09 VSエルフ
☆前回のあらすじ☆
オコテリスの森を
たくさん歩いたら、
ノヒン国の人を
夢中にさせた
エルフに出会えました。
ざわめきが広場を埋め尽くしていた。
エルフの里の中央、大木に囲まれた開けた場所には、三十名程のエルフたちが円を描いて立ち、好奇の視線をこちらに注いでい老若男女問わず、皆が目の前の一線を心待ちにしているようだ。
「いったい何の集まりだ?」
「プルクラと人間の冒険者さんがアスちゃんを賭けて勝負するみたい」
視線が集中する中、決闘は始まる。
「ルールはシンプルに木剣での打ち合いのみで降参宣言で決着でいいね?」
「わかった」
プルクラは口角を上げ、手慣れた様子で木剣を振って見せる
矢田された木剣を手にした勇者は、重みを確かめながら息をのむ。普段の武器とは違う片手剣を模したものであるためどうも感覚がわからない。勝てる見込みはほとんどない。
「さあ!かかってきな」
「…………」
動けない、プルクラに隙が全く無いからだ。どこから斬り込んでも斬り返される未来しか見えない。
「来ないならこっちからいくぞ!」
風を裂くような音。速い、一瞬で距離を詰められ高速の連撃が襲ってくる。次の瞬間には木剣は目の前だった。防御するが衝撃は腕から肩に響く。
「(どうしよう勝ち筋が見えない)」
木剣がぶつかり合う音と骨を打たれる音が連続で鳴る。観客は固唾をのむ者や応援する者がいるが、いずれにせよ広場は緊張に満ちていた。
「(まずいな…このままじゃ勇者さまが負ける。何とかして勝ってもらわないと)」
アスペラの胸に焦りが募る。勇者が劣勢に押し込まれている様を見て、ついには声が飛び出した。
「ガンバレ-!勇者さま-!」
その叫びがプルクラの混乱、そして勇者の闘志を起こす。
「えっ⁉アスちゃん俺を応援してくれないの?」
「ああ!頑張るよ」
勇者は力強く答えるように木剣を振りかぶった。全身の骨が悲鳴を上げていたが、それでもこの木剣を叩きつける。
「おっ!急に攻めてきたな」
プルクラは面白そうに攻撃を受け止める。そして勇者に応えるように彼の件筋はさらに鋭さを増した。
勇者は慣れない動きで足が絡まり、相手に背を向ける体勢で無様に転んでしまった。
「これで終わり!」
プルクラが全力で打ち込もうと右手を振り上げる。
「(今!)」
勇者は後ろに顔を向けつつ剣をプルクラの剣を持った右手に突きつける。
メキャッ!骨の砕ける嫌な音。剣を全力で振りかぶったプルクラの手は、勢いそのまま、待ち構える切っ先にめり込んだ。
「ぐあっ!」
「形勢逆転!」
怯んだプルクラに対し勇者は容赦なく剣を振る。打ち込みが続き観客から歓声が上がる。
「(いてぇ小指と薬指が逝った!)」
「勝てる!」
打ち込み続け勝負がつくと思われたその時だった。
「舐めるなよ」
プルクラは剣を左手に持ち替え、神速の突きを喉にめがけて繰り出した。その切っ先は一直線に勇者の喉を貫こうと迫る。
「ガヒュ…」
息がつぶれ、勇者は喉が完全に潰れそのまま崩れ落ちた。アスペラが確認すると勇者は気絶してしまっていた。
そして
しばらくして目を覚ますと、激しい言い争いの声が耳に飛び込んできた。ぼやけた歯科医の先でアスペラが何かを訴えている。
「もう一度チャンスちょうだい兄さん!」
「いやしかし…勝負はついたから」
「急所への突きは倫理的にダメでしょ、今の勝負ノーカン!ノーカン!」
「何を騒いでいるの?」
勇者がかすれた声で問いかけると、プルクラは困ったように肩をすくめた。
「冒険に行きたすぎて駄々をこねている」
「そう…なら自分からもアスペラさんを守れることを証明したいので、どうかもう一度チャンスをください」
二人は揃ってプルクラに深く頭を下げた。
「わかった...君がアスちゃんに勝ったら冒険に行くことを認めるよ」
「ありがとうございます」
アスペラと勝負することが決まった。
勝負を始めるため広場に出てふと思ったことをアスペラに問いかける。
「この勝負もしかして八百長出来る?」
「いや~無理だね、兄さんは私の動きや魔法をよく知っているから、手を抜いたらバレるし勇者さまを認めてくれないでしょう」
アスペラは苦笑した。結局真面目にやるしかないようだ。
「さあ!準備はいいですか勇者さま、私は剣の使い方がわからないので何でもありのルールにする。絶対私に勝ってください!」
アスペラが鈍器のような杖を構える。
「わかった」
そう言って勇者はロングソードを抜いた。お互い最悪大怪我するリスクがあり緊張が走る。
「それじゃお互い手を抜かないように」
プルクラの声が響き、広場は静まり返った。
「初め!」
掛け声と同時に全力でアスペラに向かって突進し、思い切りロングソードを振り下ろす。
ガンッ!と衝撃が走り、額の前方で攻撃を防いだアスペラが尻餅をつく。しかし、その手を見て驚く。
「(左腕だけの力で受け止めたのか⁉)」
驚愕する勇者の前で、アスペラは右手で近くに生えている雑草を引き千切り、素早く魔法を詠唱する。
「渦巻く風!」
すると、雑草から放たれた渦を巻いた風によってブワッと二人の間に空間ができ、勇者の体を後方に吹き飛ばした。
「(いてて…どうすれば彼女に勝てるか…)」
また先ほどと同じ様に突進し、剣を振り上げる。するとアスペラは、がら空きになった腹部を鈍器のような杖で殴れるように構える。
「今だ!」
ブワッ!防刃ローブの後ろから大量の粉が吹き出した。
「グホッ…ゲホッ…この胞子、キノコちゃんの⁉」
ワー!ワー!
観客たちが驚きの声を上げ、背中からひょっこりとキノコちゃんが顔を出す。
「どうやって…キノコちゃんは菌糸を伸ばせる場所でないと存在できないはず」
「茹でる前のすいとんに木屑を混ぜて尻ポケットに入れておいた」
勇者は平然と答え、再び剣を持って突進する。そしてアスペラに攻撃する直前、剣から手を離し、右手を腰の後ろにまわす。
「ゴホッ…(剣は視線誘導の囮、あの手はナイフを掴んだか)」
ブン!と右手がローブから飛び出し振り下ろされる直前アスペラはそれを杖で防ぐ。
「ナイフじゃない⁉しまった」
勇者の右手には何も持っていない。はったりで杖を掴むことができた。アスペラは右手の杖でガードし、左手で咳の止まらない口を押さえている。
ズドッ!勇者の強烈な前蹴りがアスペラの腹に突き刺さりアスペラは思わず杖を離してしまう。
「これで決着だ」
勇者は奪った杖を投げ捨て、サバットのファイティングポーズをとる。
「上等!」
アスペラが丸腰で殴り掛かってくる。拳が迫ってくるが、勇者はただ落ち着いて体制を低くする。そして魔法小袋からあるものを取り出した。
カチャ
金属音。魔法小袋からリボルバーを取り出し、跪いてハンマーを起こした。その姿はまるでプロポーズのようであった。
「俺と一緒に冒険に行こう!」
一瞬、広場の時が止まった。そしてアスペラは今まで見せたことのない満面の笑みで答える。
「はい!喜んで!」
プルクラは苦笑しつつも勇者の勝利を認めるのだった。
「一応…勝負アリだな、アスちゃんも村を出てしまうのか…」
その日の夜、エルフの里では自分の歓迎会とアスペラの送別会が同時に行われた。大樹の下では酒樽が空き、歌声が響き渡る。そして酒好きのエルフたちは酒を飲みまくり、次々と倒れていく。明日からは新たな仲間と一緒の冒険が始まる。
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プルクラ
身長 164cm 体重 56kg 属性 赤
固有魔法 無し
アスペラの兄で小柄なエルフの里の住民。片手剣や短剣の扱いが上手だが狩りは下手でよくアスペラに笑われている。