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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第二章 風翔国奪還戦

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第二十七話 無慈悲で、理不尽

 一方、その頃。


 白を基調とした広間に、重苦しい静寂が満ちていた。


 光神教団・中枢。

 玉座の間とも言えるその場所に、アリウム、ルシオ、エリオ、そして水明国精鋭のグレイスは辿り着いていた。


 玉座の前。


 そこにいたのは――玄武。


 豪奢な衣に身を包み、悠然と腰掛ける男の周囲には、数人の女たちが控えている。

 アネモネも、その中にいた。


 どの顔にも、同じ色があった。

 従順。

 諦観。

 そして、どこか空虚な目。


 玄武は、四人を一瞥し、小さく肩をすくめた。


「やれやれ……」


 深いため息。


「四人も通すとはな」


 指を鳴らすように、軽く振る。


「オセロスも、ファルクも……」


 視線が、どこか遠くを見る。


「ガンドロフも」


 薄く笑った。


「まったく、役に立たんな」


 その言葉に、ルシオの表情が歪む。

 だが、玄武は気にも留めない。


 ゆっくりと、玉座から立ち上がる。


 足音が、やけに大きく響いた。


「仕方あるまい」


 視線が、四人をなぞる。


「個室の権利は剥奪だ」


 淡々と、人を物のように扱う声。そして玄武の視線が、エリオにぴたりと止まった。口元がわずかに吊り上がる。


「まだ、生きていたか」


 一歩、近づく。


「今ここで戻れば」


 優しい声を装って、囁く。


「お前を、新たな個室持ちとして迎えよう」


 女たちが、ざわめく。

 羨望。

 期待。

 そして、恐怖。


 だが、エリオは一歩も退かなかった。


 吐き捨てるように、言う。


「ほざけよ、ペテン野郎」


 ルシオが、思わず目を見開く。


「はなっから……利用する気しかねーんだろ」


 玄武の眉が、わずかに動いた。それでもエリオは続ける。


「それに」


 視線を横へ。エリオはルシオを見る。


「俺は、この命は……」


 一瞬、息を吸う。


「ルシオのために使うって、決めたんだ」


 静寂。その言葉は、玉座の間に確かに落ちた。女たちの間で、何かが揺れた。アネモネの指が、わずかに震える。


(……命を、誰かのために……?)


 玄武に選ばれたから。

 守られているから。

 生かされているから。


 そう思い込まされてきた。

 だが、それは本当に選ばれた人生だったのか。


 好き勝手に触れられ。

 笑顔を求められ。

 従順であることを、愛だと刷り込まれて。


(……それで、いいの?)


 誰のためでもなく。

 自分の意思でもなく。


 ただ、支配されているだけでは?女たちの目に、わずかな光が戻り始める。玄武は、それを見逃さなかった。


「……ふん」


 鼻で笑う。


「戯言を」


 だがその声には、ほんの一瞬だけ、苛立ちが混じっていた。


 アリウムが、一歩前に出る。


「終わりだ、玄武」


 槍を構える。


「ここから先は、お前の思い通りにはならない」


 ルシオも、剣を抜く。

 グレイスが、静かに盾を構えた。

 そしてエリオは、玄武を真っ直ぐに睨んでいた。


 支配の玉座が、軋む。この場で、確かに何かが崩れ始めていた。


 最初に動いたのは、アリウムだった。


 踏み込みは鋭く、迷いがない。怒涛の突進。槍が一直線に玄武の喉元を狙う。


 速い。

 正確。

 殺意に一切の淀みがない。


 だが、玄武は半歩だけ前に出た。刃が触れ合う、直前。槍の穂先が、わずかに逸れる。


 対刃戦法。


 教えられた側ではない。

 教える側の動きだった。


 槍を弾くのではなく、受け流す。力で止めず、軌道そのものを殺す。まるで、アリウムの動きを最初から知っていたかのように。


「――なっ」


 次の瞬間。玄武の肘が、アリウムの胸甲に叩き込まれた。


 鈍い音。空気が潰れる感触。


「ぐ……っ!」


 鎧越しに、血を吐く。内臓が揺さぶられ、視界が一瞬白く染まる。それでも、アリウムは倒れなかった。


 槍を支え、膝をつきかけながらも、必死に踏みとどまる。


「……まだだ」


 その姿に、玄武は興味なさげに視線を落とした。


「鍛えただけはある」


 ただ、それだけ。


 次の瞬間、横から風を切る音。


 グレイスだった。盾を捨て、全力のサイドアタック。玄武の死角を突く、完璧な連携。


 だが、玄武は振り返らない。


 半身をずらし、攻撃を紙一重で回避する。

 そのまま、腰を落とし、後ろ手でグレイスの胴に、手を回した。


「……っ!?」


 次の瞬間、信じがたい力が加わる。


 締め上げるのではない。

 折るための力。


「グレイス!!」


 アリウムの叫びも虚しく、骨が悲鳴を上げた。

 鈍く湿った音。背骨がへし折れる。


 グレイスの体から、力が抜けた。声すら上げることなく、その場に崩れ落ちる。


 即死だった。


 広間に、重い沈黙が落ちる。女たちの息が止まり、アネモネは思わず口元を押さえた。


 玄武は、倒れたグレイスを一瞥すると、何事もなかったかのように手を離した。


「……弱いわけではない」


 淡々と。


「だが、相手が悪かったな」


 そして、ゆっくりと視線を上げる。


 残された者たちへ。


 この玉座の間は、処刑場へと姿を変えていた。

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