表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
最終章 黒炎龍を宿す者
123/132

第五十六話 天誅殺

 麒麟は、焼け爛れた肩口を一瞥した。

 黄金の光が揺らぐ。確かに傷だ。


 だが、その表情に焦りはない。


 七人。この大陸が誇る、精鋭中の精鋭。

 それでも、まだ足りない。


「来い」


 その一言で、戦場が爆ぜた。


 クレイが踏み込む。炎帝剣サンブレイクが唸りを上げ、灼熱が刃から溢れ出す。


「煌溶断!!」


 斬撃ではない。触れたものを溶かし、断つ、帝の奥義。


 同時に、影が重なる。


 モウラ。姿は見えない。だが、麒麟の死角には、確実に死があった。


 暗殺術・無影刃。


 さらに。


「はあああああ!!」


 アリウムの槍が、全速力で横薙ぎに走る。


「鬼薙!!」


 空気が裂け、衝撃が奔流となって麒麟を襲う。

 左右から、イーヴァとトルネロ。


「今だ!」


「行くぞ!!」


 連撃。速さと速さが重なり、逃げ場を潰す。


 そして、ルシオ。

 剣を構え、踏み込む。

 恐怖はある。だが、退かない。

 エリオの想いが、勇気を与える。


「ここで、終わらせる!!」


 斬撃が、走る。


 最後に、ミリア。


 黒炎が、全身から噴き上がった。


「黒炎崩壊拳!!」


 拳が、連なる。引きつけを捨て、回避を読ませず、ただ当てに行く。


 連打。

 連打。

 連打。


 ついに。


 鈍い音と共に、黒炎が麒麟の胸を叩き割った。


「……ぐ」


 麒麟が、初めて血を吐く。

 地面に、赤が落ちた。


 戦場が、静まり返る。


「……やったか?」


 誰かが、呟いた。


 だが、麒麟は笑った。


「もう、出し惜しみはできないな」


 黄金の光が、暴走する。

 次の瞬間、麒麟は跳んだ。


 高く。

 空を超え、雲を裂き。


 一瞬だけ。


 その背後に、別の影が重なった。


 長大な胴。

 鱗に覆われた神威。


 黄龍。


 誰もが、息を呑む。


「奥義」


 麒麟の声が、天空から落ちる。


天誅殺てんちゅうさつ


 光が、降った。


 否。


 雨ではない。

 無数の光の槍。


 天そのものが、敵意を向けたかのように。


 兵士たちは、なすすべもなかった。悲鳴は、途中で途切れ、身体は穿たれ、崩れ落ちる。


 戦場が、死で埋まっていく。


 精鋭たちは違った。

 軌道を読む。踏み込み、転がり、跳ぶ。


 だが、それでも――


「クソッ……!」


 トルネロが、息を荒げる。

 足が、止まりかけた。


 その瞬間。


「生きろ、若造」


 イーヴァが、突き飛ばした。


「――っ!?」


 次の刹那。

 光の槍が、イーヴァの胸を貫いた。


 一瞬。

 本当に、一瞬だった。


 声も、呻きも、残らない。


 イーヴァは、そのまま崩れ落ちた。


「……イーヴァ……?」


 トルネロの声は、震えた。

 だが、麒麟は止まらない。


 天空から、落下。


 黄金の拳が、振り下ろされる。


 狙いは、モウラ。


 強い。搦手を使う。

 最も厄介な存在。


 モウラは、即座に判断した。


 避けられない。


 ならば。


 両腕で、ガード。

 全魔力を、防御に回す。


 だが、拳が触れた瞬間。


 消えた。


 音もない。

 爆発もない。


 そこにいた存在そのものが、削除されたかのように。


 炎龍国最強の隠密。


 最後の言葉を残す暇すらなく、モウラは、この世界から消滅した。


 静寂。


 残された者たちは、理解する。

 これは、勝てるかどうかの戦いじゃない。

 生き残れるかどうかだ。


 麒麟は、地に立ち、ゆっくりと息を吐いた。


「……さて」


 黄金の瞳が、生き残った者たちを見渡す。


「次は、誰だ」


 戦場は、地獄の第二幕へと突入した。



 一方、戦場の端。


 瓦礫と死体が折り重なるその場所で、ゴリガンとジャックは、別の地獄を作っていた。


「俺は戦いで成長するタイプだぁ、奥義・破壊双掌!」


 両腕に仕込まれた機構が唸り、掌が叩き出されるたび、空気が爆ぜる。


 だが、それは本物ではない。


 覇王レイアが放つ、あの一撃。

 世界そのものを砕く、覇の体現。


 ゴリガンの破壊双掌は、レイアのそれを食らったことで、模倣したに過ぎなかった。


 ゴウガの域には、論外。

 レイアのそれとも、比べるまでもない。


 それでも威力はある。殺傷力も、十分すぎる。


 だが、そこに覇はない。


 理も、魂も、そこには存在しない。


 だから、耐えられた。


 直撃。ジャックの身体が吹き飛び、地面を転がる。

 血が、砂を黒く染める。


「が……っ!」


 肋が軋む。肺が悲鳴を上げる。

 それでも、死んではいない。


 ジャックは、愛剣・アロンダイトを突き立て、立ち上がった。ゴリガンが、喉を鳴らして笑う。


「どうしたァ?生身の人間は柔らかいなぁw」


 金属と肉を継ぎ接ぎした顔、歪んだ笑み。

 ジャックは、血を吐きながら睨み返す。


「……黙れ」


 一歩、前へ。


「俺は……」


 さらに一歩。


「お前みたいな、人のなり損ないに」


 剣を、強く握る。


「負けねぇ」


 ゴリガンの笑みが、わずかに歪む。


「ほう……」


 踏み込み。地面が砕ける。

 ()破壊双掌が振り下ろされる。


 だが、ジャックは避けた。

 紙一重。風圧が、頬を裂くだけで済む。


「……!」


 ここだ。


「遅ぇんだよ……!」


 剣が横薙ぎに走る。

 刃は、ゴリガンの腹部装甲を削った。


「チッ……!」


 初めて、ゴリガンの顔に苛立ちが浮かぶ。


「効かねぇなぁ!」


 肘打ち。

 衝撃。

 ジャックは再び吹き飛ぶが、今度は転がりながら受け身を取る。


 すぐに立ち上がる。

 ゴリガンは、眉をひそめた。


「……学習するか。やっぱり、生身のくせに鬱陶しいな」


 ジャックは、剣を構え直す。視界は赤い。足も、もう震えている。


「俺は、一人じゃねぇ」


 小さく、呟く。ジャックが背負っているのは恐怖じゃない。失われた命の重さだ。


 ガイツの、そしてガンドロフの背中。

 死んでいった仲間たちの想い。


「お前をここで止める。それが……俺の役目だ」


 ゴリガンは、肩をすくめた。


「役目、ねぇ……」


 両腕を広げ、嗤う。


「だったら見せてみろよ」


 次の瞬間。破壊双掌が、連続で叩き込まれる。

 地獄のラッシュ。だが、ジャックは退かない。


 斬る。

 避ける。

 斬られる。


 血を流しながら、前へ。

 これは、力比べじゃない。技比べでもない。

 偽物と、本物の人間の戦いだ。


 麒麟の戦場とは別の場所で、因果の決着は、確実に近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ