第二話 異国の空と、奇妙な少女 草案
朝の陽が木々の隙間から差し込む頃、俺たちは山を下り始めていた。
フランチェスカはほとんど喋らなかった。
時折、俺の顔をチラチラと見上げては、すぐに目を逸らす。昨夜の銃声が、まだ彼女の耳に残っているのだろう。
「この先を下りれば、街に出られるはずです……」
彼女の言葉遣いは丁寧だった。まるで貴族の令嬢のような、洗練されたイタリア語。
俺は高校の世界史で少しだけ習った程度の知識を総動員して、なんとか会話を繋いでいた。
二時間ほど歩くと、視界が開けた。
「……ここは?」
眼下に広がるのは、石畳の街並みだった。
赤い瓦屋根、尖塔を持つ教会、城壁。明らかに日本じゃない。
しかも、現代のイタリアの観光地とも違う。もっと古びていて、埃っぽくて、生々しい。
フランチェスカが小さく言った。
「ここはモンテカティーニの近くです。私の……故郷の、すぐ傍」
俺は言葉を失った。
イタリア? 中世……?
いや、待て。冷静になれ。まずは情報を集めないと。
街に入ると、市場の喧騒が俺たちを迎えた。
商人が大声で何かを叫び、荷馬車がガラガラと通り、焼いたパンの匂いが漂ってくる。
そして、道端で人々が集まって話している声が耳に入った。
「……フランスの戦いはまだ続いているらしいぞ」 「オルレアンの包囲がどうとか言っておったな」 「イギリスめ、いつまで粘る気だ」
俺は凍りついた。
フランス……オルレアン包囲戦?
それは確か、百年戦争の……。
頭の中で計算が走る。
もしこれが史実通りなら、今は15世紀前半。
俺は、現代から約600年も遡った時代に放り込まれていた。
フランチェスカが俺の袖をそっと引いた。
「どうかなさいましたか?」
「……いや、何でもない」
俺は無理に笑顔を作った。
この子に正体を明かすのはまだ早い。
まずは生き延びる方法を考えないと。目立たず、社会に溶け込む……それが最優先だ。
「フランチェスカ、俺は当分この街に留まるつもりだ。
……お前はどうする? 故郷に帰れるのか?」
少女は少し寂しそうに首を振った。
「私は……もう、帰る場所がありません。あの山賊に攫われてから、家族も皆……」
その瞳には、昨夜の恐怖と、それ以上の諦めが混じっていた。
俺はため息をついた。
「わかった。とりあえず、俺と一緒に来い。
仕事を見つけて、落ち着くまで面倒を見る」
フランチェスカの目が、わずかに大きく見開かれた。
「……本当に?」
「ああ。恩を売った以上、放り出すわけにもいかないだろ」
そう言いながら、俺は心の中で別の計算を始めていた。
この時代に溶け込むには、目立たない職業が必要だ。
金属や鉱物に関する知識はある。顔料……特に酸化鉄系の赤は需要がありそうだ。
電磁石を使って砂鉄を効率的に集められれば、少し高品質のものを提供できる。
派手にはならないが、細く長く生きていける。
「顔料屋……か」
小さく呟いた俺の横で、フランチェスカが不思議そうに首を傾げた。
その視線が、昨夜俺が使った銃のことを、まだ覚えているように感じられた。
※備考
もっと描写を盛るべき




