神輿と主役
「お~い、ケイジ~! あっとこりゃ失礼、お二人さん一緒でしたか」
「うるさいぞ、トモノリ」
「そういうなよ~、ちょっと茶化しただけじゃん。俺も彼女欲しいの!」
何言ってんだこいつは。
「トモノリ君は彼女になる人っていないのかな?」
「なにない~それ~、彼氏がほしい女子だってたくさんいるのに、上から目線ですか? 自分はケイジがいるから余裕って?」
「そういう意味じゃないよっ! もうひねくれすぎ! 彼女できないよっ!」
「マイの言うとおりだな。俺ぐらい純真じゃないと彼女なんてできない」
「マジかよ、ケイジが純真? この世の終わりだぜ!」
このやろ~。
「あ、そうそう、2人は読書感想文どうする?」
「私は難しい本は苦手だから、外国の童話にしようかと思ってるんだ」
「童話? マイにしてはずいぶん簡単じゃない?」
「でもね、童話の原作なの。いろいろあるんだよ、子どもに読みやすくしてるからメルヘンでファンタジーぽかったりするんだ。原作はもっと残酷だったりするのよ。その違いを感想文にしちゃおうと思って、いろんな童話の本を読んでるの」
はぁ~、めっちゃ難しいことをしようとしてるじゃん。もはや読書感想文じゃないだろう!
「相変わらず秀才だねぇ、マイちゃんはさ。で、ケイジは?」
「まだ決まってない。お前は?」
「この前、発売された突現者ってやつ」
「あれってサスペンスじゃなかったか? お前、感想なんて書けんの?」
「それは我が校の素晴らしいところじゃないか、感想文は短くてもいい! 小学校みたいに原稿用紙5枚以上じゃないとだめってわけじゃないしさ」
こいつ、1枚以内で終わらせるつもりだな。
「でもさ、そんなんでいいんだから読書感想文なんてめんどくさい宿題だよな~。必要あるのかねぇ」
「先生たちも大変よね。いちおう読書感想文コンテストっていうのに出品しているみたいよ。トモノリ君も出品してもらえるぐらい書いて?」
「無理無理。俺は夏は遊んでいたいもん。……あれ? あそこにいるの番長じゃない?」
ほんとだ。副番もいるわ。2人とも神輿を担ぎ始めたぞ。一般人に担がれている神輿が一通り境内の中を回った後に、兄貴の仲間が混ざっていくと自然と担ぎ手が代わっていく。
兄貴に身分が近い舎弟は神輿の先頭で担ぐ。神輿の先頭は華らしい。先頭にいるのは確か副番の兄貴さんだよな。当時の副番は今でも兄貴を支えているなんて、なんか男の友情を感じるな。
「おっと! ケイジ! 兄貴さんが乗ったぞ!」
今年もやっぱり登ったか。いつの間にやら神輿は兄貴の仲間たちが担いでいる。そして兄貴が神輿に登る。この行事はいつまで続くんだろうな、しみじみ感じるわ。俺も歳とったな。神輿が近付いてきた。どんどん近付いてくるぞ? 掛け声がうるさいな~。なんだなんだ! 目の前まで来たぞ!
「来い! ケイジ! お前も乗るんだよ!」
「何言ってんだ、兄貴! バカだろ!」
「お前も乗せてやるって言ってんだ! よし、番長くん! 宮堀弟! 行け!」
なんだ! 番長に副番!
「溝田ケイジぃ、お前は神輿に乗らなければいけない」
「溝田君、覚悟をすることは必要だ。さぁ、行こう!」
放せ! うわっ! 神輿に乗った! 乗っちまった! かなり揺れる! 揺らすな!
なんなんだ! なんか異様な景色だな。危ねぇ! こんなのに兄貴は乗ってたのか!
「どうだ、ケイジ! なかなかいいものだろう! お前と一緒になるとは思わなかったぞ、楽しいなぁ! 最高の祭りだ! これぞ祭りだ! そして俺がこの祭りの主役だ!」
ちくしょー、兄貴め!
「ケーちゃん! カッコいいよ~!」
マイ、やめてくれ、恥ずかしい!
「よし、俺もケイジを支えてやろう! おりゃ~!」
トモノリめ、調子のいいことを。
……足がガクガクだ。もう立ってらんねぇ。ベンチ、ベンチ。
「カッコよかったよ~、ケーちゃん」
「よせよ、恥ずかしかったんだぞ」
あんな所もう二度と立つかよ。足が駄目になっちまう。
「ま~たまた~。ノリノリだったじゃ~ん?」
「お前、疲労困憊の顔をしているくせに口だけは達者だな」
「俺の取り柄だぜ。……俺も座らせて」
あ~、もう立てない。兄貴は平気で舎弟と話しているのに。慣れてんだな。