の情報が書かれていた。これはアメリカプロレスの最高峰プロレス団体だ。
中学の頃、学校から帰ってきて夕方のニュース番組ばかりで退屈してた時、ケーブルテレビの番組をいろいろ見ていると斬新なプロレスをやっていた。あまりにも出来過ぎていてパソコンで調べると、なんと台本があるという。芝居なんだ。
プロレスではなく、プロレスを題材としたドラマ感覚で見ている。実はトモノリも俺と同じ頃に見ていたらしく、これが縁で親友になったってこともあるかもしれない。
「おいおい、マジじゃん!9月じゃんか、学校始まってるぞ」
「ダイジョブ、ダイジョブ、俺たち帰宅部でよかったな、間に合うって。やっと初上陸だぜ~、行くよな! どうする席はSS席?」
「SSって3万じゃねぇか。無理だろ~。A席1万かなぁ」
「兄貴さんに金を借りれないの? できたら俺の分もさ~、SSで見たいんだけど! 初上陸だから! もう無いかもしれないから! きっとトム対JDOだから!」
「見たい気持ちは一緒だけどさ、兄貴は金にうるさいんだって。肉親での金の貸し借りは絶対にしないってのが兄貴なんだよ」
「ふ~ん、ヤクザの割にはしっかりしてるのな~」
「今はヤクザじゃないって」
「じゃ、なんて呼べばいいの?」
「……ヤクザ?」
「お前がそういうから俺もヤクザとか言っちゃうんじゃん。まっ、とにかくさ、ちょっと兄貴さんに話してみてよ。日本じゃまだまだマイナーなんだから、もう無いかもよ! きっとトム対JDOだから!」
「わかった、わかった。聞くだけ聞いてみる」
それから適当な話をして電話を切った。時計を見ればもう0時を回っていた。重要なことに気が付いた。
「やべぇ、宿題終わらせなかった」
夏休みの宿題を、夏休みに入る前に終わらせる。これは中学の頃からやっている習慣で、なんかアウトローな感じでカッコ良くない? 夏休みにやらないんだぜ?
もちろんできる程度ね、夏休み中にやる宿題とかもあったし。でも、今年はトモノリとJETの話をし過ぎたため、宿題一つも手を出すことなく夏休みに突入してしまった。
悔やんでも仕方がないから、今日一日のことを日記に書いて寝ることにする。




