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溝田家と刺客

 溝田橋組は親父の代で解体。今では地域貢献団体みたいな形に変わって、その名も『溝田組』だ。この王子周辺の町内会と協力して、祭りの準備や的屋の調整をしている。

 自分たちが愚連隊とか言っていても、世間一般から見てみればヤクザ者と同じだ。いくら足を洗ったとしても元ヤクザ者が簡単に一般の世界に入れるわけがないんだけど、そこは警察に世話してもらったらしい。警察の介入で組を畳んだけど、その後の生活を警察が世話してくれたんだから溝田橋組はいいヤクザだったんだろう。でなけりゃ組を畳んだと同時に親父は塀の中にいるはずだし。いいヤクザってのはちょっと言いすぎだな。


 で、明日の祭りに溝田組は的屋設営から参加するし、神社の相手もする。俺はその手伝いに行くってわけ。たぶん、肉体労働をやらされるんだろう。いつもは兄貴がやってたんだよな。でも、さっき言っていたみたいに馬を買いに行くから、祭りの手伝いを俺に押し付けたんだろうよ。溝田組の組長は兄貴だっていうのにさ。そうそう、兄貴は溝田橋組を継ぐことはできなかったけど、溝田組には初代組長としてその職に付いている。親父は大御所ってやつ。いちおう裏で兄貴を支えているらしい。


 明日の昼の約束をしてマイと別れた。マイにしてみればこの玄関も羨ましいんだろうな。でも、俺はこの玄関がめんどくさい。いや、この家自体がめんどくさい。

 それを説明しようかな。その昔、愚連隊をやっていたもんだから、組同士の抗争で討ち入りの刺客ってのを防ぐために門から玄関までは砂利を敷いてある。少しでも歩きにくくするためらしい。

 玄関は引き戸だ。引き戸を壊しておけば家に入りずらいということらしい。


 5人は居られる広い玄関も靴を脱いで廊下に上がるのに20cmぐらい高さがある。こんなに高いのも刺客がつまづくようにとか、簡単に家に上がれない工夫らしい。今では俺が文句を言ったために段差を設置して、廊下に上りやすくなった。

 板張りの廊下に上がった途端に右に曲がる。これも刺客を家の中に入りにくくするためで、2人が並んで通ることはできないぐらい狭い。これもたくさんの刺客が一気に入れない工夫だ。

 少し進むと今度は左に直角に曲がる。廊下は突き当りまで続いる。そこには親父の書斎がある。廊下の左側にはリビングというか畳の居間がある。右側にはキッチンがあって、風呂、トイレと続いている。


 居間は意外と広い。20畳ぐらいか、もう少しある。廊下に並んだ6枚の襖を締め切れば待ち伏せしているのも気づかれないという設計らしい。いつもはここで飯を食ったり、テレビを見たりしている。掛け軸とかも飾ってあるけど、いわゆる和室ってやつだね。

 ここから庭を眺めているのもいいけど、花とかもないし飾りっ気がない。母さんがいた頃はガーデニングっていうのかな、綺麗にしてあった。今では何かの木が生えているだけだ。だから夏だけは新緑が綺麗なんだ。


 廊下の突き当たりは親父の書斎。中がどうなっているかは不明。左に2階に上る階段がある。この階段も途中で直角に曲がっている。刺客が一気に登ってこれないためにだ。でも、そのおかげで兄貴と何度もぶつかりかけたことがある。そして、少しだけ段差が高い。はっきりって家にはふさわしくない階段だ。


 2階には俺の部屋と兄貴の部屋、そして信さんの部屋がある。兄貴の部屋は入ったことがないからここも不明だ。昔の建物にしては珍しくって2階にもトイレがある。刺客のことだけじゃなくて家族のことも考えていたんだと思ったら、信さんの部屋が昔は客間だったらしくってお客さん用のトイレだったらしい。まぁ、今では俺たちのトイレだけどさ、これだけはこの家で一番褒められるとこだね。


 俺の部屋は襖の引き戸をドアに変えさせた。年頃の男の子に鍵もない部屋は辛いだろ?

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