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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第一章 暗月の覇王

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第十三話 炎龍城奪還戦

 地下牢から解放された炎龍軍は、息を整える間もなく動き出した。

 目指すは、炎龍城一階。石段を駆け上がった瞬間――


「侵入者だ!!」

「牢が破られているぞ!!」


 暗月軍の兵士たちが、叫びながら槍を構える。だが、先頭に立つ炎帝リグーハンは、足を止めなかった。


「……道を開けよ」


 掌を前に突き出す。


「火炎弾」


 圧縮された火球が放たれ、一直線に飛ぶ。

 炸裂音とともに、先頭の暗月兵が吹き飛ばされた。


「な――っ!?」


 怯んだ一瞬を、炎龍軍は逃さない。


「武器を取れ!!」

「奪え!!」


 倒れた暗月兵から剣や槍を奪い、次々と戦列に加わる。疲弊していた兵士たちの目に、再び火が灯る。

 城内に、金属音と怒号が響いた。その様子を背に、リグーハンはミリアとジャックを振り返る。


「ここは、我らに任せよ」


 炎帝の声は、揺るぎなかった。


「お前たちは、上へ行け……城を、取り戻すのだ」


 ミリアは、強く頷く。


「はい!」


 ジャックも歯を食いしばる。


「行こう、ミリア!」


 二人は階段を駆け上がった。そして、重厚な扉を押し開いた先。


 炎龍城・謁見の間。


 かつて王が民を迎え、国の行く末を語った場所。今は、暗月の色に塗り潰されている。


 玉座。


 そこに、悠然と座る男がいた。

 暗月四天王の頂点。炎龍城を支配する者。


 コルド。


「……来たか」


 低く、響く声。


 ミリアは、一歩踏み出す。黒炎が、無意識に拳に灯る。


「あなたが……コルド」


 視線が、真っ直ぐに交わる。


「炎龍城を返してもらいます」


 コルドは、口元を歪めた。


「ほう……小娘が、随分と大きく出たな」


 その瞬間。


 ジャックが、はっと横を向く。


「ミリア!!」


 風を切る音。横合いから、一直線に突き出される槍。だが、二人は同時にかわしていた。槍は虚空を貫き、床に突き刺さる。


「……ちっ」


 姿を現したのは、息を切らし、汗と恐怖に塗れた男。


 ゴリガン。


 その顔に、以前の尊大さはない。だが、憎悪だけは濃く残っていた。


「やっぱり、生きてやがったか……!」


 ジャックが、思い切り睨みつける。


「またてめーか!!くそゴリラ!!」


「うるせぇ!!」


 ゴリガンは、槍を構え直す。


「俺は……俺はまだ終わってねぇ!!」


 震える声。必死な叫び。


 ミリアは、コルドから視線を外さない。

 ジャックが、一歩前に出た。


「ミリア、あっちは任せろ」


 拳を握り締める。


「こいつは……俺が片付ける」


 ゴリガンと、真正面から向き合う。

 謁見の間で、二つの戦いが始まろうとしていた。


 黒炎の少女と、四天王の頂点。

 そして、兄と、大柄な小物兵。


 炎龍城決戦は、いよいよ核心へ踏み込む。


 玉座の前に立つコルドは、武器を持っていなかった。だが、その佇まいに油断は一切ない。むしろ――獣だ。


 ゆっくりと、拳を構える。


「……拳?」


 ミリアは一瞬だけ眉をひそめるが、すぐに気を引き締めた。

 右拳に、黒炎が灯る。揺らめくそれは、彼女の意思と呼応するように静かに燃え上がっていた。


 対峙する二人。

 暗月四天王の頂点、コルド。

 黒炎龍を宿す少女、ミリア。


 謁見の間に、重苦しい静寂が満ちていた。


「来い」


 短い一言。


 ミリアも一歩踏み出し、拳に黒炎を纏わせた。黒く揺らめく炎が、彼女の意志に応えるように燃え上がる。


 次の瞬間だった。視界が、歪んだ。コルドが消えたかのように距離を詰める。風を切る音すら、遅れて聞こえた。


「っ……!」


 左手。

 人差し指と中指を揃えた、鋭すぎる一撃が、ミリアの脇腹を正確に狙う。


紫電突しでんとつ


 咄嗟にバックステップ。だが、完全には避けきれない。掠めた部分が裂け、血が滲んだ。


『今のは危なかったわ』


 黒炎龍の声が、冷静に響く。


『もう少し黒炎で覆うのが遅れていたら、腹を裂かれていた』


 ミリアは歯を食いしばる。だが、コルドは止まらない。


 右手。

 親指を除いた四本の指が、雷を纏って突き出される。


剛雷突ごうらいとつ


 凄まじい速度。直撃すれば、骨ごと砕かれる。


 ミリアは体を左に流し、紙一重でかわす。その反動を利用し、黒炎を纏った右ストレートを放つ――


 しかし、それより早く。コルドの左ミドルキックが、ミリアの脇腹を捉えた。


「ぐっ……!」


 身体が宙に浮き、床を滑る。息が詰まり、視界が一瞬白くなる。


「ミリア!!」


「よそ見すんなよクソガキ!!」


 ゴリガンがジャックを槍で薙ぎ払う。しかしジャックはそれを完璧に外して見せた。


 ミリアは立ち上がりながら、考える。


(このままじゃ、追いつけない……)


 力では互角以上。だが、速度が違いすぎる。

 そのとき。コルドが、にやりと笑った。


「幕引きだ」


 その場で跳躍。空中で身体を回転させ、雷を纏った踵が落ちてくる。


「――金剛斧脚こんごうふきゃく


 直撃すれば、終わり。だが、ミリアは退かなかった。


(賭けるしかない……!)


 拳を前に突き出す。黒炎が、爆発的に燃え上がる。


「炎拳乱打!!」


 次の瞬間。無数の黒炎の拳が、嵐のように放たれた。


 ――ガガガガガッ!!


 金剛斧脚が、連打によって弾き返される。


「何ぃぃ!?」


 勢いを殺され、空中で体勢を崩したコルドに、黒炎の拳が容赦なく叩き込まれる。


 顔。

 胸。

 腹。

 脚。


 まるで羅刹。

 一方的な暴力。


「が……っ……!」


 コルドの身体が吹き飛び、玉座の階段に叩きつけられた。血を吐きながら、かろうじて顔を上げる。


「……俺に……苦戦するようでは……」


 震える声。


「暗月の覇王……ゴウガ様には……勝てない……」


 そう言い残し、動かなくなった。


 ――死。


 謁見の間に、沈黙が落ちる。


「……コルド様が……?」


 その光景を見ていたゴリガンが、槍を握ったまま硬直する。


「死んだ……!?一撃で……!?」


 恐怖で顔が引きつる。


「な、なにやってんだ俺は……!」


 その瞬間。


「てめえこそ、よそ見すんな!!」


 横から、鋭い声。


 ジャックの右ハイキックが、ゴリガンの顔面を正確に捉えた。


「いってぇぇぇ!!」


 吹き飛び、床を転がる。


「もう付き合いきれんわ!!」


 半泣きで叫び、よろよろと立ち上がる。


「こんな連中、聞いてねぇっての!!」


 槍を投げ捨て、背を向けて逃走。

 情けない足音が、謁見の間から遠ざかっていった。


 ミリアは拳を下ろし、荒く息を吐き、そして膝をついた。

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