歴史と神輿
すげぇ、賑わっているな。まだまださびれてないってことかな。あっ、マイからメールが来てる。喧嘩の最中に来てたのか。親父のところって境内の実行委員会のところだな。そういえば待ち合わせ場所とか決めてなかったもんな。早く言ってやろう、親父たちの相手をさせとくのも可哀想だし。
この出店もあの出店もあっちもこっちも、手伝ったのって俺なんだよな。この祭りができるのも俺のおかげなんて優越感があるわ。兄貴は毎年こんな気分だったのかな。いや、兄貴のことだからみんなの祭りとか言うな。
「あっ、ケーちゃん、お帰り……ってその顔、なぁに?」
「何ってなんだよ?」
「なんか腫れてるよ……」
触ってみて初めて気がついたけど、ほんとだ。番長に殴られたやつだな。そんな言うほど腫れてないと思うけど。
「ちょっとな。それより……将棋なんて出来たのか?」
「これは挟み将棋よ。おじさんに教えてもらったの」
「マイちゃん、おじさんじゃなくてお義父さんって呼んでいいんだよ! マイちゃんが家に来てくれたらうれしいな~!」
親父……。酒のせいだな、恥ずかしげもなく。こっちが恥ずかしいわ。しかし、やっぱりマイは頭がいいんだな。習ったばっかりなんだろ。
「わしも、わしも負けた!」
みんなと一緒に酔ってるよ、町会長。他にも負けたと名乗り出るおじさんたち。誰もマイに勝てないのかよ!
祭りなのはわかるがやけに騒がしい。あれが始まったんだな。兄貴とその舎弟たち、いや、伝説の番長時代の舎弟たちによる兄貴を通すための道ができるんだ。普通ならありえない。どう考えても異常だと思うけど、町内の人たちは心が広いのか、それを許してくれている。兄貴も堂々と通ってくるけどさ、その時に出店の人たちと挨拶しながらってのが印象を悪くしてないのだろうか。
境内にぞろぞろと入ってくる大の大人たち。そうなると神輿が出るんだ。神輿を担ぐ若手集がいないと、人を集める祭りもあるそうだ。その分、ここはいいほうだな。
神輿は20人ぐらいで担ぐ感じだ。大きな祭りと違って神輿の周りまで人でもみくちゃになることはない。神輿は境内の中を担いで周るんだけど、それもしきたりらしい。他の祭りだと町内を周るのにな。この神社の歴史を深く知ればわかることなんだろうけど、北区はそこまで力を入れてないようで、せいぜい神社の出自がわかるぐらいだ。子どものころに調べたような気がしたけど忘れちゃったな。
法被姿の兄貴はこれから神輿に飛び乗る。兄貴が高三の時に飛び乗って以来、恒例となっちまった。兄貴が上に乗る時だけは舎弟が担ぐ。決して力ずくで神輿を奪っているわけではない。まぁ、始めて飛び乗った年は力ずくだったらしいが。
そのあとが大変だった……。やっぱりヤクザと罵られたし、町会長も顔を赤くして怒ってたな。兄貴は高校最後の記念だからとか言ってたけど、それがあった後から祭りに来る人が増えたのも事実だ。学校でも話題になったし。カッコよく言えばすたれていた祭りに人気を戻したってところか。兄貴のくせにな。
「ケーちゃん、お兄さんはまた乗るの?」
「そのつもりだろうね。法被を着てくるって言ってたし、舎弟さんたちもいるし。これはやるだろう」
「ちょっとそれが楽しみってところがあるもんね」
「マジ?」
「そうよ、なんか楽しそうでいいじゃない? 乗ってみたいな~って思うよ」
「じゃあ、兄貴に言って乗らせてもらおうか?」
「いい! 恥ずかしいもん!」
可愛いな~、マイは。