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黒炎龍を宿す者  作者: 黒瀬雷牙
第三章 カロスの選択
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第四十四話 カロスvs二人の刺客

 熱に歪む空気の向こうで、二人の影が同時に動いた。


 白銀の外套の男。

 そして、半グレのNo.2。


 挟撃。


 迷いも、合図もない。

 最初から、二対一で殺すつもりだった。


 半グレNo.2が、地を蹴る。

 常人には消えたように見える踏み込み。刃が、カロスの脇腹を狙う。


 同時に、白銀の男が詠唱もなく手を掲げた。

 圧縮された光が、一直線に撃ち出される。


 逃げ場はない。


 だが、カロスは退かなかった。


 一歩、踏み込む。


 半グレの刃を、指二本で逸らす。皮膚が裂け、血が散る。遅れて届く光弾を、肩で受けた。


「――っ!」


 衝撃が、内側まで叩き込まれる。骨が軋み、視界が一瞬白んだ。


 重い。

 確かに、重い。


「……やるじゃないか」


 半グレNo.2が、楽しそうに笑う。


「二人同時でも、まだ立つかよ」


 白銀の男は、感情を見せない。


「消耗している。あと三合」


 正確な分析。間違っていない。カロスは、静かに息を整えた。呼吸が、わずかに乱れている。肩も、ほんの少しだけ下がっていた。


 だが、目は死んでいない。


「……次で終わりです」


 そう言った瞬間、空気が変わった。

 半グレNo.2が、舌打ちする。


「チッ……」


 踏み込み。今度は、全力。殺し切るための一撃。

 同時に、白銀の男が、魔力を最大まで高める。

 周囲の炎が、引き寄せられるように集束する。


 だが、カロスは二人を見ていなかった。間を、見ていた。


 一瞬。ほんの一瞬、二人の攻撃が重なる隙。


 そこに踏み込む。


 半グレNo.2の懐へ。

 刃が届くより早く、拳が腹部に沈む。


 音は、なかった。


 だが、次の瞬間。半グレNo.2の口から、血が噴き出す。内臓が、完全に潰れていた。


「……が、っ」


 身体が折れ、地面に叩きつけられる。

 動かない。止まらない。


 カロスは、そのまま前へ。白銀の男の放った光を、真正面から受けた。


 否、受けたように見えただけだった。光は、逸れていた。紙一重で、核心を外されていた。


 白銀の男の目が、初めて見開かれる。


「……!」


 次の瞬間、喉に、掌が添えられていた。


「あなたは……強い」


 静かな声。


「ですが」


 力が、込められる。魔力ではない。純粋な、人の力。


「救われていない」


 骨が、鳴った。白銀の外套が、地に落ちる。男は、そのまま崩れ伏した。


 沈黙。


 二人の格が、完全に消えた。


 カロスは、数歩だけ進み、足を止めた。さすがに、呼吸が荒い。肩の傷から、血が滴る。


 だが、倒れない。


「……」


 顔を上げる。


 視線の先。炎と影が、激しく交錯していた。


 モウラだった。


 速い。

 確かに、速い。


 だが、押されている。


 朱雀の鉄扇が、影を封じる。炎が、進路を塞ぐ。


「……っ」


 モウラの動きに、僅かな乱れ。致命的ではない。だが、確実に追い詰められている。


 総合力では、劣らない。

 技量も、速度も、殺意も。


 だが。


 相性が、悪すぎた。


「ほらほら」


 朱雀が、楽しそうに笑う。


「影はな、炎には映えへんのや」


 鉄扇が、叩きつけられる。モウラが、地面を滑り、瓦礫に叩き込まれた。


「……くっ」


 立ち上がろうとするが、炎がそれを許さない。

 その前に。一人の男が、立った。


 青い衣。血に染まりながらも、背筋は伸びている。


「……そこまでです、朱雀」


 朱雀の笑みが、わずかに歪む。


「あぁ?」


 視線が、カロスに向く。


「まだ、動けたんかい」


 カロスは、朱雀の正面に立つ。モウラを、背に庇う形で。


「……今度は」


 静かな声。


「私が、相手をします」


 炎が揺れた。朱雀の目が、細くなる。


「おもろいやん」


 金色の鉄扇が、ゆっくりと開かれる。


 ついに。過去と現在が、真正面から、向き合った。


 一方、その頃。


 瓦礫の上に、男が倒れていた。


 ライアンだった。


 喉元から腹部にかけて、深い打撃痕。致命傷ではないが、立ち上がれる状態ではない。


「……ぐ、っ」


 呻き声を上げる男を、レイアは一瞥しただけだった。


「半グレ如きに、負ける私ではない」


 両手の鉄棒を下ろす。呼吸は乱れていない。汗も、わずか。


 勝敗は、最初から決していた。


 レイアは、顔を上げる。


 炎の中心。


 朱雀が、余裕の笑みを浮かべている。

 その前に立つカロスは、明らかに消耗していた。

 背後のモウラも、満身創痍だ。


「……」


 胸の奥が、ざわつく。


 あの二人が倒れたら――。


 この国は、終わる。


 理屈ではなく、本能がそう告げていた。

 助けに行くべきだ。今すぐにでも。


 そう思ったとき、レイアの意識は、前方に固定されたままだった。


 誰も、気づかなかった。


 戦場の喧騒に紛れ、炎と鋼の音に覆い隠されてひとつの歯車が、静かに噛み合ったことを。


 それは、偶然か。それとも、最初から仕組まれていた必然か。


 次の瞬間。一つの悲劇が、誰の予想にもない形で、動き出そうとしていた。

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