表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第一章 暗月の覇王 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/59

第二話 黒炎龍の力

 ミリアは意識を失ったまま、深い夢の中にいた。

 目の前に現れたのは、あの黒炎龍。

 だが、瞳の奥には人のような知性が宿っている。


「目覚めたのね、私の宿主……」


 黒炎龍の声は女性の口調で、柔らかくもどこか冷たい響きがあった。


「あなたは……?」


 ミリアは問おうとしたが、黒炎龍は微笑むだけで答えない。


「この戦争には裏がある。必ず、白雷龍びゃくらいりゅうが関わっている」


「白雷龍……?」


 ミリアがその名を口にする。


「荒ぶる雷の化身。乱世を好み、争いを楽しむ龍よ。あなたが今目にしている戦火も、必ずその影響を受けている」


「……でも、何故私に……力を?」


 ミリアは問いかけようとした瞬間、眩い光と熱に包まれ、意識が引き戻される。


 目を開けると、そこには兄・ジャックが膝をついて心配そうに見下ろしていた。


「ミリア!起きたか、よかった。うなされてたけど、夢でも……何かあったのか?」


 ミリアはぼんやりと頷く。体の奥で、まだ黒炎龍の力がうずいているのを感じた。


 その日、火花村の村長が家にやってきた。

 老人は落ち着いた声で、かつて伝わっていた黒炎龍の伝承を語る。


「お前は選ばれし者じゃ……国を救う力を宿す者だ。どうか、その力を大陸のために使ってほしい」


 ミリアの隣で、ジャックも決意を固める。


「俺も一緒に行く。ミリアを一人にはできない」


 こうして、黒炎龍の力を宿した少女と、双子の兄の旅が始まる。

 火花村を後にし、戦火と陰謀に満ちた大陸へと足を踏み出した。


 紅蓮町へ続く街道には、昼でも薄い霧が漂っていた。人通りは少なく、風の音だけが耳に残る。


「……なんか変な道だね」


「気にすんな。地図じゃ最短ルートだ」


 そんな会話を交わす二人の前に、数人の影がふらりと現れた。


「おいおい、ガキが二人で旅かよ」


「度胸あるじゃねぇか。ここらは物騒だぜ?」


 露骨に笑いながら、チンピラたちは道を塞ぐように広がる。

 ミリアの肩はわずかに震えたが、隣のジャックは眉一つ動かさなかった。


「どけよ。急いでるんだ」


「お? なんだその口の利き方は」


 挑発しようと踏み込んだ男の胸元へ、ジャックの右拳が滑り込んだ。


 ――ドゴッ。


 鈍い音とともに、男は地面を転がり、木の幹に激突して動かなくなった。


「……っ!? な、なんだこいつ!」


 ミリアは驚きながらも、胸の奥が納得していた。

 父が拳法家だったこと。

 幼い頃から叩き込まれた型。

 嫌々続けていた自分と違い、ジャックは早くから才能を見せ、何より楽しんでいた。


 ――兄は、強い。


 しかしチンピラの一人は、倒れた仲間に怯むどころか、ミリアへ目を向けて歪んだ笑みを見せた。


「じゃあ……女のほうからいくか」


 その瞬間だった。


 体が勝手に動いた。

 視界が狭まり、音が遠のき、ただ腕が伸びた。


 拳が相手の顎をとらえる。


 ――ボウッ。


 右拳に黒炎が灯り、弾けるように燃え上がった。


「ぎ、ぁあああああああっ!!」


 叫ぶ暇もなく、男の体は後ろへ吹き飛び、地面を焦がしながら倒れた。

 動かない。呼吸もない。


 ……死んだ。


 ミリアは自分の手を見つめたまま、声が出なかった。

 黒炎はすぐに消えたが、焼けつくような感覚だけが残っている。


「ミリア……大丈夫か!?」


 ジャックが駆け寄る。

 しかし他のチンピラたちは、その光景を見た途端に顔を青ざめさせた。


「や、やべぇ……あいつ、死んでる!!」


「化け物だ……!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 残されたのは、焦げた土の匂いと、震えるミリアだけだった。


「わ、私……いま……」


 ジャックは静かに妹の肩を抱き寄せる。


「ミリアのせいじゃない。殺される前に、反射的に……」


 言いながら、ジャック自身の声も僅かに震えていた。

 妹が人を殺した事実。

 そしてその力が、あまりにも危険であることを理解したからだ。


 ミリアは拳を握りしめる。

 黒炎が宿ったこの手で、人を殺してしまった。


 だがその奥底で、黒炎龍の声が微かに響いた。


 「これは序章にすぎないわ、ミリア」


 それから数時間歩き続け、夕日が沈みかけた頃、視界の先に赤い屋根が連なる大きな町が見えてきた。


「……紅蓮町だ」


 ジャックが息をつきながら呟く。


 町の門は開きっぱなし。

 兵士も門番もいない。

 代わりに、行き交う人々の談笑や、屋台の匂いが漂っていた。


「ねぇ、兄さん……ここ、本当に暗月国に支配されてるの?」


「……俺も、聞いてた話と全然違う」


 暗月国に占領された町は重税と監視、兵の巡回で荒れ果てている。それが大陸での常識のはずだ。


 だが、紅蓮町はあまりにも平和すぎた。


 子供たちは笑いながら駆け回り、

 商人は値切り交渉で店主と叫び合い、

 酒場からは酔っ払いの歌声が響く。


 支配の影など、どこにも見当たらない。


 門をくぐった瞬間、ミリアは胸に微かなざわつきを覚えた。

 ――黒炎龍の気配が、ほんの少しうずいたのだ。


(何か……変だ)


 町を歩きながら、ミリアはじっと周囲を観察した。

 誰もが普通に暮らしている。

 暗月国の軍服を見つけることもない。


「お客さん、旅人かい?」

 八百屋の女主人が愛想よく声をかけてくる。


「あ、はい。この町……暗月国の占領下だって聞いたんですけど……」


 女主人は少しだけ首を傾げ、困ったように笑った。


「はは、そんな噂、まだ信じられてるのかい? この町はほら、見ての通り平和そのものさ」


 そう言い残し、再び客の相手に戻っていく。


 ミリアとジャックは顔を見合わせた。


「……どういうことだ?」


「うん……ぜんぜん、違う……聞いてたのと……」


 ほんの数歩先では、子供が転んで泣き、母親が優しく抱き上げていた。


  この町の異常な平和には理由があった。


 紅蓮町を任されている暗月四天王レイアは、侵略にも搾取にも興味がない異端の将。

 側近のガイツもまた穏健派で、町の生活を壊そうとしない。


 表向きは暗月国の占領地。

 だが、実態はほぼ自治状態。

 レイアとガイツが裏で調整し、町を守っていた。


 しかし、紅蓮町の警備塔で、黒衣の影がミリアを見つけて息を呑む。


 ゴリガン。


 一話でミリアと遭遇した暗月兵。

 あの時の黒炎に怯え、逃げ延びた兵士だ。


「黒炎……! あのガキ……生きていやがった……!」


 彼はレイアの穏健政策に反対する強硬派。

 本来の圧政こそ正しいと信じている。


 ゴリガンはそのまま連絡陣へ駆け込み、報告を書き殴った。


 『黒炎を宿した少女、紅蓮町に確認至急、対応が必要』


 その報告が、紅蓮町に波乱を呼び起こす。


 ミリアとジャックはまだ知らない。


 この町の平和を守ろうとする者と、それを壊したい者。


 どちらも、すでに二人を注視していることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ