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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第四章 白雷龍を宿す者 編

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第五十話 嵐の前の静けさ

 雷帝国。


 紫電走る城壁の内側に、雷帝ハイドは帰還した。


 かつてと同じ装束。だが、その存在感は明らかに違っていた。


 玉座の間に足を踏み入れた瞬間、空気が張り詰める。雷そのものが、彼に従っているかのようだった。


「……強くなったな」


 そう呟いたのは、玉座の傍らに控える男。

 三大将で、ただ一人残った存在。ランス。


 その口元には、薄い笑み。


「白雷龍の覚醒……成功したようだ」


 ハイドは何も答えない。ただ、玉座へと歩み、静かに腰を下ろす。


「これで、次の段階に進める」


 その声は、確信に満ちていた。ランスは、一礼する。


「雷帝陛下の御威光、ますます強まるばかり」


 だが、その心中で、別の声が囁いていた。


(……だが、まだ勝てる)


 ハイドの力は増した。確かに、白雷龍は覚醒した。


 それでも。


(雷帝も、黒炎の少女ミリアも、そして光神教団教祖・麒麟でさえも)


 いずれ、殺す。


 ランスの瞳の奥に宿るのは、忠誠ではない。

 玉座すら踏み台とする、純粋な野望だった。


 ハイドは、ゆっくりと口を開く。


「……三大将は、二名を失った」


 沈黙。


「バガンは、水帝ラグーナシアに討たれた。そしてグロリアは、黒炎龍を宿す者に殺された」


 その名を口にするだけで、雷が微かに鳴る。


「後釜を、指名する」


 その言葉に、将兵たちが息を呑んだ。


殺影(さつえい)のエタルド」


 ハイドは、名を告げる。

 黒衣を纏う老戦士。


氷鬼(ひょうき)フロイス」


 続けて、もう一人。玉座の間に、緊張が走る。だが、そこに呼ばれなかった者たちがいた。


 かつて、グロリアの側近だった二人。


 メアリ。

 サイガ。


 実力だけを見れば、どちらも候補に挙がっていた。


 ……だが。


 メアリは、すでに壊れていた。薄暗い部屋の隅で、彼女は膝を抱え、揺れている。


「……クソガキ……メスブタ……ころす」


 呪いのように、同じ言葉を繰り返す。


 グロリアを殺した存在・ミリア。

 その名だけが、彼女の世界を満たしていた。


 炎龍国の剣士・クレイと刃を交え、決着がつかなかったことなど、今の彼女にはどうでもいい。


「……ころす……ころす……」


 理性は砕け、信仰だけが残った。


 一方、サイガは一人、訓練場にいた。

 全身に汗を流しながら、拳と蹴りと、武器を振るう。


「ははっ……!」


 笑っている。


「やっぱ、あの時は楽しかったな」


 思い出すのは、炎龍国の戦士・ジャック。

 勝敗のつかない、引き分けの戦い。


「次は……どっちが死ぬか、決めようぜ」


 彼にとって、忠誠も地位も関係ない。ただ、強いやつと戦いたい。だからこそ、三大将の選から外れた。


 ハイドは、選んだ二人を見据える。


「雷帝国は、さらに進む。世界統一へ」


 玉座の間に、雷鳴が落ちる。ランスは、その光景を見つめながら、心の中で静かに嗤った。


(いい……実にいい)


 混沌は、深まっている。憎しみも、狂気も、野望も。


(すべてが熟した時――)


 最後に立つのは、誰か。雷帝国の空に、雷が鳴り響く。それは、嵐の前触れではない。


 すでに、嵐の中にいるという合図だった。



 一方、その頃。

 炎龍城下町は、いっときの平和を迎えていた。


 十二月某日。

 ミリアとジャックは、ついに二十歳を迎えた。


 炎帝リグーハンはこの日を祝い、城内に宴の席を設けさせていた。

 広間には豪奢な料理が並び、香辛料と肉の焼ける匂いが漂う。集まった家臣や近衛たちの表情も、どこか柔らかい。


「今日は、国のことは忘れろ」


 リグーハンの言葉に、場の空気が一段和らいだ。


 まず、クレイがミリアの前に進み出る。差し出したのは、深紅と黒が織り込まれた特製のバンテージだった。


「炎龍の加護を編み込んである。無茶はするなよ」


「……ありがとう、クレイ」


 ミリアがそれを受け取った瞬間、彼女の内側で黒炎が微かに脈動する。


『ほう……これは良い』


 黒炎龍の低い声が、満足そうに響いた。


『これがあれば、我の力をより深く、お前の器に通せる』


 ミリアは小さく息を吐き、頷く。力に飲まれるのではなく、力と並び立つ。その覚悟を、新たにする。


 次に、ジャックの前へ運ばれてきたのは、一対の籠手だった。


 炎龍国の火山、その最奥部。常人は近づくことすら許されない場所でのみ産出される希少鉱石・紅蓮鉱石。


 赤黒く輝くその鉱石を贅沢にあしらった籠手は、見ただけで分かるほどの重量感を放っていた。


「……重いな」


 だが、ジャックが腕を通すと、不思議と馴染む。


「受けにも耐える。殴れば、そのまま致命打になる」


 リグーハンの言葉通り、剣と体術を織り交ぜるジャックの戦いにおいて、その拳はもはや防具ではない。

 武器そのものだった。


「いいじゃねえか」


 ジャックは笑い、拳を軽く握る。その動きに、空気が震えた。そしてリグーハンは、静かに合図を送る。


 奥の扉が開き、二振りの剣が運び込まれた。炎龍国一番の鍛冶屋に打たせていたものだ。


「クレイとジャック、お前たちの剣が出来上がった」


 まず、クレイへ。赤金に輝く刀身。炎そのものを宿したかのような、圧倒的な熱量。


「炎帝剣サンブレイク」


 クレイが柄に手をかけた瞬間、剣が応えた。炎帝の血と意志を継ぐ者であると、認めたかのように。


 続いて、ジャックの前へ。白銀の刀身。無駄を削ぎ落とした直剣は、静かで、それでいて恐ろしく鋭い。


「そして、これはアロンダイト」


 名を告げられたその剣は、伝説の名に恥じぬ威を放っていた。ジャックは一瞬だけ真顔になり、ゆっくりと剣を握る。


「……重いな。責任が」


 そう言って、いつものように笑う。


 宴は、続いた。炎龍国は、この夜だけは確かに平和だった。

 だが、誰も知らない。この祝福の先に、嵐が待っていることを。


 新たな力と、新たな武器を手にした若き戦士たちが、やがて世界の中心へと引き寄せられていくことを。

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