副番長と兄貴
「番長、本当にやりますか? 僕は溝田君と戦いたかったけど、今はちょっと戦えるメンタルじゃありません」
副番は俺と兄貴の関係を知って、本当にやる気をなくしたらしい。かかってこいと言わんばかりに自信に溢れていたのに緊張感なくメガネを拭いてさっきまでの闘争心は消えたように感じる。こんなにやる気を失うほど期待していたというのか。
王道の副番キャラだろうか、それともメガネのせいか情報通のイメージがあるというのに、俺たち兄弟の情報は手に入らなかったのかなぁ。それとも本当の兄弟だと信じきっちゃって情報を探さなかったんだろうか。まぁ、世間一般的には義兄弟って方が珍しいしな、あ~ぁ、顔に悲壮感が出ている。なんか申し訳なっちゃうな。
「溝田、お前はタイマン張るために来たんだろ? なら、ここで止めないよな?」
「もう一度言うけど、タイマン張るというよりも、あんたとの関係を終わらせるためだ。俺はあんたに負ける気はない。だから、勝っても『俺に勝ったから高校の番長になれ』とか絡んできてほしくない。いいな、番長として約束できるよな?」
「その約束は、俺に勝てたらということにしてやろう。お前は、俺に負けて、1年の番長になるんだ!」
番長の気合がいよいよ大きくなってきた気がするぞ。確か兄貴と喧嘩した時もこんな感じがしたな。これが喧嘩の緊迫感なのか? 俺も気合負けしてられないぜ。
「2人はやるんですね。わかりました。それでは、僕が審判を務めます。まぁ、喧嘩に審判は必要ありませんが、再起不能になってしまっては今後の学校生活に支障が出ます。必要とあらば間に割って入りますね」
再起不能までボコボコにするつもりはないけども、俺も番長も副番のルールに納得した。でも、一発殴ったり、蹴ったりすればそれなりに支障は出るんだけどな。そういえば、兄貴が骨折してもそれを隠し通して喧嘩に勝てって言ってたな。そのほうが勝ったときにカッコいいからって。
さぁ、いよいよだ。決着をつけてやる。番長は空手か? なんだか構えて長ランがなびいている。なかなかフォルムがカッコいいじゃないか。よし、余裕がある、全体が大きく見えている。緊張はしていない。これなら勝てる!
ん? 番長が構えを解いた。そういう戦法なのか?
「溝田君、一旦中止だ。邪魔者が来たようだ」
俺の後ろ、校門のほうを2人は見ている。振り返ると黒塗りのベンツが入ってきていた。あれはうちのベンツだ! なんでだ!
どんどん近付いてくるベンツ。運転手が信さんなのも見える。
やっぱり、ほら、出てきたぞ、兄貴が。ばっちりスーツで決めているけど、あれ? なんか怒ってる?
「ケイジ~、てめぇ、なんでこんな面白そうなことを黙ってやがるんだ!」
えぇ~!?
「ちょっと待てよ! 面白そうってなんだよ! つーか兄貴には関係ないだろ!」
「確かに関係ねぇ! だからこそ見ているほうは面白いんじゃねぇか!」
ん!? こいつバカだろ、話にならねぇ! 何で来てんだよ……。
「あの、溝田君、こちらはお知り合い? というか兄貴と言っていたけども? もしかして?」
「あぁ~、こいつは俺の兄貴です。例の血の繋がってない」
「なんだって!?」
副番も番長も兄貴を初めて見たようだ。そりゃそうか、年離れてるもんな。
「ケイジ! 兄貴に向かってこいつとは何だ! 尊敬をしろ!」
「……はいはい。もう、なんで--」
「あなたが、我が高校の伝説の番長、溝田さんですね!?」
おっと、副番のキャラがチェンジしたみたいだ。なんだ、この人は番長マニアなのか? メガネが、いや、目がキラキラしているぞ!
「そうだ、俺が伝説の番長だ。で、今の番長はそっちの長ランだな?」
「はい!」
なんか、番長がかしこまっているぞ。え? 本当に兄貴ってすごいのか?
「僕は副番をやっています。宮堀と言います」
「宮堀……宮堀って言えば俺の時にも副番やってたな。お前はじゃあ、弟か?」
「はい! 溝田さんのご活躍は兄から聞いてました! お会いできて光栄です!」
そうか。だから副番は兄貴を慕っていたのか。……家にいる兄貴はそんな慕えるものじゃないのに。