食堂メニュー採用対決①
沖田先生は、生徒が提出したプリントに評価をつける仕事が残っていると言って帰っていった。
先生が家庭科室のドアを閉めると同時に桃瀬が話し始める。
「それでは勝野さん、柏木さん、先ほどの企画について作戦を立てましょう」
俺が口を開く寸前、美琴がそれに反応した。
「ねえ、桃瀬さん。その企画って別に何品応募しても大丈夫なんだよね?」
「はい。応募数に上限はありません」
美琴は俺を見ると、ニヤリと笑みを浮かべる。
「だったらさ、泰彦。私と勝負しようよ」
「は? 勝負ってどういうことだ?」
「私と泰彦でそれぞれ一品ずつ応募する料理を作り上げるの。それで、食堂メニューに採用された方が勝ち。シンプルで良いでしょ?」
なるほど……勝負にすればお互いより真剣になって企画に臨む。それにより、普通にやるより競い合う分結果は良くなるかもしれない。しかし、俺には疑問が残った。
「桃瀬はどうするんだ? 桃瀬の協力は絶対にあったほうがいいぞ?」
「そう、それだよ! 私も桃瀬さんの力は是非とも借りたいと思った。だから、ここでたった一つの特別ルールを説明します」
美琴は人さし指をピンと立てた。
「私と泰彦は、桃瀬さんが考えた料理のレシピをもとに応募する料理を作るの。ルールはこれだけ」
そう言うと、美琴は桃瀬に話し出す。
「桃瀬さん、私たちが作る料理のレシピの考案をやってくれないかな? すごく大変な仕事だっていうのは分かってる。でも、私は桃瀬さんならきっと、皆を魅了する料理を考えてくれると信じてる」
美琴の切実な頼みに、桃瀬はゆっくりと首を縦に振る。
「はい。レシピ考案、喜んでお受けします。もとよりこの企画を聞いた瞬間から、料理の出来ない私はそうするつもりでいましたからね」
「ありがとう! 桃瀬さん。私、頑張るから」
桃瀬の色よい返事に、美琴は桃瀬の手を握って、上下にブンブンと振った。
「で、もちろん泰彦も勝負やるよね?」
二人のやり取りを眺めていた俺に、美琴が聞いてくる。彼女の目は、楽しそうでありながらも、どこか真剣さを滲ませるものだった。
彼女の目は料理人が本気になる時の目そのものだった。
俺も、美琴の今回の勝負に対する熱意を受け止めなければならないな。
「ああ。俺もその勝負、受けさせてもらう。あとで泣くなよ? 俺は全力で勝ちに行くからな!」
料理人としてのプライドをかけて、俺は言い切った。
俺の宣言に、美琴はふっと笑う。
「泰彦ならそう言うと思ってたよ。でも、私だって、負けるつもりは無いから」
美琴は立ち上がると、くるりと俺に背を向ける。そして、歩き出そうとしてピタリと足を止める。
「あ、言い忘れてたけど……」と言って、ちらりと後ろを振り向いた。
「ルール一つ追加。負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く。そういうことだからよろしくね、泰彦」
そう言い残して、美琴は家庭科室から去っていった。
美琴……そういうことはもっと早く言ってくれ。




