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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第四章 白雷龍を宿す者

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第六十一話 龍の決着

 戦場へと戻ったジャックは、足を止めた。


 空気がおかしい。

 肌を刺すような圧。

 呼吸をするたび、肺が軋む。


「……なんだ、これ……」


 視界の先、吹雪の向こうで、黒と白のオーラが激しく渦巻いている。


 黒炎。白雷。


 まるで二頭の龍が、互いの喉元に牙を突き立てようとしているかのような、異様な気配。


 ジャックの背筋が震えた。


「ミリア……」


 直感が告げる。次で、終わる。

 生き残るのは、どちらか一人。


「待ってろ……頼む、間に合ってくれ!!」


 ジャックは剣を握り直し、全力で駆け出した。


 同じ頃。別の戦場で、クレイとレイアもまた、その気配を感じ取っていた。


「……来たな」


 レイアが低く呟く。


 空気が、震えている。龍の力が、限界まで高まっている証だ。


「ミリアと……雷帝か」


 クレイは唇を噛みしめる。


 その時。


「……ぐ……」


 倒れていたガイツが、うめき声を上げて目を覚ました。


「……生きてるか」


 レイアはすぐに指示を出す。


「ガイツ。アリスとアリウムを城下町へ運べ」


 ガイツは視線を動かし、完全に機能停止したアリスと、意識のないアリウムを見る。


「……分かりました」


 迷いはなかった。ガイツは二人を抱え上げる。

 機械の少女の身体は重く、冷たかった。だが、その重さが、彼の足を止めることはない。


「必ず……生かす」


 そう呟き、ガイツは炎龍城下町へ向かって走り出した。


 残されたのは、クレイとレイア。二人は同時に、黒と白のオーラが渦巻く方角を見た。


「……行くぞ」


 レイアが鉄棒を握る。


「ミリアが、すべてを背負おうとしてる」


 クレイは剣を構えた。


「……だったら、俺たちは見届け役だ」


 二人は走り出す。


 吹雪を裂き、焦土を越え、龍の領域へ。

 黒炎と白雷が、今まさに、最後の衝突を迎えようとしていた。


 黒炎と白雷が、同時に爆発した。


「獄炎龍ッ!!」


「天雷龍ッ!!」


 二つの龍が、真正面から激突する。


 世界が、白に染まった。


 光は音を呑み込み、風を焼き、空間そのものを引き裂いた。衝撃波が大地を削り、雪も炎も、すべてが消し飛ぶ。


「……っ、近づけねぇ……!」


 ジャックは歯を食いしばり、剣を地面に突き立てて耐える。クレイも、レイアも、吹き荒れる暴風に押し戻される。


「くそ……!」

「このオーラ……人の領域じゃない……!」


 誰一人、踏み込めない。

 そこはもう、龍の戦場だった。


ーーーー


 白の世界。


 音も、熱も、痛みも消えた空間。


 そこに、ミリアとハイドは立っていた。


 互いに傷だらけで、それでも、まっすぐに向き合っている。


「……強かった」


 ハイドが、静かに言った。


「お前は……本物の戦士だ、ミリア」


 ミリアは、少しだけ驚いた顔をしてから、微笑む。


「……ありがとう。ハイドも、すごかったよ」


 二人の背後で、白雷と黒炎の意思が揺らめく。

 白雷龍の声が、低く響いた。


『……今回も、負けたか』


 黒炎龍は、何も言わない。白雷龍は、続ける。


『だが……白と黒の均衡が崩れた時、新たな災が生まれる。それが、人の世にとって、救いか……破滅かは……まだ分からぬ』


 光が、ゆっくりと薄れていく。


『数百年後にまた会おう、黒炎龍』


『……ああ』


 その声は、やがて白の彼方へと溶けていった。


ーーーー


 爆風が止み、白い光が消えたあと。


 そこには、二人の人影が倒れていた。


 ミリア。

 ハイド。


「ミリア!!」


 真っ先に駆け寄ったのは、ジャックだった。

 黒炎は消え、彼女はただの少女の姿に戻っている。


「……息はある!」


 ジャックは迷わずミリアを抱き上げる。


「城下町へ運ぶ! 急げ!!」


 クレイとレイアも駆け寄るが、二人の視線は、もう一つの影に向けられた。


 雷帝ハイド。白雷は消え、動かない。


「……確認する」


 クレイが一歩踏み出した、その瞬間。


 ――ひらり。


 赤い着物の裾が、風に揺れた。

 真紅の髪。鮮やかな赤の着物。

 手には、金色の扇子。


 女が、ハイドの前に立っていた。

 その立ち姿だけで、空気が焼けるように歪んだ。


「黒炎龍と白雷龍が相打ちすれば、麒麟様の計画通りやけど……」


 女は、くすりと笑う。


「白虎も雷帝も、期待外れやったなぁ」


 クレイとレイアの背筋が凍る。


「……何者だ」


 レイアが鉄棒を構える。


「……気をつけろ。こいつ、ただ者じゃない」


 クレイも剣を抜いた。

 女は、面白そうに扇子を広げる。


「ウチ?光神教団幹部の朱雀や。ほな、ちょっとだけお掃除しよか」


 扇子が、ひと振り。

 次の瞬間、炎の竜巻が地面から噴き上がった。


「――ッ!!」


 二人はなすすべなく吹き飛ばされ、地面を転がる。


 熱と衝撃が、全身を襲う。なんとか体勢を立て直し、顔を上げると、そこに女の姿はなかった。


 残されていたのは、無惨に黒焦げとなった、雷帝ハイドの亡骸だけだった。


「……くそ……」


 クレイが拳を握りしめる。


「今の……人間の力じゃない……」


 レイアも、歯を食いしばった。


「麒麟……朱雀……」


 不穏な名が、静かに戦場に落ちる。

 雷帝は死んだ。

 だが、本当の戦いはまだ終わっていなかった。

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