最終話 物語は次の舞台へ
街道を抜け、馬車はやがて大きな城門の前に辿り着いた。
白い石壁に囲まれた門の向こうからは、涼やかな水音が聞こえてくる。
水明国・水の都。
「……着いたな」
ジャックが伸びをする。
「懐かしいってほどじゃねぇけど、空気は相変わらず気持ちいいな」
ミリアも頷く。
「やっぱり綺麗」
雪解け水が水路に流れ込み、街全体が淡い光に包まれている。水の反射が、白い建物をやさしく照らしていた。
門番たちは馬車に気づくと、すぐに姿勢を正した。
「炎龍国の隠密、モウラ殿!」
「黒炎の継承者ミリア様、ジャック様!」
門番たちが深く頭を下げる。
ミリアとジャックは顔を見合わせた。
「……まだ覚えられてるんだね」
「英雄扱い、続いてるってわけか」
かつて雷帝国の侵略から水明国を守った二人の名は、今もこの国で語り継がれていた。
門がゆっくりと開く。
その先に広がるのは、無数の水路と橋が織りなす、まるで水上に浮かぶような都市だった。
「ようこそ、水明国へ」
澄んだ声が響く。
水路の向こうから、青銀の衣をまとった女性が歩み寄ってくる。
水帝ラグーナシア。
「お久しぶりですね、ミリア。ジャック」
「ラグーナシア様……!」
ミリアは静かに微笑んだ。
「また会えて嬉しいです」
ジャックも軽く手を上げる。
「相変わらず、派手な国だな」
ラグーナシアはくすりと笑った。
「あなたたちが守ってくれた国ですから」
視線がモウラに移る。
「そして……炎龍国の影。噂は聞いています」
モウラは無言で一礼した。
「こちらへ」
ラグーナシアが振り返ると、近くの水路に小舟が滑り寄せてくる。
「水の都は、歩くより水路の方が早いのです」
三人は舟に乗り込む。
水面を進むにつれ、街の全景が見えてきた。
白い建物、青い屋根、無数の橋。水路の上に築かれた都市は、どこまでも美しく、静かだった。
「やっぱり……綺麗だね」
ミリアが小さく呟く。
やがて、中央区画へと到着する。高台に建つ白亜の宮殿と、そこから広がる無数の水路。水の都の心臓部だった。
「今日はゆっくり休んでください」
ラグーナシアは微笑む。
「明日から、正式な話をしましょう。光神教団の件も……」
ミリアの表情が引き締まる。
「はい」
ジャックも頷いた。
夕暮れの光が水面に反射し、都市を金色に染めていく。平和に見える水の都。
だがその裏で、新たな戦いの火種は、確実に燃え始めていた。
ーーー 第一部 黒炎龍と白雷龍 完 ーーー




