食堂メニュー採用対決④
「それじゃあ次は私の番だね」
そう言って美琴は袖をグイッと捲る。
そして、冷蔵庫から食材を取り出しテーブルの上にズラリと並べた。
りんご、卵、ヨーグルト、薄力粉……etc。材料からしてスイーツを作るのだろうか。
俺は美琴が何を作るのかをまだ聞いていない。
「美琴、お前は何を作るんだ?」
美琴は、「よくぞ聞いてくれた!」 と言わんばかりに胸を張る。
「ヨーグルトポムポムだよ。泰彦もあんまり食べたこと無いだろうから楽しみにしてて」
そう言うと美琴は桃瀬の方を向く。
「それじゃあ桃瀬さん、始めるからカメラお願い」
「はい、美琴さんも頑張ってください! それでは、3、2、1、スタート」
撮影が開始し、まず美琴はりんごを手に取る。りんごを水で洗い、いちょう切りにしていく。
次に、切ったりんご、レモン果汁、シナモン、レーズンを混ぜ合わせ、紙カップに入れる。
それから、薄力粉とベーキングパウダーを合わせてふるいにかける。これに卵、サラダ油、ヨーグルト、砂糖を混ぜ合わせたものを加えて、ダマにならないよう注意しながらさっくりと混ぜる。
そして、これを先ほどの紙カップに流し入れて、下準備は完了だ。
最後に一九〇度に予熱したオーブンで三〇分ほど焼く。
焼き上がったあと、仕上げに粉砂糖をまぶせば……ヨーグルトポムポムの完成だ。
美琴は、桃瀬に指で小さくOKの合図を送った。
「はい、撮影終了です。お疲れ様でした」
美琴はへたり込むように椅子に座り込む。
「ふう〜。いつもと器具が違うから難しかったよ。でも桃瀬さんのレシピの指示が的確ですごく分かりやすかった」
「それはどうも。でも、実際にあれだけ細かい指示通りに調理できたのは柏木さんの技量があってこそです」
二人の会話を横で聞きながら、俺は完成したヨーグルトポムポムを間近で眺めていた。
高価な食材はなるべく使わず、手間もかかりすぎず、丁度一人分に小分けされた紙カップを使用。
学食で提供するということを第一に考えられた、そんな料理だ。
美琴と桃瀬は自己満足の料理を作るのではなく、TPOを一番に優先してこの料理を作ったのだ。
「……流石だな、二人とも。誰が作るのか、誰が食べるのかがよく考えられている。何より、すごく美味しそうだ」
俺の素直な称賛に美琴はニコリと笑う。
「ありがとう泰彦。でも私はあれこれ要望を言っただけで、それをひとつのレシピにしてくれたのは桃瀬さんなんだよ」
美琴は桃瀬の方を向いた。
すると桃瀬は静かに首を横に振る。
「いいえ、多くの具体的な希望をいただけたから、私はこのレシピを作れたのですよ。それに食材の切り方、混ぜ方、焼き方などを実際に完璧にこなしたのは紛れもなく柏木さんです」
桃瀬の言葉に美琴は少し驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「ありがとう。桃瀬さん」
美琴は桃瀬に礼をいうと、改めてヨーグルトポムポムに向き直る。
「よし! 撮影も無事終わったし、冷めないうちに皆で食べちゃおう!」
そう言って美琴は俺たち三人分のヨーグルトポムポムを皿に乗せていく。
その間に俺は紅茶を、桃瀬はフォークを準備した。
実際に食べると、手作り感がよく伝わってくる優しい味がした。サイズも少し小さめで、食後のデザートに食べるのに丁度良いと思った。
家庭科室には、俺たち三人の穏やかな会話が春の暖かな陽気とともに満ちていた。
この後、レシピと撮影した動画を合わせて提出し、料理研究部の初めての活動は幕を閉じたのだった。




