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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第三章 機械の少女

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第四十話 機械兵の力

 ゴリガンが、ゆっくりと首を回した。視線は、倒れた雷帝国兵ではない。


 ミリアと、クレイ。

 黒炎と炎剣。


 その二つを、明確に敵として認識している目だった。


「……へへ」


 喉の奥で、金属が擦れるような音が鳴る。


「分かってるぜぇ」


 ゴリガンの関節が、再び赤く発光する。


「知ってるぞ〜。てめぇらはコイツとは違う、ただのガキじゃねぇ」


 踏み込み。地面が砕け、巨体があり得ない速度で迫る。クレイが剣を構える。


「来る!」


 ミリアの黒炎が、即座に反応する。だが。


「遅ぇぇ!!」


 ゴリガンが、咆哮する。


「この体を手にした俺は」


 拳が振り抜かれる。


「最強だぁ!!」


 その瞬間。ゴリガンの視界が、横に吹き飛んだ。


「……は?」


 衝撃。音が、遅れて追いつく。


 ドゴォンッ!!


 巨体が、岩壁に叩きつけられ、粉塵が舞い上がる。

 殴り飛ばしたのはアリスだった。彼女は、拳を握ったまま、前に立っている。ミリアが、目を見開く。


「……速い」


 ゴリガン以上。明らかに、そうだった。


「いってぇぇええ!!」


 瓦礫の中から、ゴリガンが転がり出る。


「機械化しても、いってえもんはいってえんだよぉ!!」


 情けない悲鳴を上げながら、地面を転がる。


「くそっ、くそっ……!」


 立ち上がろうとしたが、アリスが一歩踏み出す。


「……チッ」


 ゴリガンは、踵を返した。


「覚えてろよ……!」


 吠え声を残し、雷帝国兵の来た方向へと逃げ去っていく。静寂が、戻った。瓦礫の間で、ジャックが、ゆっくりと身を起こす。苦笑して、立ち上がる。


「いやぁ……」


 額の血を拭いながら、呟いた。


「おそろしいな」


 クレイが、眉をひそめる。


「……ゴリガンが、か?」


 ジャックは、首を振った。


「違う」


 視線は、アリスへ向けられている。


「ゴリガンですら、あそこまでパワーアップしてた」


 拳を、ぎゅっと握る。


「じゃあよ……」


 低く、重い声。


「風翔国最強の兵士とまで言われた男は」


 誰も、すぐには答えられなかった。


「……どの次元の化け物になってるんだ」


「しかも、アイツは私と同じ()()()


 アリスは続ける。


「本物は感情も、痛覚もない」


 風が、渓谷を抜けていく。黒炎が、ミリアの胸の奥で、静かに燃え続けていた。

 それは怒りではなく、迫り来る現実を、直視する炎だった。


 しばし、誰も言葉を発せずにいた。アリスの最後の言葉が、重く残っている。


「……失敗作」


 その響きが、逆に事態の深刻さを物語っていた。沈黙を破ったのは、クレイだった。


「……俺の予想だけど」


 炎剣を下ろし、静かに言う。


「機械化したエンリケは、ただの強兵じゃない」


 ミリアが、視線を向ける。クレイは、ひとりひとりの顔を見回しながら続けた。


「元から、あの男は別格だった。覇王ゴウガ、我が父リグーハン、ラグーナシアさん……」


 国を代表する名が、静かに並べられる。


「その全員と、同じ土俵に立てる。いや、場合によっては、それ以上だった男だ」


 喉を鳴らし、言葉を選ぶ。


「そこに、雷帝国の機械化」


 誰も、口を挟まない。


「単純なパワーアップじゃ済まない。出力、反応速度、持久力……」


 クレイは、拳を握りしめる。


「……正直、ミリアより強い可能性が高い」


 ミリアの胸の奥で、黒炎がわずかに揺れた。


「下手をすれば……白雷龍を宿す、雷帝ハイドですら」


 空気が、凍りつく。ジャックが、乾いた笑いを漏らした。


「……冗談、きついな」


 だが、誰も否定しなかった。アリスが、静かに頷く。


「あり得るわ」


 感情の揺れを、極力排した声。


「父は、戦うために生きてきた人。そして、機械兵は戦うためだけの存在」


 拳を、ぎゅっと握る。


「雷帝国にとって、これ以上ない素材だった」


 沈黙。重すぎる現実が、全員の肩にのしかかる。

 クレイが、結論を口にした。


「……取れる対策は、ひとつだけだ」


 全員の視線が、集まる。


「戦わない」


 短く、断言する。


「見つからない。接触しない。遭遇した時点で、負けだと思え」


 ミリアは、唇を噛みしめた。


「逃げる、しかないの?」


 クレイは、首を振らない。


「生き延びる、だ」


 静かだが、揺るがない声。


「今はまだ、その段階じゃない」


 風が、再び渓谷を吹き抜ける。黒炎は、ミリアの内側で静かに燃え続けていた。

 戦えない炎。だがそれは、いつか必ず牙を剥くための、沈黙の熱だった。


 一方、そのころ。


 清風街の郊外に佇む、研究施設。


 金属と雷導管に覆われた通路を、ゴリガンは息を荒くして進んでいた。巨体の足取りは重く、装甲の継ぎ目からはまだ熱が漏れている。


「……クソ……」


 拳を握るたび、衝撃が蘇る。

 あの女、アリス。


 思い出すだけで、歯ぎしりが止まらなかった。やがて、扉の前に辿り着く。


「ランス様!!」


 ゴリガンの怒号に応じるように、扉が低く唸りながら開いた。部屋の中央に立っていたのは、雷帝国将軍・ランス。


 稲妻を思わせる装飾の鎧を纏い、片手には雷光を帯びた銃を軽く預けている。


「……戻ったか」


 淡々とした声。


 ゴリガンは、片膝をついた。


「龍の渓谷付近で、例のガキ共を確認しました!黒炎の少女と、その仲間、間違いありません!」


 ランスは、ふっと口角を上げる。


「ほう」


 興味深そうに、顎に手をやった。


「して、結果は?」


 ゴリガンは、歯を食いしばる。


「……逃げられました」


 一瞬の沈黙。だが、叱責はなかった。ランスは、むしろ楽しげに笑った。


「なるほど……」


 低く、愉悦を含んだ声。


「お前では、簡単にはいかなかったか」


 その目が、奥の扉へと向く。幾重もの封印が施された、重い扉。ランスは、薄く笑った。雷光が、彼の瞳に宿る。


「力を試すには、うってつけじゃないか」


 ゴリガンの背筋が、ぞくりと震えた。


「……あの方を、出すのですか?」


 ランスは、愉快そうに笑う。


「俺でも勝てる。だが、それでは面白くない」


 雷槍を肩に担ぎ、ゆっくりと歩き出す。


「黒炎の少女……龍の渓谷……」


 舌なめずりをするように、呟いた。


「完成品が、どこまで壊せるか」


 扉の向こうから、微かな駆動音が響いた。

 それは、人の呼吸ではない。兵器が、目覚める音だった。ランスの笑みが、深まる。


「さあ……見せてもらおうか」


 風切りのエンリケ。


 かつてそう呼ばれた、人だった殺戮兵器。

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