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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
最終章 黒炎龍を宿す者
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第五十七話 六回目の戦い

 瓦礫の山を踏み砕きながら、ゴリガンが嗤った。


「そういやよぉ、覚えてるか?」


 血と油が混じった口元を歪める。


「最初に会ったときだ。お前、俺のパンチ一発で、きれいに伸びてたなぁ?」


 嘲り。過去を踏みつけるような声。


 ジャックは答えない。ただ、アロンダイトを振りかぶり、真正面から振り下ろした。


「――っ!」


 剣は、ゴリガンの機械の腕に叩き止められる。金属と聖剣が火花を散らした。


 その至近距離で、ジャックが吼える。


「二回目はどうだ!!」


 力任せに押し込みながら、吐き捨てる。


「俺の右ストレート一発で、鼻血吹き出して、尻尾巻いて逃げたじゃねぇか!!」


「ウルセェ!!」


 ゴリガンが吠えた。


 止めていた腕を弾き、もう片方の機械腕を振り抜く。だが、ジャックは半歩身体を引いた。拳が空を切る。


「甘ぇんだよ!!」


 次の瞬間、跳ぶ。腰を捻り、脚を振り抜く。


 ハイキック。


 鋼の顎に、踵が叩き込まれた。


「ぐっ……!?」


「三回目もだ!!」


 着地と同時に、叫ぶ。


「俺のハイキック食らって、悶絶してまた逃げただろうが!!」


 ゴリガンが歯を剥いた。金属の歯が、軋む音を立てる。


「……だがよぉ」


 低く、唸るように言い返す。


「四回目は、俺が勝った」


 一歩、踏み出す。


「一撃でだ!!」


 ジャックは、真正面から睨み返した。


「……ああ」


 そして、続ける。


「でもそのあとアリスに、一撃でぶっ飛ばされたよな?」


 ゴリガンが、吼えた。


「お前には負けてねぇ!!」


 両腕を広げ、突進する。


「五回目なんてよぉ!!」


 ゴリガンが、嗤いながら吼えた。


「お前は、黒炎龍のガキと二人がかりでも、俺に勝てなかった!!」


 突進。瓦礫が砕け、地面が沈む。


 ジャックは剣を振りかぶり、叫ぶ。


「でも、負けてもねぇ!!」


 次の瞬間、剣と拳が正面から激突した。

 火花が散る。衝撃が、空気を裂く。


 アロンダイトが軌道を変え、機械の拳が装甲を軋ませる。


 互いに一歩も引かない。


「今回で」


 ゴリガンの声が、低く唸る。


「完全に、息の根を止めてやる」


 歪んだ笑み。


「クソガキ!!」


「死ぬのは」


 ジャックが、剣を振り抜きながら吼え返す。


「てめぇだ!!」


 踏み込む。

 刃が閃く。


「ゴリガン!!」


 拳と剣。

 肉体と鋼。

 真正面から、叩き合う。


 ゴリガンは、度重なる改造の果てに力を得た。

 人であることを捨て、兵器として生き延びた存在。


 ジャックは、度重なる修行の果てに力を得た。

 仲間を失い、守るものを背負い、それでも人であることを選び続けた存在。


 強さの根源は、違う。

 だが、死線を越えた数は互いに多い。


 斬られ。

 殴られ。

 立ち上がり。


 倒れても、また前に出る。


 この乱世の中心で、

 戦火と絶望の只中で、

 ここまで生き残ってきた。


 それ自体が、証だった。


 拳が、頬を掠める。

 剣が、装甲を削る。


 血が飛ぶ。

 火花が舞う。


 逃げない。

 誤魔化さない。


 これは復讐でも、正義でもない。

 ただの因縁の決着だ。


 二人は、同時に踏み込んだ。


 交差。


 ジャックの剣と、ゴリガンの拳が、真正面から噛み合った。


 刹那、金属が裂ける、嫌な音が響いた。


 ゴリガンの右腕が、肘から先ごと宙を舞う。火花と油を撒き散らしながら、瓦礫の向こうへ転がっていった。


「……痛みは、感じねぇ」


 ゴリガンは、欠けた腕を一瞥しただけで、そう吐き捨てる。


 間髪入れず、残った左腕をフルスイング。

 巨大な拳が、空気を叩き潰す。


 ジャックは見切った。

 頭を下げ、半身になる。


 避けた。

 はずだった。


「……残念」


 ゴリガンの声が、すぐ真上から落ちてくる。


 何度も、何度も戦った。

 かわされる前提で、組み立てた動き。


 本命は、膝。


 しゃがみ込むジャックの勢いと、地を蹴り、跳ね上がる鋼の膝が、真正面から噛み合った。


 鈍く、重い、最悪の一撃。


「――がっ……!!」


 視界が跳ねる。


 天地が反転し、ジャックの身体は、あっさりと宙を舞った。背中から、瓦礫に叩きつけられる。肺の空気が、一気に抜ける。


 ――あぁ、やべぇ……。


 ジャックの意識が、白く滲む。ゴリガンは、勝利を確信したように歩み寄った。

 残った拳を握りしめ、止めを刺すために、腕を振り上げる。


 だが、止まった。体が動かない。


「……?」


 首を傾げる。


 違和感。


 だが、痛みはない。

 だから、気づかなかった。


 その瞬間、ゴリガンの視界がずれた。


「……痛くねぇ」


 呟きと同時に、上半身が、前へ滑り落ちる。

 遅れて、下半身が膝をついた。


 ずるり、と。断面から、血と油が混じったものが溢れ出す。


 斬られていた。


 膝を叩き込まれる、その瞬間。

 落下しながら、体勢を崩しながら。


 それでも、剣を離さなかった。アロンダイトは、確かにゴリガンの胴を、一閃していた。


 ゴリガンの上半身が、音を立てて崩れ落ちる。

 瞳の光が、ゆっくりと薄れていく。


「……」


 ジャックは、立ち上がれない。

 だが、確かな手応えで確信していた。


(今回は、俺の勝ち……だ)


 ジャックも意識を手放し、瓦礫の山に静寂が戻る。


 こうして……

 幾度となくしぶとく生き抜いたゴリガンは、完全に沈黙した。

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