勝敗と結果
見てみろよ、番長としてのプライドが相打ちのようなふがいない結果を残したことを許せなかったんだろうが、兄貴の一言で、名誉の負傷的な感覚になったんだろう、救われたという顔をしている。まるで師匠と弟子みたいだな。
「よし、ケイジ。始めるぞ、準備はいいか? 俺が勝ったら番長くんの勝ちだ。お前がもし勝つようなことがあれば、お前の勝ちって認めてやるしかない。好きなように学校生活を楽しめばいい。まぁ、その昔番長として学校生活を送った俺としては、番長になったほうが普通と違って面白いと思うけども、それはお前の意思だから仕方がない。好きにするといいさ。勝って自ら番長を名乗るのもいいからな」
「俺は番長にならないって」
「……仕方ないな。番長くんたちの意思をついで俺は勝つとしよう、そこで伝説の番長の戦いを見ているといい。さぁ、かかってこい、ケイジ!」
こうなったらとことんやってやるか。絶対負けない。番長生活なんてやってられっかよ!
「あっ、ちょっと待った! 信、スーツ持ってて。ネクタイも頼むわ。引っ張られたらまずいからな」
兄貴め、わざとタイミングずらしやがったな。場の空気が兄貴のものになっちまった。
「わりぃな、スーツで喧嘩はよくない。さぁ、OKだ。ケイジ、来い!」
「ちょっと待った! 靴ひもを結び直すわ」
これでタイミングをこっちのものにしてやる。
シャドーボクシングをしているな。あれ? これって準備運動の時間をあげちゃってんじゃないのか? いや、ボクシングなんて兄貴はやってたか?
「いくぞ、ケイジ! 喧嘩に待ったはない!」
汚ねぇ! ちくしょう、まじめに喧嘩なんかしてられるか! 1発で終わらせてやる! フェイントだ。頭と見せかけて腹を狙うんだ。
「ケイジ。俺はお前の兄貴だぞ? どういう意味か分かるか?」
当たらない! 当たらない! 前蹴りも当たらねぇ!? こんな動き方、前の喧嘩じゃしてなかった、スルスルと避けるなんて!
「おいおい、そんなもんか? 本気出してこい!」
「うるせぇ!」
なんで当たらねぇ! 待てよ、これはボクシングじゃないな。見たことがない構えだ。
「こっちも手を出すぞ!」
平手だと! 舐めやがって! ぶっ飛ばしてやる! ……なっ!
ぶっ飛ばされた? 俺、倒れてる? 見えるのは空か? ただの平手だった。頭がクラクラ。カウンターだったか。額を殴られたような。
「おぉ~、立ち上がるか。さすが俺の弟だ。どうする? まだかかってくるか?」
うるせぇよ。うわ、やべぇ……顔面を狙われる。今度は……拳か。足が、体が動かねぇ!
「ケイジ、俺をナメるなよ!」
……寸止めかよ。そっちが舐めてるじゃねぇか、本気の喧嘩はどこ行ったんだよ、ふざけやがって。……おっと、また倒れちまった。パンチの風圧で倒れたんじゃねぇぞ。漫画じゃないんだから、足に力が入らねぇんだよ。
「お前も太極拳をやった方がいいな。実戦では初だったが案外役に立つみたいだ。俺も驚いた」
試してやがったのか、クソ兄貴! ……くそぉ。でも負けたんだよな。
「しかし……俺が強くなりすぎてしまったのか、お前が弱くなったのか。たった1発だぞ? 番長くんとの喧嘩で疲れていたことにしてやろうか? それとも、戦い方を間違えたか? シャドーボクシングにひっかかったんじゃないのか?」
くそぉ、兄貴め。腹が立つくらい考えが読まれている。確かにボクシングだろうと思っていたさ。
「お? 立ったか。何度も何度も這い上がるのはいいことだ。這い上がったぶんだけ成長したと言うことだ」
「う、うるせぇよ。……約束は守ってやるよ」