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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第一章 暗月の覇王 編

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第三話 保護という名の監視下

 紅蓮町の夕暮れは、赤い屋根をさらに紅く染めあげていた。

 ミリアとジャックは宿を探しながら、町の活気を改めて目にしていた。


「……本当に平和だね、兄さん」


「……ああ。むしろ不気味なくらいだ」


 その時だった。


 コツ、コツ、と。

 石畳に響く、規則正しい靴音。


 振り向いたジャックの視線の先に、二つの影が立っていた。


 一人は、白銀の髪を後ろで束ね、黒い軍服を着た女性。

 しなやかな体躯で、しかし眼差しは氷のように鋭い。

 四天王レイア。


 もう一人は、筋骨たくましい大男。

 無骨な鎧と、のし歩くような落ち着いた足取り。

 紅蓮町の警備隊長であり側近、ガイツ。


「……お前が、ミリアだな?」


 レイアの声は淡々としていた。

 怒りでも脅しでもない。

 ただ、「確認」という言葉のような響き。


 ミリアは息を呑む。

 ジャックが一歩前に出ようとしたが、ガイツが片手を上げた。


「落ち着け。俺たちは戦いに来たわけじゃねぇ」


 その声は意外なほど低く穏やかで、ミリアの肩の緊張がほんの少しだけほどける。


 レイアは周囲を一瞥し、静かに言った。


「ここでは話せない。ついてきてくれ。町の外れだ」


 拒否権はない。そう感じられる空気だった。

 だが、敵意があるわけでもない。


 ミリアは兄と目を合わせ、小さく頷く。


「……行こう」


 四人は紅蓮町から少し離れた小高い丘へ向かった。

 外灯も届かない静かな場所。

 夜風が草を揺らし、遠くで街の賑わいがぼうっと聞こえる。


 レイアは振り返り、初めて深い息をついた。


「まず確認する。 黒炎を使ったのは事実か?」


 ミリアの心臓が跳ねる。


 あのチンピラを焼き殺してしまった光景が脳裏をよぎる。


「……はい。私、あの時……気づいたら……」


 レイアはわずかに表情を曇らせた。

 恐怖でも軽蔑でもない。

 それは、何かを覚悟した者の顔だった。


「……やはり、真実だったか」


「レ、レイア様。やはり処分対象に――」


 ガイツが言いかけた瞬間、レイアが手刀のように鋭く言葉を断った。


「黙れガイツ。彼女を殺す気はない」


 ミリアもジャックも、目を見開く。


 レイアはミリアを真っ直ぐに見据えた。


「黒炎龍。その力の継承者が本当に現れたとは思わなかった。……だが、お前が暗月国の人間を殺したという報告が入った以上、黙っておくわけにもいかない」


「ご、ごめんなさい……!」


 ミリアは思わず頭を下げる。

 黒炎が勝手に発動し、殺してしまった。

 言い訳もできない。


 しかし、レイアの声は静かだった。


「謝らなくていい。正当防衛だ。……問題は、黒炎の存在そのものだ」


 レイアは夜空へ視線を向け、淡々と続ける。


「黒炎は、暗月国にとって最も扱いにくい遺産だ。国家はその力を欲しがり、強硬派は利用しようとし、他国は警戒している」


 ガイツが渋い声で付け加えた。


「俺たち穏健派が紅蓮町を守ってるのも、結局は戦争を回避するためだ。黒炎が暴れりゃ、俺らの努力なんざ一瞬で吹っ飛ぶ」


 ミリアの胸が痛む。


「じゃあ……私はどうすれば……?」


 レイアは、少しだけ表情を柔らかくした。


「簡単だ。何もしないでくれ。力を勝手に振るうな。暴走するなら抑えろ。そして――」


 レイアは静かに告げた。


「紅蓮町に滞在しろ。ここなら私が守れる。他国にも、暗月国の強硬派にも手出しはさせない」


 それは保護であり、監視でもあった。

 しかし、悪意のない提案だった。


 ジャックは険しい顔で言う。


「……妹を利用しようとしてるんじゃないだろうな?」


 ガイツが鼻で笑う。


「利用? んな面倒なことするかよ。俺らはただ町の平和を壊されたくねぇだけだ」


 レイアも頷く。


「安心しろ。私は侵略にも力にも興味はない。……ただ、この大陸の未来には暗雲が広がっている。白雷龍が動き出した以上、戦争は避けられない」


「白雷龍……!」


 ミリアの脳裏に、夢の中の黒炎龍の言葉が蘇る。


 白雷龍は、乱世を好む。


「ミリア。お前の黒炎は、いずれ標的になる。私の庇護下にいれば、しばらくは安全だ」


 ミリアは迷った。

 しかし胸の奥で黒炎龍が囁いたような気がした。


『選べ、ミリア。だが焦るな』


 ミリアは小さく息を吸う。


「……少しだけ、考えてもいいですか?」


 レイアは頷いた。


「好きにしろ。今夜は宿を用意してある。

 明日また話をしよう」


 四人は再び町へ戻り始めた。


 だがレイアの背中は、ずっと緊張を解かない。


 彼女もまた、知っていたのだ。


 黒炎が現れた瞬間、この平和は長く続かない。


 見えない戦火は、すでにミリアの背後まで迫っていた。


  風に紛れて、かすかな砂の音がした。身を潜めていたゴリガンは、薄い笑みを浮かべながら耳を澄ませていた。


「保護……? 何言ってやがる……。黒炎の怪物を匿うってのか……?」


 レイアの言葉に、彼の顔が歪む。


「やっぱりお前はダメだ……レイア。占領地を甘やかしやがって。黒炎のガキを味方に? 冗談じゃねぇ」


 怒りを噛みしめながら、ゆっくりと建物の裏へ移動する。


 懐から、小さな通信符を取り出した。


「……こうなったら、あの二人に知らせるしかねぇな」


 キル&ヘル兄弟。


 暗月四天王の中でも、最悪と言われる殺戮特化の双子。


 レイアが嫌悪する圧政を()()()()()と信じて疑わない。


「黒炎のガキが紅蓮町にいる……しかもレイアが庇ってるとなりゃ、あいつらは黙っちゃいねぇ」


 ゴリガンはフードを深くかぶり、町外れの門へ向かって歩き出した。


 視線が血走っている。


「キル様、ヘル様……報告に行ってきますぜ。紅蓮町の平和も、今日で終わりだ」


 その背が霧の中に消えていく。


 ミリアたちはまだ知らない。


 紅蓮町を守ろうとする者と、壊そうとする者。


 そして、そのどちらよりも危険な、黒炎の力を宿した自分自身の存在に。

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