第四十四話 カロスvs二人の刺客
熱に歪む空気の向こうで、二人の影が同時に動いた。
白銀の外套の男。
そして、半グレのNo.2。
挟撃。
迷いも、合図もない。
最初から、二対一で殺すつもりだった。
半グレNo.2が、地を蹴る。
常人には消えたように見える踏み込み。刃が、カロスの脇腹を狙う。
同時に、白銀の男が詠唱もなく手を掲げた。
圧縮された光が、一直線に撃ち出される。
逃げ場はない。
だが、カロスは退かなかった。
一歩、踏み込む。
半グレの刃を、指二本で逸らす。皮膚が裂け、血が散る。遅れて届く光弾を、肩で受けた。
「――っ!」
衝撃が、内側まで叩き込まれる。骨が軋み、視界が一瞬白んだ。
重い。
確かに、重い。
「……やるじゃないか」
半グレNo.2が、楽しそうに笑う。
「二人同時でも、まだ立つかよ」
白銀の男は、感情を見せない。
「消耗している。あと三合」
正確な分析。間違っていない。カロスは、静かに息を整えた。呼吸が、わずかに乱れている。肩も、ほんの少しだけ下がっていた。
だが、目は死んでいない。
「……次で終わりです」
そう言った瞬間、空気が変わった。
半グレNo.2が、舌打ちする。
「チッ……」
踏み込み。今度は、全力。殺し切るための一撃。
同時に、白銀の男が、魔力を最大まで高める。
周囲の炎が、引き寄せられるように集束する。
だが、カロスは二人を見ていなかった。間を、見ていた。
一瞬。ほんの一瞬、二人の攻撃が重なる隙。
そこに踏み込む。
半グレNo.2の懐へ。
刃が届くより早く、拳が腹部に沈む。
音は、なかった。
だが、次の瞬間。半グレNo.2の口から、血が噴き出す。内臓が、完全に潰れていた。
「……が、っ」
身体が折れ、地面に叩きつけられる。
動かない。止まらない。
カロスは、そのまま前へ。白銀の男の放った光を、真正面から受けた。
否、受けたように見えただけだった。光は、逸れていた。紙一重で、核心を外されていた。
白銀の男の目が、初めて見開かれる。
「……!」
次の瞬間、喉に、掌が添えられていた。
「あなたは……強い」
静かな声。
「ですが」
力が、込められる。魔力ではない。純粋な、人の力。
「救われていない」
骨が、鳴った。白銀の外套が、地に落ちる。男は、そのまま崩れ伏した。
沈黙。
二人の格が、完全に消えた。
カロスは、数歩だけ進み、足を止めた。さすがに、呼吸が荒い。肩の傷から、血が滴る。
だが、倒れない。
「……」
顔を上げる。
視線の先。炎と影が、激しく交錯していた。
モウラだった。
速い。
確かに、速い。
だが、押されている。
朱雀の鉄扇が、影を封じる。炎が、進路を塞ぐ。
「……っ」
モウラの動きに、僅かな乱れ。致命的ではない。だが、確実に追い詰められている。
総合力では、劣らない。
技量も、速度も、殺意も。
だが。
相性が、悪すぎた。
「ほらほら」
朱雀が、楽しそうに笑う。
「影はな、炎には映えへんのや」
鉄扇が、叩きつけられる。モウラが、地面を滑り、瓦礫に叩き込まれた。
「……くっ」
立ち上がろうとするが、炎がそれを許さない。
その前に。一人の男が、立った。
青い衣。血に染まりながらも、背筋は伸びている。
「……そこまでです、朱雀」
朱雀の笑みが、わずかに歪む。
「あぁ?」
視線が、カロスに向く。
「まだ、動けたんかい」
カロスは、朱雀の正面に立つ。モウラを、背に庇う形で。
「……今度は」
静かな声。
「私が、相手をします」
炎が揺れた。朱雀の目が、細くなる。
「おもろいやん」
金色の鉄扇が、ゆっくりと開かれる。
ついに。過去と現在が、真正面から、向き合った。
一方、その頃。
瓦礫の上に、男が倒れていた。
ライアンだった。
喉元から腹部にかけて、深い打撃痕。致命傷ではないが、立ち上がれる状態ではない。
「……ぐ、っ」
呻き声を上げる男を、レイアは一瞥しただけだった。
「半グレ如きに、負ける私ではない」
両手の鉄棒を下ろす。呼吸は乱れていない。汗も、わずか。
勝敗は、最初から決していた。
レイアは、顔を上げる。
炎の中心。
朱雀が、余裕の笑みを浮かべている。
その前に立つカロスは、明らかに消耗していた。
背後のモウラも、満身創痍だ。
「……」
胸の奥が、ざわつく。
あの二人が倒れたら――。
この国は、終わる。
理屈ではなく、本能がそう告げていた。
助けに行くべきだ。今すぐにでも。
そう思ったとき、レイアの意識は、前方に固定されたままだった。
誰も、気づかなかった。
戦場の喧騒に紛れ、炎と鋼の音に覆い隠されてひとつの歯車が、静かに噛み合ったことを。
それは、偶然か。それとも、最初から仕組まれていた必然か。
次の瞬間。一つの悲劇が、誰の予想にもない形で、動き出そうとしていた。




