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 第0楽章 Nコンが結んだ四人の出会い


本作をお読みいただき、ありがとうございます。


この物語は、東京藝術大学と桐朋学園大学を舞台にした音楽青春恋愛小説です。


物語は大学生活から始まりますが、その前に、四人の運命が初めて交わった日を描く「第0楽章」をお届けします。


舞台は、二〇××年夏に開催された NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)高校の部・関東甲信越ブロックコンクール。


この日、まだ高校一年生だった四人は、互いの存在も知らないまま同じ会場に集まります。


そして、本人たちだけではなく、穂奈美と亜里砂、それぞれの母親にも思いもよらない再会が待っていました。


すべての始まりとなる物語を、どうぞ最後までお楽しみください。



 二〇××年、夏。


 東京都渋谷区――NHKホール。


 この日、全国への切符を懸けたNHK全国学校音楽コンクール(Nコン)高校の部・関東甲信越ブロックコンクールが開催されていた。


 全国各地から予選を勝ち抜いた高校合唱部が集まり、会場は本番を前にした緊張感と、若き歌声への期待に包まれていた。


 その舞台に立とうとしていた一人が、大妻中野高等学校一年生の**志賀穂奈美しが ほなみ**だった。


 穏やかな笑顔の奥に、芯の強さを秘めた少女。


 幼い頃から歌うことが好きで、将来は声楽家になることを夢見ている。


 同じ頃。


 豊島岡女子学園高等学校一年生の**木下亜里砂きのした ありさ**も、同じ会場にいた。


 澄み切った高音が持ち味で、誰よりも音楽を愛する少女だった。


 互いの存在を知らない二人は、それぞれ別々の控室で本番を待っていた。


 一方、その客席には、娘たちを応援する家族の姿もあった。


 穂奈美の母、志賀美咲しが みさき


 そして亜里砂の母、木下奈緒きのした なお


 開場後、人混みのロビーで二人は偶然すれ違う。


 一度通り過ぎた美咲は、ふと立ち止まり、ゆっくりと振り返った。


「……もしかして、奈緒ちゃん?」


 その声に女性も足を止める。


「えっ……その声……美咲ちゃん?」


 二人は顔を見つめ合い、次の瞬間、同時に目を丸くした。


「えぇぇっ!? 本当に美咲ちゃん!?」


「奈緒ちゃんじゃない! 何十年ぶり!?」


 二人は思わず笑い合い、その場で固く握手を交わした。


「最後に会ったの、中学校の卒業式だったよね。」


「そうそう! あれ以来だから……三十年近く経つんじゃない?」


「全然変わってないね。」


「それはお互い様よ。」


 懐かしさが一気に込み上げ、話は止まらなかった。


 二人は東京都中野区立桃園第三小学校へ入学し、そのまま中野区立中野東中学校まで九年間、同じクラスになることも多かった幼なじみだった。


 一緒に運動会を走り、文化祭で笑い合い、卒業式では涙を流した。


 そんな親友同士だった二人が、大人になって偶然再会したのである。


「娘さん?」


「うん。穂奈美っていうの。歌が大好きでね。」


「うちも亜里砂っていうの。小さい頃から歌ばかり歌ってるのよ。」


「えっ!? 高校一年生?」


「そうなの!」


「うちも!」


「まさか同い年!?」


 二人は驚きながら笑った。


「それで学校は?」


「大妻中野。」


「えっ!? うちは豊島岡女子学園。」


「すごい偶然……。」


「まさか娘たちが同じNコンに出場してるなんて。」


 美咲は思わず笑った。


「これは運命かもしれないね。」


「本当に。」


 しばらく思い出話に花を咲かせたあと、美咲がスマートフォンを取り出した。


「もう離れ離れになるのは嫌だから、連絡先交換しよう。」


「もちろん!」


 二人は笑顔でスマートフォンを向け合い、連絡先を交換する。


「今度、家族ぐるみで会おう。」


「絶対!」


「約束だからね。」


「うん。」


 何十年という時を超え、親友との縁が再び結ばれた瞬間だった。


 その頃、出演校の生徒たちも舞台袖へ集まり始めていた。


 北海道札幌南高等学校一年生。


 合唱部に所属し、自らも歌いながら指揮者を目指していた少年――長谷川輝昴はせがわ すばる


 そして、富山県立富山いずみ高等学校一年生。


 幼い頃からピアノ一筋で歩み続け、絶対音感と相対音感を併せ持つ少年――景山朔太郎かげやま さくたろう


 四人は偶然、同じ舞台袖近くで顔を合わせる。


「次は大妻中野高校の皆さんです。」


 場内アナウンスが流れる。


「志賀穂奈美さん、準備をお願いします。」


 その名前を耳にした亜里砂は、小さくつぶやいた。


「志賀穂奈美さん……。」


 続いて、


「豊島岡女子学園高校、木下亜里砂さん。」


 穂奈美もその名前を聞き、静かに記憶に刻む。


 さらに出演者紹介では、


「北海道札幌南高校、長谷川輝昴さん。」


「富山県立富山いずみ高校、景山朔太郎さん。」


 と名前が読み上げられた。


 四人は互いの顔と名前を初めて知る。


 もちろん、この時はまだ誰も知らない。


 数年後。


 穂奈美は東京藝術大学声楽科へ。


 輝昴は東京藝術大学指揮科へ。


 亜里砂は桐朋学園大学音楽学部声楽専攻へ。


 朔太郎は桐朋学園大学音楽学部ピアノ専攻へ。


 そして、この四人が、誰も想像しなかった「交際〇日婚」という人生を選び、家族になることを。


 それは、まだ少し先の未来の物語である。



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第0楽章では、穂奈美・亜里砂・輝昴・朔太郎の四人が、Nコンという一つの舞台で初めて出会うまでを描きました。


また、穂奈美と亜里砂の母親が、小学校・中学校時代の親友として何十年ぶりに再会する場面も、本作の大切な縁の一つとなっています。


この時の四人は、まだ互いの名前を知っただけ。


まさか数年後、東京藝術大学と桐朋学園大学へ進学し、二組の「交際0日婚」夫婦となり、さらには四人で同じ家に暮らすことになるとは、誰一人として想像していませんでした。


物語は、いよいよ第一楽章へ続きます。


第一楽章では、大学入学、再会、そして交際0日で婚姻届を提出するまでの物語を描いていきます。


もし本作を気に入っていただけましたら、ブックマークや評価、ご感想をいただけると大変励みになります。


そして、皆さまから応援をいただけましたら、第二楽章以降では、秘密の新婚大学生活や演奏会、学園祭、コンクールなど、四人の音楽と夫婦生活をさらに描いていきたいと思っています。


それでは、第一楽章でまたお会いしましょう。


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