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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第四章 白雷龍を宿す者

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第五十七話 対峙の時

 白銀の嵐が、戦場を覆っていた。


 氷鬼フロイス。吐く息すら凍りつく極寒の魔力を纏い、無数の氷刃を宙に漂わせている。


 その正面に立つのは、水帝ラグーナシア。


 彼女の足元には、水が集い、形を成していた。凝縮された水は巨大な斧へと変わり、蒼く輝いている。


「……氷鬼」


 ラグーナシアは静かに告げる。


「ここは、通さない」


 フロイスが嗤った。


「水が……氷に勝てるとでも?」


 瞬間、地面が凍りつく。


 フロイスの腕が振るわれ、氷の刃が嵐となって襲いかかる。


 ラグーナシアは踏み込んだ。


「水帝魔斧・蒼断そうだん!!」


 大斧が振り抜かれる。水が刃となり、蒼い軌跡を描いて走る。


 氷刃が断ち切られた。


 凍結した大気ごと、一直線に両断。衝撃が遅れて炸裂し、フロイスの足元が砕け散る。


「ほう……!」


 フロイスは後退しながら、氷壁を展開する。


「ならば凍れ!」


 地面から、氷の柱が一斉に噴き上がる。逃げ場を塞ぐ、処刑の檻。


 だが、ラグーナシアは止まらない。


「水帝魔斧・睡蓮花すいれんか


 斧を中心に、水が解き放たれる。


 花弁のように広がる水流。

 一枚、二枚、幾重にも重なり刃となる。


 咲き誇る蓮。水刃が回転しながら氷柱を削り、砕き、呑み込んでいく。


「……なっ!」


 フロイスの氷檻が、花に呑まれて消えた。


 氷と水がぶつかり合い、白煙が立ち上る。視界が晴れた時、ラグーナシアは、すでに間合いにいた。


 だがフロイスも、まだ倒れない。


「ならば、凍鬼の真髄を見せてやろう!!」


 フロイスの全身が、完全な氷へと変わる。鬼の姿。魔力が暴風となって吹き荒れる。大地が、凍結していく。


 その圧に、ラグーナシアは一瞬、目を閉じた。


(……ここだ)


 彼女は、斧を地面に突き立てる。


 水が、静かに集まっていく。戦場すべての水分。空気中の湿気。砕けた氷すらも。


「水は……受け止め、包み、そして流す」


 蒼い光が、彼女の背後に広がった。

 フロイスが吼える。


「凍れえええええ!!」


 氷鬼が突進する。


「水帝神断・蒼蓮界そうれんかい


 世界が、水に変わった。


 無数の蒼い蓮が咲き乱れ、重なり合い、渦を成す。

 水は刃となり、盾となり、流れとなる。


 氷鬼フロイスは、抗えなかった。氷が削れ、砕け、溶かされていく。


「ば……かな……」


 咲き誇る蒼蓮の中で、フロイスの身体は完全に呑み込まれ、消えた。


 嵐が止む。そこには、水帝ラグーナシアだけが立っていた。蒼い水斧は霧散し、彼女の掌には、ただ雫が残る。


「……終わりです」


 水は、すべてを受け入れ、そして勝利した。

 氷鬼フロイスは、完全に討ち取られた。


 三大将の一角を討ち、なお余力を残したまま、ラグーナシアは静かに戦場の中央に立っていた。


 砕けた氷。蒸発した水。そして、倒れ伏した強敵たち。


 その前に、雷が走る。


 雷帝ハイド。


 全身は、焼け焦げ、裂け、血に塗れていた。

 炎帝リグーハンとの死闘の傷が、そのまま残っている。


 だが、その眼だけは、鋭く冴え渡っていた。


「その傷で……まだ、立つか」


 ラグーナシアが低く言う。

 ハイドは、口角を吊り上げた。


「当然だ。王は……最後まで立っているものだろう?」


 雷が、再び彼の身体を走る。無理矢理に引き出された雷気が、傷口を焼き、血を蒸発させる。


 その瞬間。


「ラグーナシア様!!」


 声が響いた。戦場を駆けてきたのは、ミリアだった。肩の傷は癒え、呼吸も整っている。だが、全身から立ち上る黒炎は、なお激しい。


 ミリアの背後で、黒炎が蠢いた。


『とうとう、この時が来たか』


 黒炎龍の声。


『白雷龍も、無傷ではない』


 ハイドの背後。白雷が、うねる。

 空気が、張り詰めた。

 その場に割って入ろうとした雷帝国の兵たち。


「来るな!!」


 ジャックが、一喝した。アロンダイトを地面に突き立て、立ちはだかる。


「ここは、王同士の戦場だ。命が惜しけりゃ、下がってろ!!」


 剣に宿る闘気が、圧となって兵たちを押し留める。

 誰も、踏み込めなかった。


 しかし、機械兵はそれでも動く。圧力など感じない。


 そのときだった。


「動くなって、言っただろ」


 何者かが音もなく迫り、機械兵の首をへし折る。


 炎龍国の隠密・モウラ。


 彼はこの戦争において、最前線で既に何体もの機械兵を、たった1人で破壊していた。


 戦場の中心。


 雷帝ハイド。

 水帝ラグーナシア。

 そしてミリア。


 三者が、向かい合う。


「二人がかり、か」


 ハイドが、低く笑った。


「いいだろう。まとめて沈めてやる」


 ミリアは、拳を握る。

 黒炎が、全身を覆う。


「……一人で抱え込ませない」


 ラグーナシアが、隣に立つ。

 水が集い、彼女の周囲に蒼い流れを描く。


「ここで終わらせます。雷帝ハイド」


 空が、鳴った。


 雷が吼え、水が唸り、黒炎が燃え上がる。


 雷帝 対 水帝。

 白雷龍 対 黒炎龍。


 王と竜、二つの因縁が、いま交差する。


 ミリアとラグーナシアは、並び立った。


 二人がかりで、雷帝ハイドを迎え撃つ。


 その構図は、かつてラグーナシアが、ミリアの父と共に雷帝インドラを倒した時と同じ。


 決戦の火蓋が、静かに、しかし確実に、切って落とされた。

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