第13話 支配者の輪舞曲
翌日。
「あはは、ごめんごめん」
生徒会室にぶっこみを掛けると、楓井会長は悪びれもなく笑った。
「会長はたいした食わせ物ですのね。私、すっかり策略にハマってしまいましたわ」
「人聞きが悪いな」
楓井会長は、生徒会長用の上等な椅子に腰掛けたまま言った。
「結果的に、雫と距離を縮めるきっかけにはなっただろう?」
「無駄な労働をさせられただけですわ」
「おかしいな。君のような既に下級生から絶大な支持を集める理想的なお嬢様なら、喜んでボランティアに協力してくれるものと思ったのだが、そこまで不服だったとはね」
「なっ!? い、いえ、お手伝い自体は何も問題ありませんわ。私の力を役立てられるのなら、何だってしますもの」
「ふふっ、だろうね。いや、疑ってすまないね。君は紛れもなく、誰からも支持されるべき素晴らしいお嬢様だよ」
やりにくいなぁ。
もしかして、この食わせ物会長もあたしが本当はガチお嬢様じゃないって知ってる?
まさか、伊佐谷が情報流してるとかないよね?
「私が納得行かないのは、事前に何も教えてくれなかったことですわ」
「私にも事情があったのだよ」
「どんなですの?」
楓井会長は、椅子を離れると、立派なデスクに腰掛けた。
挑むような顔つきは、油断するとビビっちゃいそうだけど、ここで気圧されたら終わりだ。
「雫に友達をつくってあげたくてね。いや、できればもっと上の親しい関係かな。君が正真正銘『妹』になってくれたら、私も一安心できるから」
「ずいぶんと過保護ですのね」
「仮にも私は『姉』だからな。それくらいの面倒は見るのさ。私がこの学園にいられる期間も、もうそれほどないからね。できることはやっておきたい」
「結構な心がけですけれど、それなら騙し討ちのような真似は二度と止してもらいたいものですわね」
「ああでもしなければ、君は雫と二人きりにはならなかっただろう?」
「……そんなことはありませんけれど?」
「君も案外隙が多いな。でも君のことは気に入った。話題先行のまがい物かと思ったけれど、なかなか骨がある。今年は厳しくても、どうだい、来年はうちの学園で生徒会長にならないかい?」
「お断りいたしますわ。いたいけな下級生を騙し討ちしても平気な厚顔無恥ではありませんので」
「すっかり嫌われてしまったようだな」
たいして気を悪くしていなそうな楓井会長だった。
「だが、私は君をサポートする気はあるがね。これに懲りず、また何かあったらここへ来るといい」
「次に来るときは、生徒会長としてですわ。人を騙すような生徒会を乗っ取ってやりますわよ」
「まるで宣戦布告のようだけど、できることなら私としては、次の会長選ではぜひ君を推薦したいくらいだから。むしろ望むところだな」
『妹』が『妹』なら、『姉』も『姉』だ。
夏海さんは、どうして会長と伊佐谷が『姉妹』なのか不思議がっていたけど、二人は似たもの同士なのだから、くっつくのも当然といえば当然だよ。
食えない生徒会長にいつまでも付き合っていられないから、あたしはさっさと生徒会室を出た。
あたしにはまだ、厄介事が残ってるんだから。




