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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第二章 漆黒の戦乙女

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第三十話 純黒の死神

 雨に濡れた戦場の中心で、二人は向き合っていた。


 黒炎を纏う少女と、漆黒の戦乙女。ミリアが、先に踏み込む。


「黒炎拳!」


 拳に凝縮された黒炎が、一直線に放たれる。だが、グロリアは半歩、身体をずらしただけだった。


 拳は、空を裂く。


「遅い」


 冷たい声。続けざまに、ミリアは跳ぶ。


「黒龍脚!」


 黒炎を纏った回し蹴り。鎧も骨も砕くはずの一撃だった。しかしグロリアの大鎌が、正確にその軌道をなぞる。


 ガァン、と鈍い音。


 黒炎が散り、蹴りは完全に止められた。


「……っ!」


 体勢を崩した、その瞬間。グロリアの斬撃が、容赦なく降り注ぐ。


「魔黒斬波」


 純黒の斬撃が、雨を裂き、ミリアを呑み込む。


「火柱鎧!!」


 咄嗟に、ミリアの周囲に黒炎の柱が噴き上がる。

 防御。否、必死の抵抗。


 だが。


 ギィン、と嫌な音が響いた。


 黒炎の鎧が、切り裂かれる。


「――っ!?」


 衝撃とともに、ミリアの身体が吹き飛ばされる。地面を転がり、膝をついた瞬間、胸元に熱が走った。赤いものが、雨に混じって滴る。胸部を、浅く切られていた。


「……くっ」


 息が詰まる。致命ではない。だが、確実に通された。その時、ミリアの内側で、黒炎龍が低く囁いた。


『……分かったわ』


 静かで、だが緊張を帯びた声。


『奴の黒い魔力は、他の魔力を吸収している』


 ミリアは、歯を食いしばる。


『まるで、黒が光を吸い込むように……あなたの黒炎が、削がれている』


「そんな……」


 ミリアが呟くより早く、グロリアが鼻で笑った。


「ふふ……なるほど」


 大鎌を肩に担ぎ、見下ろす。一歩、近づく。


「あなた如きにやられた暗月の覇王……」


 嘲りを隠そうともしない声。


「噂ほど、大したことはなかったようだわ」


 その言葉が、ミリアの胸に突き刺さる。


 ゴウガを。彼の覚悟を。

 託された想いを踏みにじる、その一言。

 ミリアの中で、何かが、静かに音を立てて軋んだ。


 胸の奥で、怒りが爆ぜた。

 踏みにじられた想い。侮辱された、ゴウガの名。


「……許さない」


 ミリアの全身から、黒炎が噴き上がる。

 空気が歪み、龍の輪郭が形を成しかけた。


「――黒炎龍!!」


 だが、その瞬間。


『待ちなさい!!』


 黒炎龍の声が、鋭く割り込む。


 ミリアの動きが、強制的に止められた。


『今、()()()()()()――』


 声が、低く沈む。


『吸収される。グロリアに』


 ミリアの瞳が、見開かれる。


『あの女の黒は、魔力そのものを喰らう。黒炎龍を丸ごと吸い込めば……』


 一拍、置いて。


『次の一振りで、この戦場すべてを()|に返す』


「……っ」


 躊躇。それは、一瞬。だが致命的だった。


「どうしたの?」


 嘲る声。


 止まったミリアに、グロリアが踏み込む。


「迷うのね」


 閻魔一閃には及ばない。だが、純黒の斬撃が、確実にミリアを捉えた。


「ぐっ!」


 血が、舞うさらに、もう一太刀。


 ミリアは膝をつき、雨に手をついた。息が、追いつかない。


 黒炎龍が、沈黙する。今は、何も言えなかった。


 周囲では、誰も動けない。


 槍を支えに立つアリウム。

 剣を手放し、血に濡れたまま膝をつくジャック。

 倒れ伏す、無数の兵士たち。


 見守ることしか、できなかった。


「……ふふ」


 メアリは、クレイから視線を逸らさない。細剣を構えたまま、陶酔したように語り出す。


「グロリア様の美しさの前では……すべてが無なの」


 雨粒が、頬を伝う。


「艶のある黒。全てを飲み込む純黒……」


 微笑みが、歪む。


「その手に、殺されることを……私は、光栄に思う」


「ふざけるな!!」


 クレイが吼え、炎の剣を振り抜いた。怒りを乗せた、渾身の一撃。


 だが、メアリの剣技は一流だった。細剣が、炎の剣を受け流し、踏み込む。

 一瞬。


「――っ!」


 逆に、クレイが突かれる。

 急所は、外した。だが、肩、腹、太腿。


 血が噴き、クレイは後退る。立っているのが、不思議なほどだった。


「あぁ……」


 メアリは、恍惚とした表情で呟く。


「私も、いっそ……」


 刃を胸元に引き寄せる。


「グロリア様に、殺されたい」


 そして、囁く。


「いいえ……殺されるのではなく……」


 瞳が、狂気に染まる。


「純黒の中に、溶け込みたいの」


 戦場は、完全な絶望に沈んでいた。


 誰もが、次の一手を失い。

 ただ、純黒が世界を塗り潰すのを、待つだけだった。


「……これで、終わりにしましょう」


 グロリアが、そう告げた。


 感情はない。

 勝利の昂ぶりすらない。


 ただ、()()()()()()()()|だった。


 大鎌が、ゆっくりと持ち上げられる。刃は黒く、雨を吸い込み、光を返さない。


 グロリアは一歩、前へ。

 構えが、変わる。それは戦士のものではなかった。殺戮者のものでもない。


 命を刈り取るためだけに存在する死神の構え。


「閻魔一閃」


 低く、確定した宣告。純黒が、刃の周囲に集まる。魔力ではない。意志でもない。


 ()()()()()()()|、形を得たかのようだった。


 雨音が、消える。戦場のざわめきが、遠ざかる。


 その瞬間、ミリアの視界に映ったのは……


 漆黒の鎧。死を刈る大鎌。

 そして、顔のない死神。


 グロリアの姿が、それと完全に重なった。

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