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# 八咫霞町連続殺人事件 #
【公式記録】鷹井家惨殺事件報告書
事件番号: 2022-11-HC-042
作成日: 2022年11月28日
作成者: 村上剛志警部補、早瀬陽介巡査(刑事係)
承認者: 高岡勇三警視
※八咫霞町警察署刑事係所属の村上警部補と早瀬巡査が初動捜査を担当。
事件発覚直後より県警本部刑事部との連携を開始し、翌日には合同捜査本部の設置を決定。
◆ 発見状況
2022年11月25日午前8時47分、八咫霞町西区桜丘町3-12に居住する鈴木和雄(68歳)より110番通報があった。
通報内容は、隣家である鷹井家のポストから郵便物が溢れており、数日前から家族の姿を見ていないため心配であるというものだった。
鈴木和雄の証言によると、11月20日を最後に鷹井家の家族を見ておらず、普段は毎朝見かける鷹井千鶴(40歳)と小学生の子どもたちの姿が見えなくなったとのことであった。
また、夜間も家の灯りが点いていない状態が続いていた。
通報を受け、当署の村上剛志警部補と早瀬陽介巡査が現場に急行した。
◆ 現場到着および初期状況
午前9時05分、我々は鷹井家に到着。
外観上の異常は見られなかったが、玄関のドアベルを複数回押しても応答はなかった。
鈴木氏の証言通り、ポストからは新聞や郵便物が溢れる状態となっていた。
玄関先から室内を窓越しに確認したところ、廊下に明らかな人型の血痕と動かない人影を発見した。
複数回の呼びかけにも反応がなかったため、午前9時10分、本部に状況を報告。
上級捜査員の派遣要請と共に緊急立入りの許可を得た。
午前9時12分、我々は警察官職務執行法第6条(住居等への立入り)に基づき、玄関の鍵を解除して立ち入りを行った。
◆ 発見状況
室内に入るとすぐに特徴的な死臭と血痕が確認された。
玄関から約2メートルの廊下に、鷹井誠一(42歳)の遺体が仰向けの状態で発見された。
腹部正中線に沿って約30センチメートル、深さ約15センチメートルの切創が確認され、腹腔内容物の一部露出が認められた。
リビングには鷹井千鶴(40歳)と鷹井満江(78歳)の遺体が発見された。
両者とも同様の腹部切創が確認され、テーブルの周囲に倒れていた。
テーブル上の食事の状態から、食事中に襲撃された可能性が示唆された。
2階の子ども部屋からは鷹井大翔(11歳)の遺体を発見。
同じく腹部切創が認められた。
隣接する部屋からは鷹井陽太(9歳)の遺体が窓から約1.2メートルの位置で発見された。
体の向きは窓に対して斜め45度の角度を示していた。
午前9時20分、我々は直ちに現場保存を行い、現場検証班および法医学検査官の派遣を要請した。
◆ 現場検証結果
◆ 4.1 玄関および侵入経路
玄関ドアには不自然な傷がなく、窓やその他の侵入経路にも異常は見られなかった。
鍵の破壊や解除された形跡もなかった。
これにより、犯人は鍵を使って侵入したか、被害者のいずれかによって玄関が開けられた可能性が高い。
ドアノブ、玄関扉、玄関周辺からは複数の指紋が採取されたが、いずれも被害者家族のものと一致し、未知の指紋は検出されなかった。
◆ 4.2 遺体の状況
法医学検査官・水野博士による初期検視の結果、5名全員の死因は腹部大動脈および周辺血管の断裂による急性失血性ショックと特定された。
被害者の血液凝固状態および死後硬直の進行度から、死亡推定時刻は11月21日の22時から22日の2時の間と判断された。
全ての被害者の腹部には、腹部正中線に沿った切創が認められ、切創の長さは28〜32センチメートル、深さは12〜17センチメートルとほぼ同一パターンであった。
切創部位の特徴分析によると、使用された凶器は片刃で重量のある刃物と推定されるが、組織の裂け方や断面特性に通常の刃物とは異なる特徴が見られた。
水野博士は「切開痕には従来の刃物による傷の特徴が見られず、法医学的に使用された凶器の特定が困難である」と報告している。
切創部周辺には指圧痕を示す皮下出血が複数確認され、犯人が両手を使って被害者の体内を探索した形跡が認められた。
◆ 遺留品および証拠物
現場からは以下の物品が押収された。
◆ リビングテーブル上の夕食
・ 5人分のセッティング、21日の夕食と確認
・ 各皿の残存物から、調理後3〜4時間経過していたと推定
・ 被害者の胃内容物分析でも同一の食事内容が確認された
・ 特記:皿に残された小骨や食材の一部が回収され、分析中
◆ 各室から採取された指紋・血痕・体液
・ 犯人のものと思われる指紋は発見されず
・ 全ての血痕は被害者のものと鑑定された
・ 被害者以外の体液・DNA試料は検出されず
◆ 玄関付近の足跡パターン分析結果
・ 靴底の特徴から成人男性1名分と推定
・ サイズは約27.5cm、特徴的な摩耗パターンあり
・ 被害者家族の靴との一致はなし
◆ 室温記録装置の異常データ
・ 現場到着時、室内温度計でマイナス2度を記録
・ 外気温(10度)との顕著な差異を示す異常値
・ 特記:追加計測により、1階の平均温度がマイナス2度、2階の子ども部屋ではさらに低いマイナス4度を記録。
・ 通常の冷気の性質(下方に溜まる傾向)に反した現象と確認
◆ 鷹井大翔の学習ノートとスケッチブック
・ 八咫山中腹での生物観察記録(11月15日〜20日の6日間)
・ 調査対象は山中の水辺(野外活動)で、水生生物のスケッチと観察メモが残されている
・ ノートの一部に不明瞭な記述や水濡れによる損傷箇所あり
・ 地域の伝承に関する断片的なメモが数カ所に記載されているが、記述は不完全
◆ 被害者背景調査
◆ 6.1 鷹井誠一(42歳)
・ 八咫温泉「霞の湯旅館」の料理長を務めていた。
・ 同僚や上司によると、仕事に熱心で、特に対人トラブルなどはなかったとの証言が得られた。
・ 借金などの財政問題も確認されていない。
・ 一方で、旅館の経営難について懸念していたとの情報あり。
◆ 6.2 鷹井千鶴(40歳)
・ 八咫霞町立八咫小学校の給食調理員として働いていた。
・ 校長の石橋誠一(58歳)によると、「明るく協調性のある人物で、子どもたちからも慕われていた」とのこと。
・ SNSやメールの履歴調査からも、不審な交流は確認されなかった。
・ 地域の婦人会活動にも積極的に参加していた。
◆ 6.3 鷹井大翔(11歳)と鷹井陽太(9歳)
・ 両名とも八咫霞町立八咫小学校に通う生徒であった。
・ 担任教師によると、大翔は活発で責任感が強く、陽太は内向的ながらも想像力豊かな子どもだったという。
・ 学校でのいじめやトラブルの報告はなかった。
・ 大翔は直近1週間、学校の自由研究で地元の自然観察に熱心だったとの情報が複数の同級生と担任から得られた。
・ 担任の村山大介教諭によれば、「大翔君は自然環境に強い興味を示し、特に水生生物の研究に熱心だった」とのこと。
◆ 6.4 鷹井満江(78歳)
・ 元「八咫織」の職人で、地域の伝統工芸を支えてきた人物。
・ 地域住民からの評判も良く、近隣トラブルなどの報告はなかった。
・ 定期的に服用していた降圧剤以外に、特記すべき健康上の問題はなかった。
・ 地元の古老からは「満江さんは町の古い伝承に詳しく、八咫霞町の言い伝えを孫たちに語り継いでいた」との情報が得られた。
・ 過去に地域の伝統行事の復活に尽力した人物として評価されていた。
◆ 捜査経過
◆ 7.1 近隣住民への聞き込み
・ 半径500メートル内の全住民(32世帯)に対して聞き込みを実施。
・ 11月21日夜に不審者や物音を聞いた証言は得られなかった。
・ 21日の夜間は雨が降っており、多くの住民は窓を閉め切っていたことが判明した。
・ 地域の伝承や禁忌に関する聞き取りでは、高齢者から様々な言い伝えが聞かれたが、具体的な内容については各証言に不一致が見られた。
・ 数名の高齢者からは「八咫霞町には守るべき決まりがある」という曖昧な発言があったが、詳細は語られなかった。
◆ 7.2 防犯カメラ映像分析
・ 町内の防犯カメラ(町役場、コンビニ、ガソリンスタンド等)の映像を分析したが、鷹井家付近での不審者は確認できなかった。
・ 八咫川方面から町に入る林道については監視カメラがなく、死角となっていた。
◆ 7.3 鷹井家の電話・通信記録
・ 被害者らの携帯電話履歴や自宅電話の通話記録を調査したが、不審な通信は見つからなかった。
・ 鷹井誠一の携帯電話には、21日午後6時30分頃に「今日は早く帰ります」という旅館への連絡メールが残されていた。
・ 大翔のスマートフォンには、友人との学校の話題や自然観察に関するメッセージが残されていたが、事件につながる内容は見当たらなかった。
◆ 7.4 物証分析
・ 現場から採取された血痕はすべて被害者のものと一致。
・ 犯人の血痕や体液、繊維などは発見されなかった。
・ 各被害者の爪の間からも犯人のDNAは検出されなかった。
・ リビングテーブル上の食事から採取された小骨や食材の詳細分析結果は後日判明予定。
◆ 捜査上の問題点
◆ 8.1 動機の不明確さ
・ 家財や貴重品は持ち去られておらず、強盗目的とは考えにくい。
・ また、被害者に対する恨みや怨恨関係も現時点では確認されていない。
・ 性的暴行の痕跡も認められないため、性犯罪の可能性も低い。
・ 儀式的要素を感じさせる殺害方法だが、カルト関連の証拠は見つかっていない。
◆ 8.2 侵入経路の謎
・ 玄関からの侵入と思われるが、鍵の破壊痕がなく、被害者が自ら開けた形跡もない。
・ 犯人がどのように侵入したのかが不明である。
・ 鍵の複製や特殊な開錠方法の可能性も検討中。
◆ 8.3 抵抗の痕跡の欠如
・ 成人男性を含む5人が殺害されているにもかかわらず、被害者からの有効な抵抗の痕跡が見られない。
・ 外傷医学の観点から、何らかの迅速な行動不能化手段(麻酔薬や神経毒など)が使用された可能性を法医学チームは指摘している。
・ 食事に混入されたものがあったかの検査も依頼中。
◆ 8.4 異常な切開方法
・ 切創痕には従来の刃物による傷の特徴(組織の裂け方、断面の特性)が見られず、法医学的に使用された凶器の特定が困難である。
・ 水野博士は「切開の仕方が外科的というよりも、むしろ引き裂くような特徴を持つ」と指摘している。
・ 全ての被害者の腹部には両手が挿入された痕跡があり、体内を探索した可能性が示唆されている。
・ このような特徴的な殺害方法の先例が確認されておらず、プロファイリングが困難。
◆ 8.5 異常な環境条件
・ 現場の室温が外気温より著しく低かった点(1階でマイナス2度、2階でさらに低いマイナス4度)について、空調設備の異常や測定機器の故障の可能性を検証したが、いずれも否定された。
・ 通常の物理法則では冷気は下方に溜まるはずだが、今回はその逆の現象が観測された。
・ これらの現象は科学的説明が現時点で困難である。
・ 特に注目すべきは、最も温度の低かった場所が鷹井大翔の部屋である点。室温変化の原因究明が必要。
◆ 結論と今後の方針
本件は発生から72時間が経過したが、有力な容疑者や明確な動機は特定できていない。
犯行の手口や状況から、通常の殺人事件とは異なる特殊性が認められる。
当署の調査では、1975年の八咫霞町史に記載された明治12年の「山口家失踪事件」(家族5人が一夜にして姿を消した事例)や、約30年前の八咫山周辺での「腹部に傷のある遺体」発見事例に言及する古老の証言があった。しかし、公式記録が断片的であるため詳細な比較検討が困難である。これらの過去の類似事例についても、より詳細な調査が必要と思われる。
高岡警視との協議の結果、当署では以下の方針を決定した。
1. 県警本部との合同捜査本部の即時設置
2. 法医学チームによる更なる遺体分析と特殊凶器の特定
3. 同種事件の全国照会
4. 特殊犯罪分析の専門家への協力要請
5. 犯罪心理分析官の派遣要請
また、九条コンサルティング事務所(所長:九条了氏)への非公式な協力依頼を検討。
同事務所は超常現象や説明困難な事件の分析で実績があり、助手の桐沢瑠璃氏は民俗学と犯罪心理学の知識も持ち合わせていることから、本件の特殊性に対応できる可能性が高い。
八咫霞町警察署刑事係は、本事件を最重要案件として、あらゆる捜査リソースを投入する方針である。
本報告書は捜査中の極秘情報を含みます。
関係者以外への開示を禁じます。
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【現場音声記録】鷹井家現場捜査時
以下は、村上剛志警部補と早瀬陽介巡査の現場捜査時のボイスレコーダーから回収された会話の書き起こしである。
正式な報告書には含まれない記録として保管される。
2022年11月25日 午前9時05分
村上: 「ここが鷹井家か。外見上は特に異常はないな」
早瀬: 「ポストが……郵便物で溢れていますね」
村上: 「鈴木さんの言う通りだな。何日分だ?」
早瀬: 「えーと……」
郵便物をめくる音
「20日、21日、22日、23日、24日、25日の今日分まで。6日分ですね。最近の郵便物が一通も取り込まれていないようです」
村上: 「おかしいな……」
早瀬: 「ドアベル、押してみます」
ピンポーンという音が記録されている
早瀬: 「反応ないですね。もう一度」
再度ドアベルの音
村上: 「窓から中を見てみるか」
靴音、移動する音
早瀬: 「村上さん!」
息を飲む音
「こちらの窓から……血のようなものが見えます!人が、人が倒れているように…!」
村上: 「どれどれ……」
急いで移動する音
「……くそっ、これは間違いなく血痕だ。人型の血痕が…これは人命に関わる緊急事態だ。本部に連絡する」
無線機を操作する音
村上: 「本部、こちら鷹井家現場の村上。窓越しに血痕と人影を確認。応答なし。緊急立入りの許可を求める。上級検視官と鑑識の派遣も要請する」
無線からの応答音
村上: 「了解。立入りを行う。早瀬、準備はいいか」
早瀬: 「はい!」
緊張した声
鍵を解除する音
午前9時12分
ドアを開ける音
村上: 「うっ……」
咳込む音
早瀬: 「この、この臭いは……」
むせる音
村上: 「死臭だ。かなり進行している……」
鼻をすする音
「それに、異常に冷え込んでいないか?外より寒い」
早瀬: 「はい、確かに……体感でも5度は違います。おかしいですね」
震える声
村上: 「拳銃を構えろ。犯人がまだ潜んでいる可能性がある。慎重に進むぞ」
武器を構える音、慎重に進む足音
早瀬: 「あっ!」
急な息継ぎ
村上: 「何が見えた?」
早瀬: 「そこ、廊下に……人が倒れています!」
素早く近づく足音
村上: 「男性……鷹井か……」
息を飲む音
早瀬: 「傷、傷が……」
吐き気を抑える音
村上: 「気を確かに持て。これが我々の仕事だ」
深呼吸する音
「死後硬直の状態から見て、数日は経過しているな。傷跡から察するに、外部からの侵入者による殺害だろう」
早瀬: 「はい……」
震える声
「これは殺人事件ですね」
村上: 「まだ他の家族も……探さないと。お前は1階を、俺は2階を確認する」
早瀬: 「了解しました!」
別々の方向に進む足音
早瀬: 「村上さん! リビングに二人倒れています!」
早口で叫ぶ声
急いで戻る足音
村上: 「これは……」
息を止める音
「妻と……おばあさんか。同じく腹部を……」
早瀬: 「テーブルの上の食事、手をつけ始めたところで襲われたんでしょうか?」
声が震えている
村上: 「そのようだな。皿が5つある……子どもたちは?」
早瀬: 「まだ見つかっていません」
村上: 「2階を確認するぞ」
階段を上る音、板が軋む音
村上: 「気をつけろ。犯人がまだ潜んでいる可能性もある」
早瀬: 「はい……でも、この異臭からすると……」
吐き気を抑える音
2階の廊下を歩く音
村上: 「この部屋は……」
ドアを開ける音
早瀬: 「子ども部屋ですね。そして……ああっ!」
悲鳴に近い声
村上: 「大翔くんだな……」
声が沈む
「11歳だったか。同じく腹部を…まるで…」
言葉に詰まる
早瀬: 「村上さん、隣の部屋も!」
素早く移動する音
村上: 「陽太くん……窓際で」
深いため息
早瀬: 「どうして子どもまで……」
声が震える
沈黙、拳を壁に打ち付ける音
村上: 「犯行時刻を推定するぞ。死後硬直と体温から……」
声を落ち着かせようとする
早瀬: 「この食事は21日の夕食のようです。新聞も21日までは取り込まれていますし」
村上: 「21日の夜から22日の朝にかけてか……」
早瀬: 「村上さん、玄関は内側からロックされていません。しかし、破壊された形跡もありません。どうやって……?」
村上: 「被害者が自ら開けたのか、あるいは犯人が鍵を持っていたのか……」
早瀬: 「足跡のパターンから、犯人は一人のようですね」
村上: 「だが、一人の犯人が5人を同時に制圧するのは難しいはずだ。何か不自然だな……」
早瀬: 「このような切り方、現代の医学では考えられないような……」
村上: 「ああ、警察の鑑識でも見たことがない切開方法だ。それに、全員の腹部に両手を入れて何かを探した形跡がある。何を探していたんだろうな……」
現場写真を撮る音
早瀬: 「これだけの惨劇なのに、近所の人は誰も物音に気づかなかったんですよね」
村上: 「あの晩は雨が降っていたらしい。窓も閉めていれば、聞こえなかったのかもしれんな」
村上: 「早瀬」
早瀬: 「はい?」
村上: 「さっきから気になるんだが、この家の温度、どんどん下がっていないか?」
早瀬: 「そうですね。入った時からずっと気になっていました。温度計を見てみましょう」
移動する足音
早瀬: 「えっと……室温、マイナス2度……?」
驚きの声
「これおかしいですよね?外気温は今10度ほどあるのに」
村上: 「空調の故障か?」
スイッチを押す音
「電源は入ってないな…」
早瀬: 「エアコンのせいではなさそうです。他の温度計で確認してみます」
引き出しを開ける音
早瀬: 「こちらの温度計も同じくマイナス2度です。計器の故障ではなさそうです」
村上: 「ああ、極端に冷え込んでいる。冷蔵庫やエアコンの故障でもない限り、説明がつかん」
早瀬: 「2階も測ってみましょうか?」
村上: 「そうだな、お願いする」
足音、階段を上る音
早瀬: 「村上さん! 2階の子ども部屋ではマイナス4度を示しています! 1階よりさらに2度低いです!」
驚きの声
村上: 「それは物理的におかしいな……通常、冷気は下に溜まるはずだが……」
早瀬: 「大翔くんの部屋の方が特に冷えています……関係あるんでしょうか……」
村上: 「……わからん。だが、大翔くんの部屋で何を調べていたのか、詳しく調査する必要があるな」
足音、物を探る音
早瀬: 「村上さん、机の上にノートがあります」
紙をめくる音
村上: 「見せてみろ」
紙を受け取る音
村上: 「これは……八咫山での観察記録か。生物のスケッチもある。なかなか詳細だな」
早瀬: 「ノートの後半部分がかなり傷んでいますね。水に濡れたのでしょうか?」
村上: 「山での観察だからな、雨に濡れた可能性もある。この子は熱心に研究していたようだ」
早瀬: 「村上さん、ノートの片隅に何かメモが……『言い伝え』『禁忌』……何のことでしょう?」
村上: 「地元の伝説について調べていたのかもしれんな。子どもの好奇心だろう」
早瀬: 「村上さん、ある特定のページだけが破り取られています。意図的に取り除かれた形跡があります」
村上: 「……犯人が何か証拠を隠したのか?この事件、ただの殺人事件とは違う気がする」
早瀬: 「……村上さん、正直に言うと、この家の雰囲気、尋常じゃないです」
声が震える
村上: 「ああ、わかっている。だからこそ、専門家の力を借りる必要があるな」
早瀬: 「どのような専門家ですか?」
村上: 「上級捜査班に特殊犯罪分析官がいる。彼らに相談してみる必要があるだろう。あとは……こういった異常現象に詳しい民間の専門家もいるらしい。九条コンサルティング事務所といったか……」
早瀬: 「九条コンサルティング事務所? 聞いたことがありません」
村上: 「ああ、県警本部の橋本警部が以前、不可解な事件で協力を得たと聞いた。超常現象や説明困難な事件の分析を専門にしているらしい。所長の九条了氏と助手の桐沢瑠璃氏は、民俗学や犯罪心理にも詳しいとか」
無線機の操作音
村上: 「本部、こちら村上。鷹井家の現場検証を続行中。状況は最悪だ。5名全員の死亡を確認した。応援と特殊班の派遣を要請する。それと……」
ノイズが入り、一部聞き取れない
村上: 「……特殊犯罪分析の専門家の派遣も検討してほしい。九条コンサルティング事務所への相談も考えるべきかもしれない」
早瀬: 「村上さん、あの……窓に何か映っています。人影のようなものが……」
声が上ずる
村上: 「何? どこだ?」
突然の物音、ガラスが割れる音
早瀬: 「うわっ!」
驚愕の声
村上: 「何が起きた?」
急ぎ寄る足音
早瀬: 「い、今、窓ガラスが……勝手に割れました!何も当たっていないのに!」
パニック気味
村上: 「早瀬、落ち着け! 室温の異常低下、ガラスの自然破損……これは通常の現象ではない」
無線機を操作する音
村上: 「本部、緊急事態発生。現場に異常現象あり。直ちに特殊班の派遣を要請する。それまでは我々は安全のため現場外で待機する」
早瀬: 「村上さん、すぐに出ましょう!」
急ぎ足の音
村上: 「早瀬、すぐに家の外に出るぞ!」
急いで移動する足音、ドアを開ける音、荒い呼吸音
早瀬: 「息が……白い……部屋の中、更に温度が下がっていました…」
震える声
村上: 「何が起きているんだ……」
深いため息
早瀬: 「村上さん、あの家……普通じゃなかったです」
声が震える
村上: 「ああ、わかっている。だからこそ専門的な捜査が必要だ。高岡署長に報告して、九条コンサルティング事務所への協力依頼も検討すべきだな。あの事務所なら、こういった異常現象も説明できるかもしれん」
早瀬: 「そう、ですね…」
まだ震える声
村上: 「とにかく、この事件は単純な殺人事件ではない。何か…我々の理解を超えたものが関わっているようだ」
音声記録終了