08 そうだエルフの里、行こう。
☆前回のあらすじ☆
ネズミの丸焼きを作った
依頼書を提出したついでに勇者は受付嬢にエルフについて尋ねた。
「エルフの里はこの地図上ではどの辺りにあるかわかりますか?」
受付嬢は少し驚いたように目を瞬かせた後、机の上の地図に視線を落とす。指先で北東を示し、答えた。
「そうですね~ここから北東にあるオコテリスの森の奥地にあると言われていますが、たどり着くのは困難だと思います。真っ直ぐ歩けたとしても一週間ほどかかるかと」
その言葉にはまるで伝説を語る時のような響きがあった。だが場所がある程度分かるなら行ってみるのもいいかもしれない。
「わかりました」
そう言ってエルフの里へいく準備を整え出発する。朝露に濡れた草木の間を縫うように道を進んでいく。
「え~と?しばらく林道を進んで途中から原生林を歩くのか…まあ俺は引退したとはいえ元オリエンテーリング部、なんとか頑張ろう」
説明しよう!オリエンテーリングとは、地図とコンパスを使い自然の中に設置されているチェックポイントを通過し、ゴールするまでのタイムを競うスポーツである。体力と地図読解能力の両方が求められる、意外とハードな競技だ。勇者の胸にはその経験に裏打ちされた奇妙な自信があった。
「…疲れた」
歩き始めて数時間。日は木々に遮られ、日でも薄暗い。湿気が肺にまとわりつき、汗が背中を伝う。足を止め、大木に持たれたその時だった。
「(…囲まれてる)」
茂みを割ってゾロゾロと出てきたのはゴブリンの群れ20体程、それが敵意を向けてこちらに向かってくる。
「やってやんよ!」
森に入る前に弾と雷管は装填してある。ホルスターからリボルバーを抜いて発砲する。
バンッ!
獣性が森を震わせ、白煙が上がる。しかし狙いは外れ、語ブレンたちはひるむどころか逆に唸り声を強めて迫ってくる。
「(クソッ!当たらねぇ)」
それもそのはず、銃本体の重さが2kg程あり、火薬も1発につき2.5gほど使用する銃である。反動は大きく、何より動く的を狙った経験もなかった。
ゴブリン達の容赦ない投石や弓矢による攻撃が続く、勇者もロングソードを抜いて応戦するが気がつくと体中が血塗れになっていた。防刃ローブのお陰で致命傷は避けることが出来ているが、倒れるのも時間の問題だろう。
ゴッ…
「(頭⁉)」
石ころが後頭部を直撃した。力が抜けて地面が迫る。最後に目に映ったのは気味の悪い表情で迫すゴブリンの群れだった。
〜数時間後〜
ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ
森の奥に、奇妙な声が響いていた。気がつくとキノコの妖精?のような存在が自分の体を頭の上に持ち上げ何処かに運んでいる。
「(なんかいっぱいいるし…けど、傷が塞がっている。このキノコが治してくれたのか?)」
そんなことを考えていると腹が鳴った。森に入ってから何も食べていない、もう胃の中がすっからかんだ。
「一旦おろしてくれ」
ドサッと地面に卸される。妖精たちはこちらを見上げているのだろうか、こちらを見ているような気はするがキノコたちには目がないので何とも言えない。
「ありがとうキノコ、美味しいご飯作るからちょっと待ってて」
早速調理を開始する。オリスクの店で買っておいた小麦粉と乾魚を取り出し、小麦粉は水と塩でを混ぜてこねる。そして乾魚で出汁をとったスープの中に生地をいれる。
ドーゾ、ドーゾ
キノコの妖精達がフキやゼンマイのような山菜を抱えて採ってきてくれた。
「ありがとう、でも気温が上がってきたからちょっと固いかもしれないね」
山菜を適当な大きさに刻み、鍋でグツグツと煮込むとすいとんが完成した。
「よし!お椀買い忘れたからみんなで直食いだ!」
ワーイ、ワーイ、ウマイ、ウマイ
キノコの妖精たちは頭を鍋に突っ込んで食べている。キノコの出汁が出るだけならまだいいが、独はないだろうか。
「ところで俺をどこに運んでたの?」
キノコ達が顔を合わせ首をかしげる。
アスペラ!アスペラ!
「アスペラ?そこには何があるの?」
エルフ!エルフ!
「あ~もしかしてアスペラって名前のエルフのいるところに運んでたのかな?」
ソー!ソー!
「よし、食べ終わったら案内してよ俺も歩くからね」
何故意思疎通ができるのだろうか、そんなことはもはやどうでもいい。食事を終えるとみんなでエルフの里に向かって再び歩き始める。5日間キャンプしながら進むとついにエルフの里が見えてきた。
「(文明の利器である銃は魔法小袋の中に仕舞っておくか…)」
一方、エルフの里の中では。
「長老様、あれはお客様でしょうか?」
「わからぬ、じゃが歓迎の準備をしよう」
森の中から現れた男、つまり勇者はエルフの里に入る。
「すみませ~ん!お尋ねしたいことがあって来ました~」
「こんにちは人間さん、こちらへどうぞ」
エルフの里の一番奥にあるツリーハウスの中に案内された。中では老いたエルフの長老が座っている。
「冒険者がここに何の用じゃ?」
「このメモを書いた方を探しています」
胸ポケットに入っていたメモを取り出して見せた。するとエルフの長老は目を細める。
「あ~この筆跡はアスペラじゃな」
「会うことはできますか」
「それはもちろん、里の入り口近くの家にいるはずじゃ」
里を歩いていると、争いの後のような所々破壊された場所を修復した形跡がある。そして、少し歩くと里の入り口に近い家が見える。
「ここかな?」
コン コン コン
「は~い」
ドアのノックするとエルフの少女、アスペラが出てきた。
「…オバケじゃないよね」
「もちろん。オバケの友人はいるけどね」
アスペラは驚いたような顔をしていたが家の中に入るように促された。
「まさか生きてるとは…ここに来たということはメモを見てくれたんだね」
「なんて書いてあるのか読めなかったけど」
「字が読めないのか?」
「いや…少しは勉強したけど字体がネイティブすぎて読めない」
「誰かに読んでもらえばよかったのに」
「エルフだし何か他人に読まれたくない内容の可能性もあったから」
「ははっ、勇者さまは丁寧だな~」
「(何かバカにされているような…。それにメモを書く余裕があったなら逃げればよかったのに)」
「まあメモの内容は『もし生きていたら一緒に冒険に行きたい』って感じさ」
談笑をしているとなにやら慌ただしい足音がそとから近づいて来る。
「ちょっと待った-!」
大きな声と共に飛び込んできたのはアスペラの兄であるプルクラだった。
「ちょっと兄さん!いい加減冒険に行かせてよ!」
「(何か兄妹喧嘩が始まりそう)」
実際この後の喧嘩は凄まじいものだったアスペラは里の外で自由に過ごしたいと。そして兄は里に残ってほしいと。ドッタンバッタン大騒ぎだった。
「…あっ喧嘩終わりました?」
「ああ、急に声を荒げてすまなかった。少し前からダークエルフと争いがあってピリピリしていてね…」
「大丈夫ですよ。それより妹さんとの話し合いは済みました?」
「アスペラももう立派な戦士だ、冒険に行くことは認めるよ」
「「わ~い」」
アスペラは飛び跳ねるように喜び、こちらもつられて笑ってしまった。
「ただ一つ条件がある、君の力を見せてもらうよ、もし君が僕に勝てなかったらアスちゃんは諦めてね」
「兄さん、ケチなこと言わないでよ」
「仕方ない、アスちゃんのために頑張るか…」
「アスちゃんではない!」
こうしてアスペラの兄であるプルクラとの決闘が決まった。
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アスペラ
身長162cm 体重54kg 属性 緑
固有魔法 無し
正義感の強いエルフ。里からあまり離れるなと言われていたがよく遠くまで狩猟に行っていた。胸は無い