マイと放課後
1学期最後の授業は社会だった。でもなんの話をしていたかは覚えていない、寝ていたからね。昼休みにマイとの交渉に成功したその安堵感でぐっすりだった。学校ではケーちゃんなんて呼ばれることもなくなったからOKだ。
「ケイジ! 帰ろうぜ!」
こいつはトモノリだ。いろいろあって高校に入ってから親友と呼べるヤツだ。
「明日から夏休みだな~! どうする? 明日どこ行く? つーか祭りだな! 何時集合?」
「俺は夕方から手伝いだから、お前一人で行ってこいよ」
「えぇ~、マジかよぉ。あれか、実家の手伝い?」
「そうだよ。何をやるのかは知らねぇけど、親父が来いって言うしさ」
「もしかして兄貴さんの代わりじゃねぇ? しばらく見てないし」
「いや、昨日帰ってきた」
「おぉ~、じゃあ、今年も楽しい祭りになりそうだなぁ~!」
「楽しくねぇって」
「兄貴さんが暴れるからか?」
「そうだ」
「まぁまぁ、それも祭りのイベントと思って楽しめばいいじゃない? どうせマイちゃんとは会うんだろ? 楽しい祭りじゃねぇか! 親友の俺とは会わないくせに~、うらやましいな~、いいな~。なんで俺には彼女がいないの? なんで、なんで?」
「……スケベだからな」
「ケイジほどスケベじゃない。超紳士だよ、もはや男爵だから!」
「意味が分からねぇよ、それに俺はスケベじゃない」
「ほんとに? マイちゃん見ても何とも思わないわけ? 思わないとか言うなよ、あんなに可愛いんだからよ! なんでマイちゃんはお前と付き合ってんの? お前は……さほどイケメンじゃないし。俺のほうがカッコよくない?」
「少なくともお前よりか俺のほうがカッコいい」
「なんだか、むなしくなってきた。嗚呼、俺も彼女が欲しい! やべ、用事が会ったんだわ! お先!」
やかましいほど明るいヤツでさ、あいつの真剣な顔を見るのは女に告白する時だな。まっ、そんな真剣な顔でも俺のほうがイケメンだけど。フラれても笑顔で戻ってくる。そこがいいんだ。
下駄箱に行ったらマイがいた。そうだった、一緒に帰る約束してたんだった! トモノリめ、邪魔しやがって。
「ケーちゃん、遅いよぉ」
「わりぃ、トモノリと話してた。ねぇ、ケーちゃんって呼ばないって約束したよね?」
「……もしかして恥ずかしいの?」
「は、恥ずかしいわけ無いだろぉ~」
女の手前で恥ずかしいなんて言えるかよ。素直に恥ずかしいと言えればいいんだろうけど、まぁ、言えないよな。
「でも、今は……2人っきりなんだよ?」
放課後というのに玄関には誰もいない。部活が盛んな高校だから帰る生徒が少ないのは知っているが、このタイミングで2人だけになるとは思わなかった。
「じゃケーちゃん、帰ろ?」
可愛い。胸が締め付けられるようだ。どうしてマイは恥ずかし気もなく言えるんだ?
校門を抜けて王子駅とは反対に歩いて行く。俺んちは学校から十分ぐらい歩いて、明治通りから脇に入ったところにある純和風の二階建て一軒家だ。うちの前は片側1車線の車道だが、車はほとんど通らないから静かなもんだ。この車道を渡ればマイが住んでいるマンションが建っている。
家の前まで来るとマイは俺んちの門を眺めている。
「やっぱりさ、ケーちゃんちって大きいよね」
「そう? マンションのほうが大きいじゃん」
「そうじゃなくて! 庭付き一戸建てじゃない。私も住みたいな~」
……一緒に住もうって言ったらプロポーズになるんだろうか。
「古い家だから鴨井は低いし、ドアじゃなくて襖だし。古~い旅館みたいだぜ? 畳だし。フローリングとか憧れるわ。一軒家ってのもいいもんじゃないぜ?」
「それって自慢?」
「え? そ、そんなつもりは無いって」
「私は住んでみたいのにさ」
難しいやり取りだ。マイが一軒家に憧れているのなら、そこに住んでいる俺が何を言ってもダメなんだろう。
「なぁ、明日来るじゃん? 家の中を隅々まで見ていっていいから、自分の目で見てみな~」
「う~ん、ケーちゃんの言うとおりかもね。それじゃ、明日のお昼に来るからね」
「わかった。よろしく~」
「じゃあね~!」
マイは狭い車道を渡っていった。いくら車が来ないといえども、信号があればいいんだけどな。
ん? 俺んちは自動ドアじゃないよな? 門が勝手に……。
門が開ききると兄貴が立っていた。
「兄貴!?」
「ケイジぃ~、帰りか?」
「おぉ。制服着てるんだからわかるだろ? で、兄貴はスーツ着てんだから出かけんだろ?」
「おっ、当たりだ。じゃあ、俺も当ててやろうか? マイちゃんと一緒に帰ってきたろ?」
「!? なんで、わかんだよ?」
「後ろにいるから。ね? マ~イちゃん?」
あっ、マイが戻ってきていた。今のやり取りを見ていたんだろうか。




