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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第二章 風翔国奪還戦

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第二十五話 折れない、負けない

 金属音が、何度もエントランスに響いた。


 剣と斧。刃と刃が噛み合うたび、火花が散る。


 ジャックは、すでにすべてを使っていた。


 父に叩き込まれた、実戦の打撃。

 剣士としてではなく、生き残るための殴り方。


 踏み込み、肘、膝。

 斧の内側へ潜り込み、容赦なく叩き込む。


「……っ!」


 確かな手応え、だが。


「効いてねえなぁ!」


 ガンドロフは笑い、頭突きで押し返す。

 重い衝撃が、額を揺らした。


 間合いを離し、今度は剣。


 炎龍国で学んだ剣技。型を崩し、流れるように繋ぐ連撃。


 斬る。

 弾く。

 突く。


 刃は、確かに届いている。だが、斧が止まらない。


「ちまちましやがって!」


 大斧が唸り、床を砕く。ジャックは後退しながら、懐へ手を伸ばした。


 六角。


 アリウムから教わった、一瞬を奪う武器。


 投擲。回転する鉄片が、ガンドロフの視界を裂く。


「おっと」


 だが、ガンドロフは斧の柄で弾き落とした。


「それも、知ってる手だ」


 どれも効かない。

 打撃も、剣技も、六角も。


 技術。

 経験。

 工夫。


 すべてを重ねても、ガンドロフは崩れない。


 その瞬間。


 脳裏に、ひとつの影が浮かんだ。


 雷帝国三大将・バガン。


 圧倒的な力。

 理不尽なまでの暴力。

 剣が届く前に、叩き潰される存在。


(……強敵中の、強敵)


 あの時は、何も出来なかった。

 一撃で、終わった。


 だが、目の前の男は、違う。


(ガンドロフは……)


 ジャックは、斧を受け止めながら、確信する。


(間違いなく、あのバガンより強い)


 膂力。

 耐久。

 殺し合いの場数。


 すべてが、上だ。

 それでも、剣を強く握り直す。


(……だが)


 呼吸を整え、視線を上げる。


(俺も、成長したんだ)


 次の瞬間。


 記憶が、閃光のように脳裏を走った。


 雷鳴。


 紫電を纏う鉤爪。獣のように笑う男。


『どうした! 守る気はあるのに、力が足りねえなァ!』


 レオ。


 純粋な技量差。一歩踏み外せば、即死する相手。

 血を吐き、膝をつき、それでも――


『剣だけだなんて、言ってねえ』


 拳。

 肘。

 六角。


 意地だけで、立ち続けた戦い。

 最後に、雷を断ち切った一太刀。


 そして、勝った。


 次の記憶。


 静まり返った戦場。

 異様な圧を放つ男。


 サイガ。


 力量は完全に拮抗。どちらが先に崩れてもおかしくない、極限。剣を握る手が震え、呼吸が乱れ、それでも、踏み込んだ。


 紙一重の、決着。

 そして、生き残った。


 どれも、楽な勝利じゃない。

 圧勝でもない。


 ギリギリだった。

 本当に、ギリギリで。


 それでも。


(俺は、負けなかった)


 剣を失いかけ、心が折れかけ、それでも勝ち切った。


 レオ。

 サイガ。


 名を持つ強敵たち。


 その記憶が、今のジャックを支えている。


 ガンドロフを見る目が、変わった。


 恐怖は、ある。

 だが、もう足は止まらない。


(だから)


 ジャックは、一歩、前に出た。


 今回も、勝ち切る。


 ジャックの中で、何かが切り替わった。


 技を重ねる戦いは、終わりだ。

 ここから先は、通すための剣ではない。

 折るための覚悟だ。


 ガンドロフが、獰猛に笑った。


「ようやく、いい目になったじゃねえか」


 次の一撃が、本当の勝負の始まりになる。


 踏み込む。


 ジャックは、もう技を選んでいなかった。

 勝つための最適解でも、効率でもない。


 折れないための一歩だ。


 斧が振り下ろされる。避けない。

 剣で受け、衝撃ごと身体に叩き込む。


「ぐっ……!」


 膝が軋む。腕が悲鳴を上げる。

 それでも、前に出る。


 拳。

 肘。

 剣の柄頭。


 間合いゼロ。呼吸がぶつかる距離。


「……!」


 ガンドロフの眉が、わずかに動いた。


 押し返す。

 再び、斧。

 だが、さっきより――重くない。


「……あ?」


 ガンドロフが一歩、下がった。


 ほんの一歩。

 だが、それは確かに後退だった。


「……おい」


 低く、唸るような声。


「コイツ……」


 斧を構え直し、笑みが歪む。


「戦いながら、成長してやがる!」


 血の滲む歯で、ガンドロフは笑った。


「はは……はははは!」


 楽しそうに、心底楽しそうに。


「おもしれぇ……!」


 斧を地面に叩きつけ、姿勢を低くする。筋肉が、さらに張り詰めた。


「本気を出せる奴に会えたのは……」


 一歩。

 二歩。

 圧が、跳ね上がる。


「久しぶりだ!」


 次の瞬間。ガンドロフが、消えた。


「――っ!」


 今までとは比べ物にならない踏み込み。

 力任せじゃない。獲物を狩る速度。


 斧が横薙ぎに迫る。

 ジャックは、反射で剣を合わせた。


 受け止めきれない。


 理解した瞬間、身体が動いた。剣を滑らせ、斧の腹を流す。衝撃を逃がし、肩から転がる。


「……っは!」


 立ち上がる前に、もう一撃。

 振り下ろし。石畳が、爆ぜた。


「逃げるな!」


 ガンドロフが吼える。


「さっきまでの目は、そんなもんじゃなかっただろ!」


 ジャックは、剣を握り直した。呼吸は荒い。視界が狭まる。それでも。


「……逃げてねえ」


 足を、前に出す。


「対抗してるだけだ」


 ガンドロフの笑みが、さらに深くなる。


「いい……最高だ」


 斧を、真正面に構える。


「全身全霊、全てを賭けて来い!剣士!」


 ジャックも、剣を構えた。もう、退路はない。

 ここからは、意地と意地の殴り合いだ。


 エントランスに、二人分の殺気が満ちた。

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