第三章「移動」
朝の国立競技場。
早く起きた遥はテントを出ると
一人の係員を偶然見かける。
遥「おはようございます。係員さん。」
係員「ああ、おはよ。もうすぐ食料が届くからね。」
そして、グラウンドの様子を確認すると避難者達がランニングや筋力トレーニングをして体を動かしていた。
遥「みんな頑張って運動してるみたい!」
それに感激した遥は気になることを思い出した。
遥「あっ、そうだ!遼真と未夢さんを起こさないと!」
そして遥は先程の自分達のテントに戻り、遼真と未夢を起こした。
遥「未夢さん、起きてください!ほら遼真も!」
遼真と未夢は遥に起こされて、目が覚めた。
遼真「おはよう……お姉ちゃん。」
未夢「もうなんなんだよ朝っぱから……。」
遥は二人に運動するように促した。
遥「朝からみんなグラウンドで運動してるよ!ねぇランニングとか筋トレとか体操とかしないの?」
未夢「は・・・運動?こんな時にランニングとかふざけんなよ・・・!アタシらはまだ眠ぃしよ・・・!こんな大変な時によ・・・!」
遼真「僕達は避難生活してるんだからゆっくり寝てたいよぉ。ここへ来たのに何考えてるの・・・?」
眠そうで運動する気にはなれなかった二人に遥は呆れてしまった。
遥「全く二人とも本当にだらしないんだから~‼」
すると、配給から争う声が聞こえた。
避難者「コラ!勝手に列を割り込むな!」
その声を聞いた遥は・・・
遥「配給の方から何かあるみたい!私、ちょっと様子を見てくるね!」
配給の様子を見に、遥はテントから出て行った。
配給の方では避難者が食料の事で言い争っていた。
不良若者「オレは昨日晩飯すら食ってなかったんだぞ!オレに食わせろや!」
避難者「なんで早くここに来なかったんだ!もっと早く避難しないお前が悪いんだ!」
不良若者「オレァもう腹ペコなんだオンドリャー!」
避難者「いや、お前の分のちゃんとあるんだから!」
遥はその喧嘩を止めにやってきた。
遥「二人ともやめてください‼」
遥は避難者を説得した。
遥「皆の物は皆で食べる物!独り占めなんかしたら皆が悲しむだけだよ!」
そして未夢も説得に加わり
未夢「遥の言う通り!食料の独り占めは窃盗と同じさ!まだ警察も到着してないからその言い争いはやめろよ!」
説得中に突然、雨が降り始めた。
ザ――――――――――――――――――――――――――……。
未夢「ん?」
遥「雨?」
雨はいつにも増して強くなり、消防士が現れた。
消防士「危険です!皆さんここから出てってください!」
避難者は消防士の話を聞いた。
消防士「この雨は酸性雨と言って、昨日の地震で倒壊した建物や火災旋風の煤によってできた雨で最悪の場合、健康被害を受ける場合があります!速やかに行動をお願いします!」
国立競技場の入り口手前には複数の車が駐車していた。
避難を促された人々は次々車に乗り込み分散移動し、遥達も、国立競技場を後にし、駐車しているオフロード車に乗り込んだ。
未夢「私と平井姉弟の三人です!」
男性「分かった!」
その雨は更に強くなる中、遥達はオフロード車で行き着く場所まで向かった。
車の中。
未夢「あの、私達をどこへ連れて行けばいいですか?」
男性「日本武道館だ!ここなら頑丈で安全だから。」
東京の街はどこもかしこも荒れ果てていた。
遼真「どの場所も酷いことになってる・・・。」
遥「今までと全然違う・・・。」
男性「たしかにそうだな。東京は巨大地震で壊滅的な被害を受けてるからな。」
そう話してるうちに、日本武道館に到着した。
日本武道館。
遥「ありがとうございました。」
三人は車を降りて、日本武道館に入った。
未夢「この避難所に入所する武沢未夢と平井姉弟です!」
名簿係「はい、こちらに名簿を記入してください。」
未夢は武道館の中へ誘導した
未夢「よし、こっちだ!」
遥達は武道館内部に入った。
遥「え、ここって、武道館内部⁉」
未夢「ああそうだ。本来ならプロレスやライブ会場等に使われているけど、今は避難所として使われているからな。」
しかし、遼真は感激していた。
遼真「僕、武道館に一度泊まってみたかったんだ!」
遥・未夢「りょ・・・遼真・・・?」
未夢は係員に空きのスペースを尋ねた。
未夢「あの、空きスペースありますか?」
係員「ああ、空きスペースならたくさんあるよ。」
未夢「ありがとうございます!」
遥達が空きスペースを探していると未夢の後輩を偶然見かけた。
未夢「清子‼ここにいたんだ!」
清子「あっ!未夢先輩!」
遥「え?じゃあもしかして、未夢さんの後輩?」
未夢「ああ、そうだ!私の1つ下の後輩の南川清子って言ってな。親友である礼奈がアメリカへ旅行に行っていて、昨日の大地震で日本に帰れなくなったんだ。」
ポイント⑤ 海外旅行中に母国で巨大地震が発生すると帰国できなくなる場合がある。
未夢「無事だったか?アタシがいたからにはもう大丈夫だ!ほら、これでも食え!」
未夢は清子に食料を渡した。
清子「ありがとうございます!未夢先輩!」
その夜……遥と遼真が未夢のポータブルテレビを観ていると
東京駅前には帰宅困難者が大勢いた。
キャスター「東京駅前の様子です。多くの帰宅困難者に埋め尽くされ、車が渋滞しているようです。」
遼真「交差点が帰宅困難者で人の海になってる。」
遥「これじゃ車も通れないよ!」
未夢「あんた達、そんなの観て、つまんないだろ?」
遥・遼真「え?」
未夢はビデオプレーヤーとアニメ映画のDVDを自分の鞄から取り出した。
未夢「じゃあ、アタシと一緒に映画でも観ながらゆっくり楽しもうぜ!」
そして、遥達はアニメ映画のDVDを観ることにした。
DVDの映像。
崖を登る花梨だが、滑り落ちるのが怖くて泣きわめている。
花梨「ふぇぇぇぇぇんやっぱり怖いよぉ~!」
すると崖の頂上にいる桃衣が花梨に手を伸ばす。
桃衣「花梨、私の手に捕まれ!」
そのDVDを鑑賞する遥達。
遥「未夢さん、この映画は?」
未夢「“西の飛脚”って言ってな。これの劇場版で、壮大な冒険をしながら荷物を届けるって言う物語だ。アタシ、このアニメめっちゃ大好きで、全シリーズ全話録画してるし、原作単行本も全巻集めてるからな。ちなみにこの映画のDVD、この前通販で購入したんだ!」
未夢は遥と遼真にオレンジジュースを差し出した。
未夢「ほら、二人とも、ジュースだぞ!一緒に飲んで映画を楽しもうぜ!」
遥・遼真「ありがとうございます!」
そして遥達は、日本武道館で楽しい夜を過ごしたのであった。