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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第二章 漆黒の戦乙女

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第二十二話 暴力と殲滅

 水明城、上層。


 高い窓から、霧に沈む都を見下ろしながら、水帝ラグーナシアは手紙を握りしめていた。

 迷いは、なかった。


「――信じましょう」


 静かだが、確固たる声。


「炎龍国は、約束を違えない」


 側近たちが一斉に顔を上げる。


「北西拠点の突破準備を。援軍は、すでに外にいる」


 即座に命が走る。兵が動き、槍が整えられ、門の内側で水明軍が隊列を組む。


 ラグーナシアは、最後に鐘楼を見上げた。


「合図を」


 次の瞬間、水明城に緊急事態のサイレンが鳴り響いた。

 低く、長く、都全体を震わせる音。それは防衛ではなく、反撃の合図。



 その音を、ミリアは確かに聞いた。


「……来た」


 黒炎が、応えるように揺れる。


「行くよ!」


 霧を裂き、三人は一気に前進した。

 同時に、水の都・北門が開く。


 重厚な門扉が押し開かれ、水明国の兵士たちが雪崩れ込むように出陣した。


 他の門は、すべて閉鎖。


 雷帝国は、侵入できない。外にいる兵だけが、戦場に取り残される。


「行くよ!」


 ミリアが、前に出る。両手に黒炎を集束させ、放つ。


「黒炎弾!」


 圧縮された黒炎が、弾丸のように飛び、雷帝国兵の陣を貫いた。爆ぜるような衝撃と共に、数人が吹き飛ぶ。


 クレイも続く。剣に魔力を注ぎ、炎を纏わせる。


炎斬波えんざんぱ!」


 横一文字の斬撃が、炎の波となって走り、敵陣を裂く。鎧が焼け、兵士たちが次々と倒れていく。


「……すげぇな」


 それを見ながら、ジャックが呟く。


「俺も、飛び道具でも練習すっかな」


 言葉とは裏腹に、すでに前線へ。ジャックは一気に距離を詰め、雷帝国兵の中へ飛び込んだ。

 だが、兵士はただの雑兵ではない。槍が、正確に突き出される。ジャックは受け止められた。


「……っ」


 だが、止まらない。次の瞬間、顎を蹴り上げる。


 鈍い音。


 体勢を崩したところへ、回転しながらの一閃。

 血飛沫が舞い、兵士は崩れ落ちた。


「強ぇな……さすが正規兵だ」


 軽口とは裏腹に、ジャックの目は鋭い。一人一人が、盗賊とは比べものにならない。

 しかし水明国側も、ただ守っていただけの国ではなかった。


「道を開けろ!」


 先頭に立つのは、水帝ラグーナシアの側近。

 槍使い、アリウム。

 彼の槍が、嵐のように突き出される。


 百烈突。


 そう呼びたくなるほどの連撃が、雷帝国兵を薙ぎ払っていく。続く水明国兵たちも、士気高く押し上げる。


「押せ!今だ!」


 流れは、完全に水明国とミリアたちにある。


 そう、誰もが思った、その瞬間。水明国の兵士が、次々と倒れた。

 一人、また一人と。まるで、何かに叩き潰されるように。


「……?」


 ミリアが、はっとして視線を向ける。そこに立っていたのは、両手に一本ずつ金棒を持つ男。

 巨体。だが、鈍重さは微塵もない。金棒が唸りを上げ、振るわれるたび、兵士が宙を舞う。


「な……っ!」


 アリウムが槍を構える。


「下がれ! 陣形を――」


 言葉は、最後まで続かなかった。金棒が、横から叩きつけられる。


 轟音。


 アリウムの体は、紙切れのように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。そのまま、動かない。


「アリウム様!」


 水明国兵の叫びが上がる。


「ボスキャラのお出ましか!!」


 ジャックが、歯を食いしばり、踏み込む。だが金棒が、視界を埋めた。


「――っ!!」


 衝撃。ジャックの体が、後方へ吹き飛ばされ、地面を転がる。金棒とは思えない速度。

 あまりにも、異常な一撃だった。戦場の空気が、一気に凍りつく。


 雷帝国三大将軍の一人。

 双金棒の鬼・バガン。


 彼が、ついに前線へ姿を現したのだった。


 さらに、凍りついた戦場に、さらに重い気配が降りてきた。

 空気が、沈む。霧の向こうから、ゆっくりと歩み出る影。


 細身の体躯。だが、その手に握られているのは、身の丈ほどもある大鎌。

 刃には、黒く濁った魔力が絡みつき、まるで闇そのものが形を成しているかのようだった。


「……二人目も、来たな」


 クレイが低く呟く。


 その女は、戦場を一瞥し、感情のこもらない声で告げた。


「掃除を始めましょう」


 雷帝国三大将軍。

 漆黒の戦乙女・グロリア。


 彼女は大鎌を振りかぶり、躊躇なく振り抜いた。


魔黒斬波まこくざんぱ


 黒い斬撃が、空を裂いて飛ぶ。

 音もなく、ただ“通った”だけ。


 次の瞬間、触れた水明国兵士たちの体が、ずれるように分断された。


 血が噴き出すより先に、理解が追いつかない。


 倒れる。崩れる。

 命が、消える。


「……っ、ひでぇ……」


 朦朧とする意識の中、ジャックが歯を食いしばる。


 バガンの圧倒的な暴力。

 グロリアの、無慈悲な殲滅。


 雷帝国の将軍二人が並び立つ光景は、まさに絶望だった。


 ――その時。


 城門の奥、水明城の方角から、澄んだ魔力の奔流が戦場を貫いた。


「そこまでです」


 凛とした声。水が集い、形を成す。

 次の瞬間、戦場の中央に、水帝ラグーナシアが立っていた。


 王冠はない。だが、その存在だけで、空気が変わる。


「水帝……!」


 水明国兵士たちの目に、再び光が宿る。

 ラグーナシアは、バガンを真っ直ぐに見据えた。


「双金棒の鬼・バガン。ここから先は私が相手をしましょう」


 バガンは、口の端を歪める。


「ほう……王自ら、か。叩き潰しがいがある」


 同時に、ミリアの耳元で、黒炎龍が囁いた。


『あの女は、あなたの敵よ』


 ミリアは一歩、前へ出る。黒炎が、彼女の足元から立ち上る。


「グロリア……!」


 グロリアは、静かに視線を向ける。


「あの暗月の覇王を倒した黒炎。噂通り……いえ、それ以上ね」


 二人の間に、火花のように殺気が散る。


 クレイは、周囲を見渡した。

 まだ戦える水明国兵士たち。そして、数で押そうとする雷帝国兵。


「……よし」


 剣を構え、声を張る。


「動ける者は俺について来い!」


 兵士たちが応えるように陣形を整える。


 戦場は、三つに割れた。


 水帝ラグーナシア vs 双金棒の鬼・バガン。

 黒炎の少女ミリア vs 漆黒の戦乙女・グロリア。

 そして、クレイ率いる混成部隊 vs 雷帝国兵。


 それぞれが、退けない理由を背負っている。


 霧の中、三つの戦いが、同時に始まろうとしていた。

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