第18話 獰猛なる猟犬のごとく
伊佐谷と『姉妹』になっても、あたしは別に何も変わらない。
「蓮奈ちゃん、次のライブのことなんだけどー」
学園内で伊佐谷に付きまとわれるのはいつものことだし。
「蓮奈ちゃん、頬キスくらいならいいでしょ? それとも唇にしちゃって平気?」
やたらとスキンシップを取ろうとするのだって、いつものこと。
もちろんキスは断った。
あたしの態度は変わらなくても、伊佐谷の方は、以前よりもっともっとしつこく絡んでくるようになった気がする。
「蓮奈ちゃん、今日はお昼――」
「ぎゃっ!」
でもトイレ中に個室の仕切りを乗り越えて覗き込んできたときは流石にビビり散らかしたし、抗議の意味も込めてトイレットペーパーを投げつけてしまった。
幸い、あたしたち以外に誰もいないタイミングだったから、理想のお嬢様像が崩れることなくて済んだけど。
もしかしたらロザリオを交換し合って正式に『姉妹』になったことで、伊佐谷のタガが外れちゃったのかもしれない。
はた迷惑にもほどがある……。
「蓮奈ちゃん、蓮奈ちゃーん。れ・ん・な・ちゃーん」
「ああっ、うるさいですわ!」
昼休み。
伊佐谷から逃げるために学園内を歩いていたんだけど、どこまでもついてきそうな伊佐谷に対して、あたしもとうとう大爆発してしまった。
「伊佐谷さん! あたしと伊佐谷さんは『姉妹』になりはしましたけれど、あまりしつこく名前を呼ぶようなことは控えてくれませんかしら」
「蓮奈ちゃん」
「言ったそばから……なんですの?」
「お姉様って呼んでくれないの?」
「呼ぶ必要がありますかしら?」
「だって、『姉妹』なのに」
「……」
あたしは、自分の意思でロザリオを伊佐谷に託したっていうのに、これまで一度も伊佐谷を『お姉様』って呼んだことがない。
「今すぐ呼ぶ必要はないでしょう? あまり急かすと、かえって伊佐谷さんをお姉様と呼びたくなくなりますわ」
「えー、そんな。『お姉様』って呼んでくれないと、蓮奈ちゃんがぼくの『妹』になった気がしないよ」
「仕方ないでしょう? あなたも私の『姉』でいたいのなら、『妹』のペースを尊重してくださらない?」
「しょうがないなー」
伊佐谷は渋々ながら納得してくれた。
伊佐谷の病院送りは、大げさに痛がったせいだけど、それは自分の言葉をウソにしないために頑張った結果ではある。
ロザリオを渡したのは、あたしのせいで伊佐谷やバンドやバンギャルのみんなに迷惑を掛けてしまった、せめてものお詫び代わり。
『姉妹の契り』は結んだけれど、『姉妹』として振る舞うには、まだ抵抗がある。
そりゃ前よりは、伊佐谷のことを信用できるようになったけどさ。
でもまだ『姉妹』って関係性を通して伊佐谷と深い繋がりを持つことに抵抗があるんだよ。
あと、伊佐谷が今後ますます調子に乗ったら鬱陶しいし。
……その辺の気持ちが固まるまで、『お姉様』呼びはお預けにしてくれないかなぁ。
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